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合理的配慮を考える:精神の障害の場合(JES通信【vol.186】2024.9.10.ドクター米沢のミニコラムより)

 先月のコラム(JES通信vol.185)では5月に行われた産業衛生学会のシンポジウムを踏まえ、障害者の合理的配慮の基本的な事柄を確認しました。その内容はnoteに掲載しています。今回は私の専門である精神の障害の合理的配慮について、メンタルヘルス不調による休職者の復職支援を中心に考えてみたいと思います。

1.メンタル不調による休職者も精神障害者?

a.慌てて合理的配慮の勉強を始めた
 職場での合理的配慮が義務化されたのは2016年(事業者等は努力義務)。当時私はメンタルクリニックの院長をしながら産業医活動もしていたのですが、産業医先で合理的配慮という言葉を聞いた記憶がなく、また職場で合理的配慮について話し合ったという話を患者さんから聞いたこともありませんでした。そんなわけでこの言葉は私の視界に入っていませんでした。2024年4月からすべての事業者で義務化されることになったためか、昨年から産業医の間で話題になることが多くなり、遅ればせながら勉強を始めたというのが正直なところです。

b.メンタル休職者は「いずれは治る人」と考えていた
 私は精神科医として40年、産業医として30年仕事をする中で、多くのメンタル疾患の復職支援に携わってきました。合理的配慮の根拠である障害者差別解消法は、障害者手帳所持者だけでなく、「日常生活や社会生活に相当な制限」を受けている全ての人が対象ですので、数カ月単位で就労ができず時に外出さえままならないメンタル休職者の多くは、精神障害者とみなせることになります。しかし私は復職支援の場に登場する人は、「いずれ治る人・治せる人」と思って関わってきたので、「障害」という言葉と結びついていませんでした。
 また病気があっても元気に活躍している人を「精神障害者」と呼ぶことに抵抗もありました。これはまさに厚生労働白書の「『こころの健康』と『こころの不調』について」の考え方ですが(令和6年版厚生労働白書p.4)、「障害」と「活躍」は別の次元と頭では分かっていても、やはり考えてしまいます。まあ用語の問題はともかく、今後はある程度長期に(3ヶ月以上?)休職しているか、休復職を繰り返している人は、合理的配慮の対象と考えていく方向性もあるかと思っています。

2.復職支援で何を実践してきたのか

a.安全配慮義務としての対応
 用語の認識の問題はともかく、メンタル疾患で休職し、そこから回復し復職を目指す人は、すべて支援の対象と考え産業医の現場に立ってきました。病名は同じでも態様はさまざまなので、病状を確認し、仕事に戻るに当たってご本人が気になることや主治医の意見を確認します。それを踏まえ、スムーズに仕事に合流するためにはどのような配慮・措置が望ましいか、本人、上司、現場、会社と一緒に考えています。
 「合流」という言葉を使いましたが、私としては復職後数ヶ月くらいで元の仕事が問題なくできるようになる流れをイメージしています。元気になったと言ってもやはり長期療養からの「病み上がり」です。その時その時の状態を踏まえ、復職当初の負荷をどのようにコントロールすれば体調を悪化させず、かつ回復が促進されるかを考えています。それらを職場の安全配慮義務の一環として行ってきたわけです。
 
b.合理的配慮としての対応
 一方、聴覚情報の受信や理解が苦手な人に文章で指示を出すとか、聴覚過敏の人にイヤホンの使用を許可するといった対応は、それがあることで本来の業務(本質的職務)を遂行しやすくするものですので、合理的配慮に当たります。これらも復職時に検討しますので、合理的配慮と安全配慮は同時並行的に進むわけです。そして合理的配慮はより永続的に求められるものと言えるでしょう。

3.精神障害の対応の課題

a.困難さが見えにくい
 車椅子で移動している人を見かけたら、段差があるところを上がるのは大変ではないかと推測できます。しかし精神障害や聴覚障害、内部障害(心臓障害や腎臓障害など)の場合、障害が外からは見えず、どんな困難を抱えているかわかりにくいという課題があります。5月の産業衛生学会のLGBTQ+シンポジウムの報告でも取り上げましたが、私たちは目に見えないものは「ないもの」「問題ないもの」と判断しがちです。当事者の困りごとを具体的に聞いていかないとなかなかわかりづらいのです。
 
b.支援を言い出しにくい
 これは精神障害に限ったことではありませんが、日常生活や社会生活上の困りごとを言い出しにくいという側面もあります。「困っていることがあれば何でも言ってください」と声をかけていても、甘えていると思われるんじゃないか、頑張ればできると言われるんじゃないかなどと思案し、言い出すことをためらっている場合があります。あるいは自分自身でこんなことを言うのは甘えだ、頑張ればできるはず、などと思い込んでいて言い出さない場合さえあります。
 
c.病状の変動性
 身体障害や知的障害の場合は、その障害の程度が短期間で変わることはまずありません。しかし精神障害の場合、病気の性質上、病状が変化しやすいことがあり、業務のパフォーマンスに影響が出て、配慮を調整する必要性が生じます。双極性障害などが典型ですが、明確な原因なく気分が上がって仕事を張り切りすぎたり、気分が下がってパフォーマンスが低下したりすることがあります。あるいはうつ病の人によくありますが、「真面目さ」という特性ゆえ、忙しくなっても人に頼らず頑張ることで乗り切ろうとし、疲労を蓄積させてしまうことがあります。
 一方、治療やリハビリ、あるいは仕事で活躍することで自信がつき、どんどん良くなっていくこともあります。最終的には配慮が必要ないレベルまで回復し、障害者手帳を返納した例もあります。私が「障害」という言葉を使うのをためらうもう一つの理由がこれです。いずれにせよ病状はいい方向にも悪い方向にも変わる可能性があり、それによって対応の調整が必要になるわけです。
 
d.対話の重要性 - 弱さを見せるのは怖い、つらい
 困難さが見えない以上、ご本人に伺っていくしかありません。しかし日常生活や社会生活での困難さは、周囲にその人の弱さと捉えられたり、自分でもそう思っていたりもします。「弱さ」を見せるのは怖いしつらい。そのため困難さを語ること自体に困難が伴います。こうした課題は精神障害に限ったことではありませんが、精神の障害に対応する際は特に留意が必要です。安心安全な場を用意し、信頼できる人が関わり、率直に語ってもらい、また語りやすいように応答し、理解を深めていく対話が重要になるでしょう。そのような対話を通してより妥当な合理的配慮・調整が得られていくものと信じています。

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