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「色眼鏡」アマノ文筆クラブ

アマノ文筆クラブの企画参加作品

色眼鏡

私は骨董市を見て回るのが趣味というか、道楽だ。

妻からは、
「そんなガラクタにお金をつぎ込んで」
と、いつも不満をぶつけられる。

だが、私にとってはガラクタではない。
どれも歴史を刻んできた、妻より愛おしい宝物だ。
この気持ちは、一生妻にはわかるまい。

ある日、いつものように骨董市を歩いていると、「色眼鏡」と書かれた札が目に入った。

「色眼鏡が売っているのか?」

私が尋ねると、店主はにやりと笑った。

「いらっしゃいませ。お目が高い。お気づきになりましたか。」

「その色眼鏡を見せてくれ。」

「もちろんでございます。」

店主は木箱を開け、大切そうに一本の眼鏡を差し出した。

「ただし、ひとつだけ約束があります。決して、見えたものを口に出してはいけません。」

「……わかった。」

私は眼鏡をかけた。

すると、骨董市の客の口は動いていないのに、頭の中へ次々と言葉が流れ込んでくる。

「こんなガラクタが一万円? ぼったくりじゃねえか。」

「私、あなたなしでは生きられない。」

「美しい……あなたのような人は初めてだ。」

どれも口にしている言葉ではない。
心の奥底にしまっている本音だった。

私は慌てて眼鏡を外した。

「お気に召しましたか。」

店主は静かに尋ねた。

「いや……素晴らしい品だ。だが、私には分不相応だ。」

店主は微笑みながらうなずいた。

「人の心は見えないからこそ、人との縁は成り立つものです。またいつでもお越しください。」

「ああ、邪魔したな。」

私は、人の心をのぞいてみたいという誘惑を必死に振り払いながら家へ帰った。

「ただいま。」

「お帰りなさい。あら、今日は何も買ってこなかったの?」

妻は少し照れくさそうに笑った。

「今朝は言い過ぎたわ。あなたの好きな骨董市なんだから、楽しんできていいのよ。」

私は、ふと迷った。

そして――

色眼鏡を、妻にかけてしまった。


イラスト:ChatGPT

アマノ文筆クラブのお題に書かせて頂きました。
お題をありがとうございます。


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