株式会社の起源に会社員が生き残るヒントがあった
仕事の業務量が飽和状態になってしまうほど増加し続け、さすがにこれでは無理だと思ったことがある人も多いのではないでしょうか。僕はよくあります。
成長を求める組織で働き続ける以上、こういった状況には誰もが追い込まれかねません。僕は身近な同僚がその様に追い込まれて、辛そうにしているところをよく見てきました。
こういう時につきまとってくるのが「責任」です。給料を貰って働いている以上、会社への貢献と社会への価値の提供をしなければならないのです。
業務量や作業負荷が限界に達し、身も心も悲鳴を上げ、逃げ出したい気持ちになった状態で「責任」という言葉に向き合うと、踏ん張ることができる人もいれば、それにより潰れてしまう人も出てきます。
「自分が成果を出せなかったせいで、現場に混乱を招いてしまった」
「このままだと自分のせいで顧客からの信頼を失ってしまう」
こういった気持ちを感じてしまうのだとしたら、それは非常に辛いことです。休みの日にも仕事のストレスを感じ続けてしまうでしょう。
この様な気持ちのまま仕事を続けても、うまくいかないことが多く、余計に進捗が滞ってしまい悪循環に陥ってしまいます。「責任」が重圧となり、仕事の足かせになってしまうのです。
しかし、この様な事態に陥らないために、知っておくべき市場の原理があります。それが「株式会社の起源」です。
これは、ベストセラー作家の橘玲さんの『臆病者のための株入門』という新書にわかりやすく書かれていた、株式会社の起源のエピソードからヒントを得たものです。本書は株式取引をする投資家向けの説明ですが、それを株式会社で働くサラリーマンにも応用できるのではないかと僕は考えています。
ここで書かれているのは、株式会社が誕生した大航海時代のとある商人とのやり取りが描かれたエピソードです。
タイムマシンに乗って、大航海時代のオランダに行ってみよう。
あるとき1人の商人が、船を建造して新大陸から香辛料、絹・木綿などの交易品を持ち帰れば大儲けできると気づいた。このとき、もし航海になんの不安もないとしたら、商人は私財のすべてを船の建造費に投じるだろう。資金が不足したら、親や親戚、妻の両親など、親しいひとから借りまくればいい。それで足りないとしても、船長や乗組員が競うようにお金を差し出すにちがいない。だって、ぜったいに儲かるんだから。
このように、必ず利益を得られる取引に第三者が加わる余地はない。もうちょっとわかりやすくいうと、おいしい話はあなたのところまで回ってこない。
(中略)
ところがある日、その商人があなたのところに、「ひと口乗りませんか」とやってきた。なぜかというと、この儲け話にはリスクがあるからだ。嵐で船が沈んだり、海賊に襲われたりしたら、投資したお金はまる損である。そこで商人は、自分とは関係のない第三者(すなわちあなた)に損の一部を押しつけようと考えた。「無事に船が戻ってきたら出資額に応じて利益を分配します」というのがその条件だ。
そのときたまたま、あなたはちょっとした小金を持っていた。そのあぶく銭を投資してもいいかなと思ったのだが、ここでふと疑問が浮かんだ。「船が沈んだらいったいいくら損するの?」
もしも利益と同様に損も出資者で分配するのなら、最悪の事態が起きたら破産してしまうかもしれない。「そんなんじゃこわくてとても付き合えないよ」とあなたはいうだろう。そこで商人は、次のような譲歩をした。
「だったら、なにがあっても損は出資金まで、ということでどうですか?」
これが、株式会社の起源である。
この例を出して、橘玲さんは「たとえ失敗しても、損は株主が背負ってくれる。株式市場とは、損を薄く広く分散させるためのシステムなのだ」「損を限定的にすることでみんなを冒険的にする」と言っています。こうして大航海時代の船乗りたちは、全世界をまたにかけて世界中を開拓していくイノベーションを起こしたのです。
これによって、そもそも株式会社という仕組み自体が、ひとりあたりの責任を分散させるための仕組みだと気づかされます。そして、無限の責任(生涯に渡り家族まで借金が残ったり、切腹したり)が与えられない、最悪の事態にならない状態だからこそ、社員は新しいことにチャレンジできるのです。
しかし、歴史は流れ、そのことを現代人が意識することはできなくなり、会社で働き続けることが当たり前になっていきます。そして、そのなかで仕事に対する価値観も様々なものが生まれるようになります。終身雇用やワークライフバランスなど、今では仕事に対する価値観は非常に多様になりました。
現代においても企業は成長を求め続ける事実は変わらないため、仕事の業務量と責任は増え続け、本来はチャレンジするための仕組みだった株式会社のなかでさえ、自分に責任を感じて思い詰めてしまう人々が多くなっていきました。身体を壊してしまう人や精神を病んでしまう人まで、たくさんの人が仕事の影響で苦しんでいます。
だから、本当に辛くなってしまった時には、株式会社の起源に立ち返ってみましょう。
「株式会社」という仕組みのなかで働いている以上、責任は有限なのです。せっかくその様な仕組みのなかで働くのだから「失敗したらしょうがない」くらいの気持ちでチャレンジした方が良いと思います。
