その承認、誰が決めた?――新任課長・前任課長・挟間に割れた責任を戻せ
責任者は、新任課長。
承認ボタンを押せるのは、前任課長。
「通していい」と実際に決めているのは、挟間。
――さて、この申請。誰が承認したことになりますか?
四月一日、新任課長は部下の残業と経費に責任を負いました。でも、承認画面はまだ開けない。
前任課長には異動後も権限が残っている。でも、もう現場は見えていない。だから事情を知る挟間が中身を判断し、前任課長がボタンを押し、新任課長が結果の責任を負う。
業務は動いている。締め日も越えられる。
なのに記録に残るのは、ボタンを押した前任課長の名前だけ。
これ、人が足りない問題じゃありません。責任の移管と権限の移管、その速度差を誰も持っていない問題です。
正しい統制を並べても、「承認者の空白」は生まれる
発令前に人事情報を変えない。
権限を事前に渡さない。
申請者と承認者を分ける。
一つずつ見れば、どれも妥当です。
でも、人事マスタを更新してから権限申請が始まり、確認と承認に数営業日かかる。その間も勤怠や経費の締め日は待ってくれない。
すると異動直後に、こうなります。
責任者はいる。承認できる人はいない。
この空白に正式な持ち主がいないと、現場で一番事情を知る人が埋めます。今回なら挟間です。
気づく。調べる。判断する。前任課長に頼む。新任課長へ説明する。
そして、肝心の挟間の判断だけがシステムの外へ消える。
「挟間がもっと確認すればいい」で終わらせないでください。必要なのは注意力の追加ではなく、移行期間そのものを業務として設計することです。
戻すべきものは四つ。役割、証跡、例外の持ち主、復旧条件
1.役割――移行期間を誰が持つか
まず、異動案件ごとに権限移管の責任者を置きます。
通常の権限付与が締め日に間に合わないときだけ、正式な仮承認者を起動する。ここで大事なのは、前任課長に権限が残っていることと、承認資格があることを同じにしないことです。
残存権限は役割ではありません。たまたま押せる状態です。
2.証跡――「ボタンの名義」ではなく、判断の流れを残す
記録するのは四点です。
業務判断をした人
システム操作をした人
通常経路を使えなかった理由
仮運用を終了する条件
判断者と操作者が違ってもかまいません。違うなら、違うまま結んで残す。
画面上の一名に、判断・操作・責任のすべてを代表させない。これだけで、「押した人は分かる。でも決めた人は分からない」が消えます。
3.例外の持ち主――挟間を非公式な責任者にしない
たとえば、新任課長が画面へ入れない。権限予約が終わっていない。締め日まで残り二営業日を切った。
条件に触れたら、権限移管の責任者が仮経路を起動する。ここを自動的に決まる手順へ変えます。
挟間の役割は、異常を見つけて知らせるところまで。
例外経路を使うかどうかまで、挟間の気配りに背負わせないでください。判断できる人が、制度上も判断者として残る。その形へ戻します。
4.復旧条件――日数ではなく、正常性で閉じる
「二週間たったから仮運用終了」では足りません。
通常運用へ戻す条件は、観測できる形にします。
新任課長がログインできる
対象メニューを開ける
テスト申請を承認できる
未処理案件を引き継げる
仮権限が失効したと確認できる
全部そろって、初めて復旧です。
成功は「締め日を越えた」ではありません。誰が判断したかが残り、例外の持ち主が明確で、通常運用へ戻ったところまで確認できた。その状態です。
ただし、前任課長の権限を今すぐ消して終わり――ではない
ここ、勢いで全廃したくなりますよね。
でも待ってください。
前任者へ頼る旧運用は、不適切な承認経路である一方、辞令の取消し、兼務への変更、権限切替の失敗、締め日の先行といった場面で業務を止めない、非公式の保険でもありました。
消すべきなのは、判断者を隠す使い方です。
旧運用が担っていた復旧路まで、代替を確かめずに捨ててはいけません。
まず、「前任者へ念のため頼んだ案件」を棚卸ししてください。件数だけではなく、通常経路を使えなかった理由、判断者、操作者、回避できた停止時間、正常権限へ戻るまでの時間を見る。
それを役割、証跡、例外の持ち主、復旧条件へ写し替える。新しい仮承認経路が同じ機能を引き受けられると確認してから、旧権限を閉じる。
空の承認をなくすことと、業務継続の保険を捨てることは、同じではありません。
では、あなたの現場で前任者への「念のため」は、どの例外で、どの復旧機能を肩代わりしていたのでしょうか?

