眠れない龍のための子守唄
まえがき
三つのお題から生まれた物語です。
🍊第36回 3つのお題
🎈お題①:「星を釣る漁師」
🐾お題②:「風に名前をつける少女」
⏳お題③:「眠れない龍のための子守唄」
お題④イラストから空想した世界を書いて下さい。
森の奥で、ひとり眠れない龍がいました。
その涙は、やがて川となりました。
もしよろしければ、静かな森を思い浮かべながらお読みください。
本文
森の奥に、小さな川が流れ
そこには、子どもをなくした龍が暮らしていた。
龍は毎晩泣いていた。やがて、
その涙が川となり、森を濡らしていた。

ある晩、星を釣る漁師がやってきた。
「子どもをなくすのは辛いことや。でもな、あんたが病気になったら、子どもさんはもっと辛いと思うで。よかったら、これをお守りに持っていなさい。またここを通るときに返してくれたらええ。」
そう言うと、漁師は闇の中へ消えていった。
龍は袋を開けた。
中には星のかけらが入っていて、きらきらと光っている。
一つ、川へ落としてみた。
その瞬間、不思議なことが起きた。
川は音楽を奏ではじめた。
「悲しみよ、やさしく眠れ
さみしくないよ
僕はそばにいる」
龍はまた一つ、星を落とした。
同じ歌が、やわらかく流れた。
星はやがて、すべて川に溶けてしまった。
けれど、悲しい気持ちは少しだけ小さくなっていた。
その夜、龍は久しぶりに眠りに落ちた。
数日後、星を釣る漁師が再び現れた。
「全部なくしてしまいました。」
龍が詫びると、漁師は笑った。
「あれは、眠れない龍のための子守唄や。眠れたなら、それでええ。」
龍は深く頭を下げた。
漁師はまた来ると言い残し、去っていった。
龍の川は、少しずつ小さくなっていった。
森にも、ようやく春の気配が訪れた。
そこへ、春の風とともに少女がやってきた。
風に名前をつける少女だった。
「ここは、まだ春が遠いわね。あなたの悲しみが、春を拒んでいるの。」
龍は黙っていた。
「あなたの子どもは、春が好きだったでしょう?」
「はい。春に咲く花の上を飛ぶのが好きでした。」
少女はやさしく微笑んだ。
「あなたの目の中に、子どもは住んでいるのよ。見せてあげなきゃ。高原には、たくさん花が咲いているわ。さあ、子どもと一緒に行くのよ。」
そう言うと、少女は風とともに姿を消した。
龍は大きな羽を広げ、高原へ向かった。
そこには、色とりどりの花が咲き、龍をやさしく迎えていた。
龍は高原をゆっくり飛びながら語りかけた。
「見える?あなたの好きな花が、こんなに咲いているよ。
あなたが私の中に生きている。
今は、そう思える。
もう、泣かないわ。」
龍は空を大きく旋回し、
やがて春の風の中へ溶けていった。

あとがき
悲しみは、消えるものではなく、形を変えていくものなのかもしれません。
星は歌になり、
涙は川になり、
風は春を運ぶ。
もし、あなたの森にも眠れない夜があるなら、
どこかで星を釣る漁師が待っているかもしれません。
そして、風に名前をつける少女も。
今日も、やさしい眠りが訪れますように。
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