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4330文字の恋愛小説(多分)続きはない。見切り発車の物語は滑落する

見本みたいなやつ。でもさ、人生って「終わった」と自分で認知することないよね。死んでるんだから。きっと私の妄想で動かされた彼ら、彼女らはまた身勝手に気が向いたら動き始めて、その片鱗を私に見せてくるんだと思う。同じ人じゃないかもしれないけれど。というわけで、唐突に物語は動き出し、失速し、止まる。それでも良ければお暇潰しにどうぞ。


初めて彼女の姿を僕が認識したのは、寒空の2月の公園だった。バイトに行く途中にあるそこそこ大きな公園。小さな女の子を連れていて目の前のハトに餌をやりたい子供と道徳的観点から「いけない」といいたいけれど、どこか迷っている母親といった感じだ。
僕はこのあとバイトがあって、事の成り行きは気になるもののその場を通り過ぎた。というのも僕も子供の頃母とそういった問答があったからだ。母は常に「いけない」という人だった。僕のやりたいことも、僕が欲しい物も母は「いけない」といった。大人になるにつれ反発心を起こした僕は家を出ることを夢に見、それは現実のものとなっている。

バイト先は近くのコンビニで店長はいつも「禁煙」と書かれたバックヤードで煙草をふかしている。店長といっても本社から派遣された雇われ店長でインセンティブはあるもののあまり売上向上に興味がなく、いかに労働基準法を守れるかが昨今の興味らしい。
「お疲れさまでした。」
バイトを終えて店の外に出ようとする。入れ違いに小さな男の子が入ってくる。うちの常連だ。駄菓子を買いに来ている。それだけなら別に普通だが、それは3日に一度必ずあって、その時だけ父親と思しき男が一緒で店の外にいる。子供は毎回300円分の駄菓子を購入して帰り、それ以外の日は母親と思しき女性と店の前を通るだけだ。店に入ることはないし、母と父を連れて訪れることはない。偶然かもしれないが歪な歪みを感じてしまうのは、僕の家が家庭内別居みたいな感じだからかもしれない。
一緒に住んでいるからって誰もがみんな仲良しとは限らない。夫婦が離婚に至らないだけ。兄弟は顔を合わせないようにしているだけ。今でこそ家を出ている僕だって家にいる時はあえて生活時間をズラして家族との会話をさけていた。わざわざ傷つけあってまで価値観をすり合わせ、無理して笑いあうのが仲の良い理想の家族ならそんなものは僕はいらない。

翌日もバイトに向かう途中、彼女を見かけた。連れている女の子は今日はご機嫌だった。ハトに餌をあげたのか、ふと気になって聞きたくなったが、見ず知らずの男がそんなこと聞いてきたら怖すぎる。変質者と思われるかもしれないし、そのまま彼女たちの横を通り過ぎた。

今日もバイト先の仕事は単調で特に変化がない。新聞を買って小銭を置く近所のおじいちゃんは急ぎ足でその年齢になってまで何をそんなに急いでいるのかわからない。その足で行く近くの公園で日がな1日買った新聞を広げているだけのように思えるが、もしかしたらエージェントか何かで世界の平和を守っているのかもしれない。そんな妄想を繰り広げながら品出しやらレジ打ちやらしていれば、あっという間に数時間たっている。
「お疲れ様でした。」
そんな僕の日常がこの先何十年も続くのだろうか。それとも僕がふいに思い立って人生の方向転換をするのだろうか。他人の生活や人生を妄想するのは得意なのに、自分の人生はちっとも思い浮かばない。

そんな単調な毎日の中で無意識に新しいルールが加わっていることに気づいたのはゴールデンウイークが終わる頃だった。バイト先に行く途中、ふと公園に彼女たちの姿がないか探している自分に気づいてしまった。その日はここ数日見かけていた彼女たちが居なくて、なんとなく公園自体も人が少ないように感じて日付を確認したらゴールデンウイークの最終日だった。
バイト先のコンビニもここ数日は普段より忙しく感じていたがゴールデンウイークだからとは考えていなかった。そういえば3日に一度駄菓子を買いに来ていた男の子はこの1週間くらい来ていない。店の前を通るのも見かけていない気がした。
何となくいつもと違うこの違和感が気持ち悪くて今日のバイトは早く終わらないかなと思う。バックヤードでいつも煙草を吹かす店長が「煙草切らしたから買いに行ってくる。」と店で売っている煙草を他店まで買いに出たのもおかしい。違和感が積み重なっていく。そういえばあのエージェントおじいちゃんが新聞を買いに来ない。気持ち悪い。小さい男の子は駄菓子は買いに来てないけど、コンビニの前は通るかも。いやもう通り過ぎたかも。おかしい。気持ち悪い。気分がーーー。

「あの…大丈夫ですか?」
レジのカウンターに肩肘を乗せて頭を支えている自分にハッとなる。ゆっくりと視線を上にあげるともうとっくに見慣れてしまった彼女の顔が不安そうに僕を見ている。
「あ、えっと具合悪いですか?店長さんとか、あ、もしかして店長さん?」
少し的外れなことを聞きながら彼女がきょろきょろを目を動かす。店のドアが開いて煙草を買いに出ていた店長がこちらに走り寄ってくる。
「どうした?!貧血か?」
彼女、今日は女の子連れてないんだな。
そんな思考とともに意識を手放した。

バックヤードのソファで目を覚ました。店長は店に出ているのだろうか。時計を見ると1時間程経過しているように思う。ゆっくり体を起こしてテーブルを見ると店長の字で「飲め。」と書かれた付箋が風に揺られながら、ぎりぎりで水滴だらけのスポーツ飲料のペットボトルに張り付いている。
手を伸ばしてペットボトルを持ち上げて蓋を開けようと思うが思いのほか硬い。
「はぁーーーーー。」
諦めといら立ち。いつもと同じように過ごしたいのに。誰かの手を煩わすような生き方をしたくない。生きていれば人は多かれ少なかれ誰かの手を煩わせているものだ。仕事もせず実家に引きこもっていたとしても、それは実家の両親が生活に必要な煩わしいことを引き受けてくれているからで、一人暮らしをしていても、ある日うっかり電気を止められたら、急に日常生活がままならなくなる。それも電力会社の僕の知らない誰かが僕のためでなくとも毎日何かしてくれているからだ。例えそこに金銭が発生するとしても、誰もがその金銭を拒否して、行動を放棄する権利を持っているのだから。

ペットボトルひとつ、開けられないくらいでこんな風にネガティブになるなんて大げさすぎる。こんな日はもう仕事なんて諦めて家に帰ればいい。これ以上店長にも迷惑かけたくない。
そんな風に思っているとガチャッとバックヤードのドアが開いて店長が顔を出す。
「目ぇ、覚めたか?動けそうか?」
「今日はもうムリかもしれない…です。あ、これペットボトル。ありがとうございます。」
「いいよ。?飲んでねーじゃん。」
「あ、えっと。開けられなくて。」
「あーーーー開けられなかったか!スマン!だよな…倒れて起きてすぐ手に力なんか入んねーわ。それは持って帰れ。今店からパックのやつなんか持ってくるわ。待ってろ。」
「え、帰るんで、もう。」
「帰る支度しとけ。飲みながらゆっくり帰れ。明日お前シフト入ってるけど、無理なら連絡くれればいい。俺らみたいなのは体壊したら終わるから。無理はするな。いいな?」
「…はい。」

そういって店長はバタバタと店に戻ってゆく。制服をロッカーに戻して、取り出した鞄にペットボトルを押し込む。店長が戻るのを待たずに店の方に出るとパック飲料の売り場で店長が顔を上げる。
「おう、青汁でいいか?」
「そのチョイス、若者に対してどうなんですか?」
「いや、意気込んできたけどよ。お前いつも水しか飲んでねーじゃん。好みもわかんねぇし。俺だからいつもかぁちゃんに叱られるんだわ。」
「かぁちゃん?」
このコンビニで働いてだいぶ経つけど店長から家族の話が出るのは初めてだ。何となく聞き返しただけだったのだけど、店長は少しだけ目蓋を揺らしていった。
「死んだ俺の嫁。」
「え?」

「もうずいぶん前の話だよ。病気でさ。今日のお前みたいに倒れてさ。それっきり。だからさ。お前、気を付けねぇと。そんなこと、そうそう起こらないと思うだろ。俺も思うけどさ。起こるときは起こるんだ。そういう時に後悔が出来るだけ少ないようにさ。生きていかなきゃなんねーんだ。偉そうにいってる俺もさ。さっきまで忘れてたんだけどよ。さっきのお前見た時思い出してさ。こんな説教じみた事、俺も人にいえるような奴じゃねーんだけど、なんかお前いつも危うげな感じあってさ。余計なお世話だよな。悪い。けど、俺、お前みたいなのいっぱい見てるんだ。こういうとこで店長してると。だいたいそういうやつは続かない。すぐやめるんだ。でもお前はやめないでくれてるから。できたら、やめないでくれるといいなって思ってるんだよ。俺が勝手にさ。だからさ。自分を大事にしてくれよ。」

「はい。」
余計なお世話、なんていえない。この人は自分の経験から話してる。きっと後悔したんだろう。赤の他人の俺にそんなことが起こらないといいと願うくらいには。
店長から青汁を受け取ると、「ストローさせるか?」と聞いてくれる。
「大丈夫です。お疲れさまでした。明日また連絡します。」
「お大事に、な。」
くしゃくしゃの笑顔で店長が送り出してくれる。

いつもの帰り道より早い時間の街並みは騒々しい。学校や会社からの帰宅時間と被っているのだろう。足早に僕の横を通り過ぎるひと。友人としゃべりながら並んで歩く高校生。僕も彼らも今少しだけ人生の時間が重なり合ってすれ違っていって、次があるかはわからない。
ふと顔をあげるといつも彼女を見かける公園の前まで来ていた。周りの喧騒を裏切るように、子供たちのいない公園はしんっ、と静まりかえっている。

少し疲れたな、と思い公園に入りベンチに腰をおろした。
そういえば僕が意識を手放す前に彼女の声がした。不安げに揺れる瞳。あれは幻覚だったのだろうか。仮にたまたまコンビニに来ていて僕が具合悪くなる瞬間に居合わせたのだとして、だとしても僕にはそれが現実かどうかも今区別がつかないし、実際助けてくれたのは多分店長で、いつか彼女を見かけた時にお礼をいうのはお門違いかもしれない。

いつしか空になった青汁のパックをゴミ箱に捨てて公園を出ようとする。明日この公園の前を通ればまた彼女の姿を探してしまいそうな自分が少しだけ怖い。体調の悪い日は少しだけ人のぬくもりが恋しくなる。テレビや音楽をつけっぱなしにしてしまったりして、誰かの声が聴きたくなるーーーーー。

「あの…大丈夫ですか?」
「え?」

…お疲れさまでした。あなたの貴重な時間を使ってくれて、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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