さんぽ会 第307回「適正飲酒」(4月10日)に参加してきました
もう3ケ月も経ってしまいましたが、2025年4月10日に東京ミッドタウン八重洲で行われたさんぽ会4月月例会 第307回「適正飲酒」の参加報告です。さんぽ会は順天堂大学予防医学・健康情報学講座の福田洋先生を中心に活動する産業保健の研究会で、私は2021年から会員になりました。メルマガ会員数は何と1万名を超えているそうです!
今回のテーマは「適正飲酒」。私の専門のアルコールがテーマですし、産業医仲間の伊東明雅先生と、アルコールの遺伝子検査でお世話になっている三和酒類の串尾聡之さんが登壇するのですから、リアル参加を決めました。さらに終わってから懇親会にも誘っていただき、有意義な時間を過ごすことができました。
内容については上記リンクに詳しく書かれていますのでご覧ください。
▼職場のアルコール問題
アルコールのことはこのnoteで何回も取り上げてきましたが、また書きます。私は1994年からアルコール臨床に携わり、同時に産業医活動も始めましたので、職場のアルコール問題に関わるようになって30年余になります。アルコール臨床に携わっていると、もうこれ以上飲んだら仕事がクビになる、家族に逃げられる、血を吐く、命を落とす、みたいな段階になって治療に登場する人がたくさんいます。でもみなさん、最初から不健康な飲み方をしていたわけではないのです。そして多くの人たちが本格的に飲み始めるのが「職場」です。職場で健康な飲み方を知ることができれば依存症の悲劇を避けられるのではないか、という思いで、機会を見ては啓発活動に努めてきましたが、アルコール臨床の専門家は目の前の患者さんのことで手一杯で予防活動になかなか力を割けないし、そもそも減酒指導に否定的な専門家も少なくありませんでした。また職場の方は「飲みにケーション」などと言って、飲んで付き合うのが当たり前の文化でしたから対策には消極的で、一部の保健師さんや人事労務の方が、職場でさまざまな問題を起こす依存症者の対応で手を焼いている、という状況でした。
▼減酒ができる人もいる
一方、クリニックで診療を行っていると、まだ依存症まで進行していない患者さんもけっこう来院されるのです。でも、「技」がなかった頃の私は、「飲み過ぎないように」と伝えて帰すしか為す術がありませんでした。それって素人じゃん!「それができないから相談に来てるんだろ!」って、患者さんに叱られても仕方ありません(言われたことはありませんが)。でも1990年代後半から2000年代初めにかけ久里浜病院、肥前療養所などの活動を知り、減酒(節酒)指導がおぼろげながら見えてきて、2011年から本格的に減酒指導を始めたのです。その集大成の一つが、2024年に「産業精神保健」で組んだアルコールの特集でした。
ただ、断酒会やAAの人たちからは、「慈友クリニックが節酒指導なんか始めた!」と訝しく思われたようです。依存症の手前の人たちに減酒指導を行っていたのですが、断酒が求められる依存症の人にとって「節酒」の二文字は目の毒なので、お気持ちはとってもわかりました。
以上のように、減酒指導はどの分野の方からも注目されずにきたのです。
▼伊東先生たちが職場のアルコール問題対策の本を出版
さて、さんぽ会月例会ではまず伊東先生が総論的な話をされました。伊東先生は朝日新聞の産業医として職場のアルコール問題に取り組まれています。こういった大きな組織が職場のアルコール問題に本格的に取り組んでくださるというのは、本当に心強いのです。健康経営優良法人の評価項目にもアルコール問題への対策が入っています。職場がアルコール問題に取り組むことは、健康経営のためにも重要な位置づけになってきています。
そして今回、このnoteでお伝えしたいのは、伊東先生たちが職場のアルコール問題対策の本を出版されたことです。以下のサイトで試し読みができます。
『どうする!? 職場のアルコール問題対策:予防・対応・リワーク支援』(金子書房)
この本は2023年に岡山市で行われたアルコール・薬物依存関連学会合同学術総会の産業医研修会「産業保健の飲酒問題に対する効果的な予防と治療について考える-産業保健と医療はどのように協働すべきか?」に登壇したメンバーによって執筆されたものです。職場のアルコール問題に特化してまとめられた書籍はほとんどありませんので、ぜひ手に取ってみてください。
▼遺伝子検査を受けよう
月例会の後半は串尾さんが大分からオンライン登壇されました。串尾さんは「いいちこ」を作っている三和酒類の生物工学部門の技術士で、アルコールの分解酵素の遺伝子検査であるNomityの責任者です。ご自身も酒好きだけれど、どのようにこの問題に関わるようになったかから話が始まりました。実は串尾さんの講演を聴くのは初めてだったのですが、いやあ面白かった!いつかぜひ講演にお呼びしたいと思いました。
日本人は飲酒すると赤くなる人が半分くらいいます。アルデヒド脱水素酵素が弱い、いわゆる「お酒に弱い人」です。白人も黒人もお酒に強い人ばかりで、黄色人種だけ赤くなる遺伝子を持っているのです。さらにアルコール脱水素酵素にも強い弱いがあって、アルコール脱水素酵素が弱い人は酔いやすく、アルコール依存症になりやすいのです。このように人によって体質が違うのに、同じ指導でいいのか?というのが私の問題意識で、慈友クリニックでは2015年から遺伝子検査を実施してきました。ただ難点は検査費用が高いことでした。一生に一回実施すればいい検査ですが、価格が高いとみなさん受検をためらわれます。三和酒類さんはこの辺に尽力されています。
毎年、新入社員が入社したらこの検査を実施し、その結果を踏まえ飲酒教育を行えば、職場のアルコール問題の発生を減らすことができるのではないか。いや、高校3年生になったらすべての生徒が公費でこの検査を受け、その結果を知った上で社会人になり、あるいは大学等に進学すれば、不適切な飲酒による悲劇を防げるのではないか、という見果てぬ夢を追いかけています。
