見出し画像

記憶の宝箱

🍊第46回 3つのお題(昭和ノスタルジー)
🎈お題①:「ポケットの中の10円玉」
🐾お題②:「濡れたランドセル」
⏳お題③:「消えていった夏」

お題④イラストから空想した世界を書いて下さい。

🌇まえがき

ポケットの中の10円玉。
濡れたランドセル。
そして、消えていった夏――

何気ない日々の中に、
大切な記憶はそっとしまわれていきます。

これは、ひとつの「宝箱」のお話です。


📖本文

タイトル:記憶の宝箱


第一章 ポケットの中の10円玉

夕暮れ時。
いつもの駄菓子屋は、今日はもう閉まっていた。

僕はポケットの中の10円玉を取り出した。
――もう、あれは買えないのか。

石ころを蹴とばす。
転がっていく石を、ただぼんやりと見つめていた。

家に帰ると、部屋の灯りはなく、
暗い玄関は、外の街灯の明かりで少しだけ照らされていた。

「お腹すいたな……」

ランドセルを置き、上着をハンガーにかける。
黒猫の佐助が、足元にすり寄ってきた。

「お前も腹減ったな。
 おとうさん、今日も遅いかな。」

机の上には、今日の宿題。
僕の苦手な作文。

題名は――「おかあさん、ありがとう。」

僕には、おかあさんがいない。
小さい頃に病気で亡くなった。

覚えているのは、写真の中で笑う姿だけだ。

おとうさんに話を聞こうとすると、
いつも言葉に詰まるから、僕は聞かないようにしていた。

そのとき、遠くからチャルメラの音が聞こえてきた。
同時に、僕のお腹も鳴る。

ガラガラと玄関の開く音。

「洋平、チャルメラ食べるか?」

「うん!」

急いで玄関に出ると、
少し顔を汚したおとうさんが立っていた。

今日は給料日。

なぜかその日は、
いつもタイミングよくチャルメラがやってくる。

僕は作文のことを忘れて、
おとうさんと一緒にラーメンを食べた。


イラスト:ChatGPT

第二章 濡れたランドセル

次の日は、朝から雨だった。

おとうさんは現場が休みで、家にいた。

「休みたいな……」

そう言うと、おとうさんは笑った。

「休んでもええけど、理由はなんにする?」

「風邪ひいたとか?」

「嘘はあかんな。」

「じゃあ、おとうさんと一緒におりたいから。」

「それは先生に言うの、恥ずかしいなぁ。」

僕は少し考えて言った。

「……わかった。学校行くよ。」

「ああ。帰ったらカレー作っとく。」

「ほんと?僕、おとうさんのカレー好き!」

僕は傘をさして、学校へ向かった。

濡れたランドセルから、ぽたぽたと水滴が落ちる。

教室に着いて、
作文を書いていないことを思い出した。

始業まで、少し時間がある。

僕は、おかあさんのことを思い出しながら書いた。

――そして、授業参観の日。

教室の後ろには、たくさんのおかあさんたち。
その中に、おとうさんの姿があった。

僕の順番が来る。

「記憶の宝箱」

僕は、おとうさんとの日々を書いた。
おかあさんの思い出は、おとうさんの中にあること。
それを聞けずにいる自分のこと。

読み終わると、教室は静まり返った。

おとうさんは、うつむいていた。

やがて、拍手が起こる。

目頭を押さえるおかあさんたち。
担任の先生も、どこか涙ぐんでいた。

僕は、その日のことを忘れない。
記憶の宝箱に、ちゃんとしまったから。


第三章 消えていった夏

夏休み。
僕は毎朝、ラジオ体操に通った。

おとうさんは、日が沈む頃に帰ってくる。

ある日、いつもより人が少なかった。
お盆で、みんな帰省しているのだ。

その日、おとうさんは久しぶりの休みだった。

二人で、おかあさんのお墓参りに行った。

都会の小さなお寺。
そこに、おかあさんの位牌がある。

おとうさんは、長い時間話しかけていた。

僕のことも、話していたのかな。

帰り道、
おとうさんの目は、少しだけ潤んでいた。

――それから、長い年月が過ぎた。

僕が大学を卒業し、社会人になった頃、
おとうさんは、おかあさんのところへ行った。

ラジオ体操をしていた空き地は、
今はもうない。

ビルとビルの間に、
あの夏の記憶だけが残っている。

僕の「記憶の宝箱」には、
おとうさんとの思い出が、ぎっしり詰まっている。

「おとうさん、ありがとう。」


イラスト:ChatGPT

🌸あとがき

思い出は、形のない宝物です。
いつのまにか心の中にしまわれて、
ふとした瞬間に、優しく光ります。

大切な人と過ごした時間は、
決して消えることはありません。

それはきっと、誰の心の中にもある
「記憶の宝箱」なのだと思います。


いいなと思ったら応援しよう!

片桐 みかん よろしければ応援お願いします😊これからも続けていく”未来の種”になります。よろしくお願いします。(❁´◡`❁)