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溜め息と余韻の中で

いつもの場所に座っての企画参加作品

まえがき
──映画のフィルムを巻き戻すように。
ふと立ち寄った喫茶店で、あの人の笑い声が心の奥で再生される。
変わらない椅子、変わらないカップ、変わってしまったのは、私だけ。
そんな静かな午後の物語です。


本文
彼と二人で来た喫茶店。
いつもの場所に座って、いつものカフェオーレを注文する。
向かいの席に彼はいない。ここに来たのは3年ぶり。

喫茶店は昭和の香りを残し、まだ健在だ。
マスターも「お、生きとったか。心配してたんだよ。」と優しく声をかける。
彼のことはあえて尋ねない、その沈黙に優しさを感じた。

温かなカフェオーレを冷ましながら口に含む。
喉から流れるその味は、あの時間を静かに流していく。
彼はいつもブラックコーヒーを注文して、砂糖を2杯、そしてミルクをたっぷり入れた。

「そんなに入れたら、ブラックコーヒーがカフェオーレになっちゃうじゃない。」
そう言うと、彼は笑っていた。
「カフェオーレとは違う、これは僕のオリジナル、ミルクコーヒーなんだ。」

あの笑顔を思い出すのが辛くて、ここに来るのに3年かかった。
カフェオーレを飲み干し、ふと窓の外を見ると、
今年初めての雪が、静かに舞っていた。

イラスト:ChatGPT



あとがき
この作品は、時間の流れの中で「変わらない場所」が持つ不思議な力を描きました。
誰にでも、心のどこかに“いつもの場所”があります。
そこに戻るたび、もう会えない誰かの笑顔が、ふっとよみがえる。
そんな一瞬の温もりを、映画のワンシーンのように残してみました。

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