おつかいの帰り道
🍊第51回 3つのお題(昭和ノスタルジー)
🎈お題①:「雨の日の長靴」
🐾お題②:「おつかいの帰り道」
⏳お題③:「線香花火」
お題④イラストから空想した世界を書いて下さい。
まえがき
昭和の子どもたちは、おつかいを頼まれることがよくありました。
豆腐屋さんや八百屋さんへ行き、帰り道には駄菓子屋さんに寄り道をする。
そんな何気ない日常の中にも、忘れられない思い出があります。
これは、さっちゃんと、いとこの渉くんのお話です。
本文
さっちゃんは、おつかいの帰り道に駄菓子屋へ寄りました。

お小遣いでイモ飴を買い、お兄ちゃんたちの分も足りるかなと思いながら、お豆腐の入った袋を落とさないよう急ぎ足で家へ向かいました。
家に帰ると、いとこの渉くんが遊びに来ていました。
「さっちゃん、ひさしぶり。元気にしとった?」
「うん。あたいはいつも元気。」
「そら良かった。しばらくこの家にお世話になります。」
「渉くん、大歓迎。」
遠くでお母さんが呼んでいます。
「あ、お豆腐持っていかなきゃ。」
するとお兄ちゃんが言いました。
「今夜、ご飯が終わったら線香花火せーへんか。」
「お、いいな。」
「あたいもする。」
「特別に許したる。」
「もう、危ないて言うてさせてくれへんの。」
「渉くんもいるから、今夜はいいぞ。」
その夜、みんなで線香花火を楽しみました。
小さな火の玉が落ちるまで、誰が一番長く残るか競争しながら笑い合ったのです。

次の日は雨でした。
さっちゃんは長靴を履いて学校へ行きました。
帰り道、水たまりを見つけては、ばちゃばちゃと飛び込んで遊びました。
ところが、勢い余って長靴の中に水が入り、靴下はびしょびしょです。

「あー、お母さんに怒られるかな。」
そう言いながら玄関を開けると、居間から話し声が聞こえてきました。
渉くんのお母さんが入院中に亡くなったこと。
そして、渉くんをどうするかを両親が話し合っていたのです。
渉くんは母子家庭でした。
お母さんだけが家族でした。
「渉くん、かわいそう…」
そうつぶやいた瞬間、涙があふれてきました。
「えーん、えーん。」
大きな声で泣いてしまったのです。
お母さんは優しく言いました。
「渉くんのこと心配したんやろ。」
「うん…。」
「大丈夫や。渉くんのお母さんのお兄ちゃんが引き取ってくれることになったんよ。」
「ほんま? 渉くん、一人やないのね。」
「うん。ただな、アメリカへ行くんよ。」
「え、アメリカに?」
「そう。明後日出発するんや。」
明後日。
その言葉が胸に刺さりました。
安心した気持ちと、離れてしまう寂しさが入り混じって、心の中はぐちゃぐちゃでした。
渉くんが出発する日。
さっちゃんは大切にしていたハンカチと手紙を渡しました。
「元気でね。」
「うん。」
それが最後に交わした言葉でした。
あとがき
あれから長い年月が過ぎました。
線香花火をした夜も、雨の日の長靴も、おつかいの帰り道も、今では遠い思い出です。
渉くんは元気にしているだろうか。
そんなことを時々思い出します。
その時でした。
玄関の戸がガラガラと開きました。
「すいません、渉です。」
懐かしい声が聞こえました。
長い時間を飛び越えて、あの日の思い出が一気によみがえったのでした。
おしまい。
※この物語はフィクションです。
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