返せなかった本
🍊第55回 3つのお題(昭和ノスタルジー)
🎈お題①:「返せなかった本」
🐾お題②:「小さな噓」
⏳お題③:「卒業写真の片隅」
お題④イラストから空想した世界を書いて下さい。
「あー、また本、返せんかった。」
卒業式まで、あと三日。
慎ちゃんに告白なんて、絶対できん。
だって慎ちゃんには好きな子がおる。
あたい、見たんだ。
放課後、校庭の桜の木の下で、慎ちゃんが顔を真っ赤にして手紙を渡していたのを。
「慎ちゃん、あの子のこと好きやったんだ……。」
あたいのこと、少しは好きなんかもって思ってたのに。

「おい、美咲、本、返して。」
「う、うん。家に忘れたから、明日持ってくる。」
「明日は忘れるなよ。」
「うん。」
本はずっと、あたいのカバンの中に入っていた。
それでも、小さな嘘をついた。
なんでやろ。
返してしまえば、それで終わるのに。

卒業写真が届いた。
箱を開けると、少し離れた場所で暗い顔をして写っているあたいがいた。
慎ちゃんは真ん中で、歯を見せて笑っている。
「あほ。」
そう言いながら、写真の慎ちゃんの顔を指で、ぱちんとたたいた。
「もう卒業やもんな……。」

あたいは、本をもう一度開いた。
裏表紙に、鉛筆で書かれた文字が目に入る。
『美咲へ。卒業しても俺のこと忘れるなよ。
彼氏は作るな。
俺が大学卒業したら、プロポーズに行くから。
慎一』
「なん、これ……。」
「あいつ、からかっとるんやな。」
次の日。
あたいは慎ちゃんに本を返した。
「全部読んだ?」
「うん。」
「感想は?」
「……良かった。」
「そうか。」
それ以上、お互い何も言わなかった。
卒業式の日。
慎ちゃんは笑って言った。
「迎えに行くから、待っててや。」
そう言い残し、東京へ旅立っていった。
あたいは、本の裏表紙に小さく書き足した。
『あたい以外の女の子に現を抜かしたら、ただじゃおかないから。
美咲』
もうすぐ、四年目になる。
そろそろ、あいつとの約束の日や。
おわり
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