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ショート・ストーリー~天使のお仕事

私は、天使という仕事をしている。ニッポンの担当者だ。

ボスからの指令で、人の子の元に派遣され、人生が上向くように誘導するのが任務。

私は天使3年目、やっとそれなりの仕事ができるようになった。

人の子から「神様ありがとう!」の気持ちを引き出せれば任務終了。

天界に帰ってはやくふかふかのベッドで寝たい。下界は空気が悪く、肌も荒れてしまう。

ちゃっちゃと幸運を授けて帰っちゃお。

今回の派遣先は、ナカタマヤという女性のところ。データを見てみたが、いやはや、最近の彼女は不運続きだ。

18歳、大学受験に失敗。公務員予備校へ。
19歳、自治体のミスで受験リストに乗らず試験を受けれず。
20歳、学費支払いが困難になり、退校。
21歳、アルバイト先が次々に閉店。職なし金なし男なし。

「人生いやになりそう」

思わず、データを二度読んで呟いてしまった。

まあ、こんな子ならちょっとの幸運でも感謝してくれるだろう。

「さてと、ちゃっちゃと済ませますか」

私は姿を消し、ナカタマヤのところへ降りていった。


ナカタマヤは、ショッピングモールにいた。宝くじ売場の前。

いいじゃない、2等の500万くらい当ててあげたら2、3年は、暮らせるでしょ。

当たり番号を授けようと彼女の前にいったが、「うーん、こういうのズルいよね」と悩んだまま、売場を去っていった。

買わんのかーい!!


私には、人の子の行動自体を誘導する権限はない。あくまでも、人の子が自発的に選んだことに幸運を乗せてやるのが仕事だ。

ナカタマヤは、そのあとパン屋に入っていった。じっくりとバンを選んでいる。

さっとパン屋のなかを見渡すと、レジになかなか美しい青年がいた。

よし、この青年と縁付けてクリアだ。

私は青年の中にはいった。彼女がパンをレジに持ってきたら、一目惚れしたと言わせよう。

ナカタマヤは、うーん、二割引かあ、となにやら計算していたが

「やっば、ポイント5倍の日に来よう」と呟いて、パン屋を出ていってしまった。

二割引だってお得じゃないの!


私は慌てて青年の体から出る。青年が咳き込んで目を白黒させている。ごめんよ。

しかしナカタマヤ、なかなかの強者である。

決断をするまで時間がかかるタイプのようだ。それが彼女の不運の一因かもしれない。


もうそろそろ日が暮れる。できれば仕事は明日に持ち越したくない。

私は焦ってきた。

ナカタマヤは独り暮らしの部屋のほうへと歩いている。

帰りつくまでに、なにか幸運を!

帰り道の途中で、ひとりの老婦人が向こうから歩いてきた。

あの婦人には見覚えがある。たしか、かなり裕福な家だった。一人息子はまだ独身だったはず。

よし、ぶつかって、お礼と称して家に誘おう。

私は老婦人のなかにすっ、とはいった。ちょっと関節が動かしにくい。

「ああっ!」

わざと倒れた。

ここで婦人に怪我させたら減点を喰らう。膝をすりむかないように、私は慎重に倒れた。

「だ、大丈夫ですか!」

ナカタマヤは青くなって駆け寄ってくる。よしよし。

「ああ、大丈夫よ。ありがとう。でもよかったら家まで送ってくださらないかしら。すぐそこなんだけれど」

「ええ、もちろん」

ナカタマヤは婦人の荷物を持ってあげている。なかなか親切な子じゃないの。

2、3分歩いたところで、見事な庭園のある家に到着した。

「よかったら、お茶でも飲んでいかれません?お礼もしたいし」

私が玄関を指差すと、

「いえいえ!そんな、いいんですよ。わたし見たい番組があるから帰ります」

ナカタマヤは 高級車にも目をくれず、スタスタと帰っていく。

私は老婦人から抜け出す。

「あれ?私何をしていたのかしら・・」婦人はポカンと辺りを見回す。

ごめんね!と謝りながらナカタマヤの後を追う。

くそう。もう時間切れか。

私の思いもむなしく、ナカタマヤは自分のアパートの部屋に入っていく。

お世辞にも、きれいとはいえないアパート。

お金があれば、もっといいところに住めるだろうに。

ナカタマヤはごそごそと、冷蔵庫からもやしと小分けしたひき肉を出し、炒めはじめた。

シンプルにも程がある。

あんた、もうちょっと美容にいいもん食べなさいよ。

残業になりそうな私はイライラしはじめた。

もう、なにも幸運を授けられそうなポイントがない。

ナカタマヤは、テレビをおもむろにつける。お笑いライブの番組のようだ。

シンプルもやし炒めを食べながら、麦茶をがぶがぶと飲み込む。

なんだか、ちょっと美味しそうだ。

「あっ、ヤスシくん!」

好きな芸人が出てきたのか、前のめりでテレビに食いついている。

何が面白いのか私にはさっぱりわからないが、ナカタマヤの目がハートになっている。

「あー、面白かった!神様今日もありがとう!」

ん?

ありがとうって言った、いま?


私のもとへ工程表がヒラヒラと降りてきた。

担当者印のところに、私の印鑑が押してある。任務終了の合図だ。

まあ、それならそれで、いいのだけど。

1日ナカタマヤに張り付いたわりには、私はなにもできていないのが嫌だったので、

最後にちょっと細工をして天界へ戻った。


「お届け物でーす!」

ナカタマヤは、3日後大きな段ボールをうけとっていた。

「やったー!ぬか漬け基本セットの懸賞!だしといてよかったあ!」


天界のふかふかしたベッドに入りながら、

ナカタマヤの大喜びした声をイヤホンで聞く。

「ナカタマヤ、あんたは手強かったわ」

私はつぶやいて、眠りについた。

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