見出し画像

学習院女子中の理科|10年分の入試問題から見る出題傾向と対策【学校別分析㉓】


1 はじめに


本レポートは、学習院女子中等科のA入試理科(2017〜2026年度)について、全204小問を「大単元・中単元・難度・出題形式」の4軸で分類し、出題傾向とその背後にある出題思想、そして具体的な学習指針までを一気通貫でまとめたものである。
学習院女子の理科は大問4題構成で物理・化学・生物・地学の4分野を出題する。大問の並び順は年度によって入れ替わるローテーション型で、固定された順序はない。2018年度は地学が不在となり物理が2大問(11問)に増量され、2025年度は化学が不在となり物理が2大問(10問)に増量された。この2回を除く8年間は4分野すべてが毎年出題されている。
特筆すべきは、2023・2024年度に教科の枠を超えた統合大問が登場したことである。2023年度大問1は海洋酸性化とマイクロプラスチックを切り口に化学・地学・生物の3分野を横断し、2024年度大問2は津波を切り口に地学・物理の2分野を横断する構成だった。これは2017〜2022年度には見られなかった出題形式であり、環境・防災という現代的なテーマを理科の枠組みで問う姿勢が2023年度以降に明確になったことを示している。
難度については、10年間・204問の中でD(最高難度)に該当する出題は一度もなく、A37.3%・B50.5%・C12.3%という温和な構成である。ただしC比率は2017〜2021年度平均10.3%から2022〜2026年度平均14.3%へと緩やかに上昇しており、2024年度には10年間で最も高いC比率(20.0%)を記録した。10年平均だけを見ていると、この緩やかな変化を見落とすことになる。
分析にあたっては、10年平均で全体像を押さえたうえで、必ず直近1〜2年(2025・2026年度)の動きを重ね「いま何が起きているか」「今後どこへ向かうか」を重視した。

■ 他の学校の理科分析はこちら
→ 【中学受験】学校別入試問題分析シリーズ 理科

2 結論

先に結論を述べる。学習院女子の理科は、次の一文に集約できる。
大問の並び順を毎年入れ替えながら4分野をほぼ皆勤でカバーし、分野ごとに解答形式の性格がはっきり分かれる(化学=計算、生物=記述、地学=記述と選択、物理=多形式混合)、難度Dを一切用いない温和な入試。2023・2024年度に教科横断型の統合大問が登場し、環境・防災という時事テーマが地学を軸に直近4年連続で出題され続けている。
■ 地学は2018年度、化学は2025年度のみ不在、その年は物理が2大問に増量 4分野は10年間のうち8年間で毎年出題されている。2018年度は地学が不在となり物理が2大問(11問)に増量され、2025年度は化学が不在となり物理が2大問(10問)に増量された。大問の並び順は年度ごとに入れ替わる。
■ 難度Dは10年間ゼロ、しかしC比率は緩やかに上昇し2024年度がピーク 10年間の難度構成はA37.3%・B50.5%・C12.3%・D0%。C比率は2017〜2021年度平均10.3%から2022〜2026年度平均14.3%へ緩やかに上昇し、2024年度には10年間最高の20.0%に達した。
■ 化学は計算70.0%、生物は記述62.3%という対照的な分野特性 化学の出題形式は計算が70.0%を占め、生物は記述が62.3%を占める。地学は記述42.0%と選択32.0%が中心、物理は計算・選択・作図・複合形式が入り混じる、4分野中最も多様な構成である。
■ 2023・2024年度、教科横断型の統合大問が初登場(10年間でこの2年のみ) 2023年度は海洋酸性化とマイクロプラスチックを切り口に化学・地学・生物の3分野を、2024年度は津波を切り口に地学・物理の2分野を、それぞれ1つの大問の中で横断的に出題した。2017〜2022年度にはこの形式は存在しない。
■ 環境・防災テーマが2023〜2026年度と4年連続で地学を中心に出題 2023年度(海洋酸性化・プラスチック)、2024年度(津波・防災)、2025年度(台風・地球環境)、2026年度(気候・ヒートアイランド)と、直近4年連続で環境や防災に関わるテーマが出題されている。

3 この学校が理科で測ろうとしている力

データを単元の羅列としてではなく「なぜこの構成なのか」という出題側の意図として読むと、学習院女子が測ろうとしている力は次の4つに整理できる。
▍① ほぼ皆勤の4分野出題、ただし並び順は毎年入れ替える柔軟なローテーション型
大問4題構成・4分野出題という骨格は10年間ほぼ一貫しているが、大問の並び順は年度によって毎回入れ替わり、高輪中のような固定順ではない。2018年度・2025年度にそれぞれ1分野が不在になった以外は、8年間にわたって4分野すべてが毎年出題されている。特定の分野を「今年は手薄でよい」と読む余地が少なく、順序に依存しない総合力を前提とした構成である。
▍② 分野ごとに全く異なる解答の“顔”を持たせる出題設計
化学は計算が70.0%を占め、記述はわずか10.0%にとどまる。生物は逆に記述が62.3%を占め、計算はほぼ使われない(3.8%)。地学は記述42.0%と選択32.0%が中心で計算はごくわずか(2.0%)、物理は計算31.1%・選択21.3%・選択+記述複合14.8%・作図14.8%と、4分野の中で最も多様な解答形式が組み合わされる。理科という一つの科目の中に、計算力(化学)・記述力(生物)・判断力と記述力(地学)・総合力(物理)という4種類の異なる能力測定装置が配置されている。
▍③ 難度Dを用いず、Cを“緩やかな伸びしろ”として使う選抜設計
10年間・204問の中でD(最高難度)に該当する出題は一度もない。奇問・難問で受験生をふるい落とす入試ではなく、A・Bで基礎力を丁寧に確認したうえで、Cを一定割合含めることで思考力の差を緩やかにあぶり出す設計である。C比率は2017〜2021年度平均10.3%から2022〜2026年度平均14.3%へと緩やかに上昇しており、2024年度の20.0%を頂点に、易しすぎず難しすぎない範囲でCの比重を少しずつ強めている。
▍④ 環境・防災という時事テーマを理科の切り口で問う、教科横断への挑戦
2023年度の海洋酸性化・マイクロプラスチック、2024年度の津波・防災という2つの統合大問は、いずれも化学・地学・生物・物理という教科の枠を超えて構成されている。2025・2026年度はこの統合大問という「形式」こそ使われていないが、台風・地球環境(2025年度)、気候・ヒートアイランド(2026年度)という「テーマ」は地学分野の中で継続して出題されている。単元知識を超えて、社会的な課題を理科の視点で捉える力を測ろうとする姿勢が、2023年度以降の4年間に一貫して表れている。

4 大単元分析

ここから先は

6,702字 / 8画像

¥ 980

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?