過去からの手紙
シロクマ文芸部企画参加作品
まえがき
「古本を」というお題から生まれた物語です。
古い本を開くときの、あの独特の匂いや黄ばみは、まるで時代を超えた扉のように感じることがあります。そこに忍ばされた一通の手紙から広がる、切ない恋の記憶を描きました。
本文
過去からの手紙
古本を開くと、黄ばんだ手紙が一枚、するりと落ちた。
知美はそれを拾い、古本屋の店主に見せてみた。
「何て書いてあるのか分かりませんね。良ければ、その古本と一緒に持って帰ってください。」
家に戻った知美は、本よりも手紙が気になった。書体から見て、室町時代のもののように感じられた。大学にいる友人に鑑定を依頼することにした。
ひと月が過ぎ、研究室に呼ばれた知美に友人は言った。
「これは実に興味深い内容です。どこで見つけたのですか?」
知美が事情を話すと、友人は手紙を見つめながら続けた。
「名もなき詩人が恋人に送った恋文です。結ばれることはなかったのでしょう。相手の愛を抱きながら生きていく、その切なさが綴られています。けれど、この詩人の名前はどの文献にも見当たりません。……きっともう一通、返事の手紙があるはずです。」
さらに三ヶ月が経ち、友人は震える声で告げた。
「見つけました。その返事の手紙。僕の見解ですが、これは確かだと自信があります。論文にまとめてもいいですか?」
「もちろん。できたら、読ませてね。」
やがて半年後、「過去からの手紙」という名の論文が完成した。
そこには、身分の差で結ばれなかった二人――名もなき詩人と有名な詩人との、時を越えた愛が綴られていた。

あとがき
古本を開いたときに舞い込んでくるものは、ただの紙切れや埃ではなく、誰かの想いそのものかもしれません。
遠い過去の声に触れる瞬間、私たちは時を超えて「愛の続きを読む読者」になっているのだと思います。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・出来事とは関係ありません。
シロクマ文芸部のお題に書かせて頂きました。
お題をありがとうございます。
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