Ⅻ. 吊るされた男

吊るされることは、
苦しむことだけを意味しない。
身動きが取れない時間。
思うように進めない時間。
ただ待つしかないように見える時間。
けれど、その静けさの中でしか
見えないものがある。
地に足をつけていたときには
気づけなかった景色。
急いでいたときには
聞こえなかった声。
世界の流れから
少しだけ離れることで、
心はいつもと違う角度から
ものを見るようになる。
この姿は、
試練のかたちをしている。
けれど三花精の世界では、
それは罰ではない。
花に包まれ、
蔦に支えられ、
眠るように時を待つ。
それは、
あきらめではなく
受け入れること。
失うためではなく
変わるために、
一度止まること。
吊るされた姿は、
動けない姿でありながら、
内側では静かに
次の形を育てている。
今はまだ、
進まなくていい。
今はただ、
世界を逆さまに見つめながら
小さな変化を待てばいい。
やがて目を覚ますとき、
同じ景色は
少しだけ違って見える。
止まる時間の中にも、
静かな変化は
続いている。
