鬼が泣いた夜
🍊第40回 3つのお題(日本むかし話)
🎈お題①:「山姥の台所」
🐾お題②:「鬼が泣いた夜」
⏳お題③:「天狗の下駄」
お題④イラストから空想した世界を書いて下さい。
鬼が泣いた夜
むかしむかし、
山に囲まれた小さな村に、与作という若者がおりました。
与作は働き者で、村の誰からも好かれておりました。
そして、村にはお花という心優しい娘がおりました。
与作とお花は、いつか夫婦になろうと約束しておりました。
ところがその村には、庄之助という金持ちの息子がおりました。
庄之助はお花の美しさに心を奪われ、どうしても自分の嫁にしたいと思ったのです。
庄之助は山奥に住む山姥のもとを訪ねました。
「どうか与作を、お花と結ばれぬようにしてくれ。」
山姥はにやりと笑い、こう言いました。
「よかろう。だが人の運命は、そう簡単には変えられぬぞ。」
その夜、山姥はお花の姿になり、与作の家を訪ねました。
「与作さん、体が冷えたでしょう。
温かいスープを作ってきました。」
与作は疑いもせず、そのスープを飲みました。
その瞬間、与作の体はみるみる変わり、
恐ろしい鬼の姿になってしまったのです。
与作は自分の姿を見て、言葉を失いました。
「こんな姿では……お花に会えぬ。」
与作は村を離れ、山深く姿を消しました。
ある夜のこと。
山の奥で泣いている鬼を見つけた者がおりました。
それは天狗でした。
天狗は言いました。
「おぬし、なぜ鬼の姿で泣いておる。」
与作はすべてを話しました。
すると天狗は言いました。
「滝の奥に祠がある。
そこにある天狗の下駄を持ってこられたなら、
元の姿に戻してやろう。」
与作は何度も滝に流されながら、
ついに滝の中へと入りました。
そこには金貨や宝が山のようにありました。
けれど与作は、
それらに目もくれませんでした。
ただひたすら、天狗の下駄を探しました。
やがて、祠の奥でそれを見つけました。
その時でした。
「与作……久しぶりじゃのう。」
振り向くと、そこには山姥が立っておりました。
山姥は祠のそばで、怪しいスープを作っておりました。
「その下駄を持っていっても、元には戻れぬぞ。」
「それより、このスープを飲めば、
元の姿に戻してやろう。」
与作は迷いました。
元に戻れば、お花に会える。
けれど……
山姥は、にやりと笑いました。
「明日、お花は庄之助と祝言じゃ。」
その言葉を聞いたとき、
与作の手から天狗の下駄が落ちました。
与作は静かに言いました。
「……ならば、もういい。」
「お花が幸せになるのなら、
私は鬼のままでよい。」
その夜、山奥から
鬼の泣く声が聞こえたと言われています。
それは悲しい声で、
山も川も静かになったほどでした。
それから何年もたちました。
ある晩、お花は夢を見ました。
山の中で、
鬼がひとり泣いている夢でした。
その鬼の目には、
やさしい涙が流れておりました。
お花は夢の中で、こう言いました。
「与作さん……」
すると鬼は、
静かに笑ったそうです。
それ以来、
満月の夜になると、
山の奥から、
鬼の泣く声が聞こえると言われております。
その鬼は、
人を恨むことなく、
ただひとりの娘を想い続けた鬼だったのです。
おしまい。

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