掌編小説「クリスマス ギフテッド」第1話「プレゼントを入れる靴下」#いつきちゃんのアドベンドカレンダー

「プレゼントを入れる靴下」
「貴女のことが嫌いなの」
まるでうどんが嫌いなの、とでも言うように真由子の新しい雇い主の深雪はあっさりと彼女を否定した。彼女の方を振り向きもしないで、窓の外を針のように流れていく細い雪の行方を追いながら。
「そんなことをおっしゃられても」
深雪よりも長い間、この家に仕えてきた真由子は四十五歳になる。前の奥様の沙枝子に面接だけで気に入られて採用されたから、ハローワークも通していない。
「どうしたら、お気に召して頂けますか?」
上質なベルベット素材の濃紺のガウンに身を包んだ深雪の背中には若さと言う魔物は貼り付いていても、一欠片の品も感じられない。
「あら、辞めてって聞こえなかった?」
「えっ、いえ、それは困ります。それに裕樹坊ちゃまのこともありますし」
「それが嫌なのよ。使用人の貴女が出しゃばって心配するなんて」
「すみません」
「貴女が居ると裕樹が私に益々なつかないの。それに、貴女の田舎くさい料理をあの子にこれ以上慣れさせたくないわ」
「でも」
「労働基準局にでも駆け込まれたら迷惑だから、退職金ははずんであげる。だから辞めてちょうだい!」
窓の外を流れる針のような雪よりも冷たくピシャリとした声が真由子を刺した。
この師走に職を失うのはイタいが、それよりも亡き奥様の沙枝子が遺した裕樹のことの方が彼女には気がかりだった。
病弱だった沙枝子がお手伝いを募集した張り紙を見て、この家の門を叩いたのは十年ほど前だった。生まれたばかりの裕樹の子育てに追われる沙枝子のために、真由子は家事一切を任された。少し神経が細いところはあったが、沙枝子はいつも穏やかで優しい人だった。重厚な木製のテーブルに出すには恥ずかしいような真由子の肉じゃがや鯖の味噌煮などの料理を
「真由子さんのお料理を食べると、母を思い出すわ。とっても美味しい」
いつも微笑んで誉めてくれた。
「さぁ、出て行ってちょうだい!」
深雪は始めて振り返るとドアを指差した。
ーーもう何を言っても無駄だわ。
真由子は、若い雇い主に頭を下げた。
「今までお世話になりました」
「これまでのお給料と退職金は銀行に振り込んでおきます」
寝室のドアを開けると、学校から帰って来たばかりの裕樹がランドセルを背負ったまま其処に立ちすくんでいた。
「真由子、やめちゃうの?」
沙枝子に似た面差しの顔が寂しそうに歪んだ。
「坊ちゃん」
「ねぇ、ちょっと待ってて」
裕樹は自分の部屋へ駆け込むと、突然の解雇にぼんやりしている真由子の元へすぐに帰って来た。
「これ」
その手には、クリスマスプレゼントを入れる靴下が握られていた。(約1000字)
(明日へ、つづく)

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