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「推しが死ぬまであと30日」第2話


〇通学路(朝)

〈推しが死ぬまであと11日〉

利人との昨日の出来事、のんくんの炎上、サイトに張り付いてもチケットが取れなかったショックなどが菜摘にのしかかり重い足取りで登校する。
その後ろを利人が歩いており、遠くから菜摘の後ろ姿を見つける。
利人は気まずそうな顔をし、声はかけずに遠回りする。

〇学校・教室前廊下(朝)

菜摘、教室の前まで来たところでドアを開けようと手を伸ばすが、開けられずに方向転換をし、そのまま歩いて行ってしまう。

〇学校・美術室(朝)

たどり着いたのは美術室。鍵を開け、中に入ると毎日少しづつ描いていた油絵がイーゼルに立てかけられている。キャンバスにはのんくんを写実的に描いた息をのむほどきれいな絵。いつもノートの端に落書きしているデフォルメのイラストとは画風が全く違う。

カバンを適当に置き、キャンバスの前に座ると油絵の続きを描き始める。しばらくするとカバンからスマホを取り出し、のんくんの右手の画像を拡大し、模写していく。

〇学校・廊下(放課後)

利人が友達と挨拶を交わし教室を出ると、キョロキョロと菜摘を探し始める。
美術室の前まで来て、一呼吸置き、ドアを開ける。

〇学校・美術室(放課後)

室内には誰もいない。
ただ完成した油絵がイーゼルに立てかけられていた。入口からは絵ははっきりと見えない。
教室の窓が開いており涼しい風とグラウンドで練習をする野球部の掛け声が室内に入ってくる。

利人はゆっくりキャンバスに近づく。
利人は驚いた様子で目を丸くする(瞳のアップ)。

Vtuberののんくんを、リアルな人間に変換したような写実的に描かれた美しい絵だった。絵の中ののんくんは右手に卒業証書を持っている。
右端には「nyan」とサインのようなものが入っている。
利人、絵の前で立ち尽くす。
のんくんの右手部分に手を伸ばし絵に触れようとする、と。

菜摘「りっくん?」

利人が入口の方を向くと、菜摘が驚いた表情で立っていた。

〇学校・美術室(夕)

開けられた窓から風が入り込み、カーテンを揺らしている。
その窓にもたれかかって立っている利人。その横には地べたにしゃがみ込んでいる菜摘。
2人の間に気まずい空気が流れる。

利人「この絵、すごいね びっくりした」「菜摘の本気絵はじめて見たかも」
菜摘「ふふ」「今まで一番がんばったかも」
利人「絵、続けたいんじゃないの?」
菜摘「わかんない」「のんくんを描くのは楽しいけど、のんくんを好きになってなかったら こんな本気で絵を描くこともなかったと思うから」
利人「そっか…」

菜摘「りっくんはなんで音楽を続けるの?」
利人「俺は…」「自分の音楽が誰かのためになるなら作り続けたいって思うんだ 本気でそう思う」
菜摘「そっか」「素敵だね」「私にはそんな大きい夢も才能もないからなぁ」「私の絵はただの自己満だよ」
利人「そんなこと! …ないよ」
利人は身を乗り出して否定しようとするが、何かを思い出したように勢いを失う。

菜摘「りっくんはいつも私を絵の道に進ませようとしてくれるね」
利人「…」
菜摘「私はりっくんみたいにはなれないよ? そんな本気で絵をやるつもりもないし」
利人「じゃなんで進路希望調査出さないんだよ」「今まで適当な大学名書いて出してたくせに」
菜摘「…」

菜摘「そろそろ行こう 今日ファミレスの日じゃん! 紫乃が待ってるよ」
菜摘が立ち上がり、片づけを始める。

利人「…うん」

〇ファミレス・ボックス席(夕)

菜摘「はぁ 受験勉強もせずに何やってるんだろう」

相変わらず第一希望に「のんくんの嫁」と書かれた進路希望の用紙を机に置き、シャーペンを握りながらチケット購入画面のリロードを繰り返す。
菜摘と利人は話さない。

紫乃「て言いながらまだやってんじゃん」
菜摘「うぅ…」
紫乃「早く進路希望調査書きなよ 明日締め切りでしょ?」
菜摘「うーん」
リロードしながら適当な返事をする。

利人「紫乃、この問題わかる? 何回やっても答え合わない」
紫乃「ん? あ、私これ合ってたよ」「教えてやろう」
利人「言い方うぜぇ」

菜摘、スマホから目を離し2人が仲良く話す様子を机に伏せた状態で見つめる。
と、菜摘の目のアップ。何かに気づいたように瞳孔が開き目に涙がたまる。

菜摘、進路希望調査の紙を握りしめ、ファミレスを飛び出す。
外は雨が降っているが、おかまいなしに走っていく。

利人・紫乃「菜摘!?」

雨の中ひたすら走る菜摘。
手に握った進路希望調査の紙は雨でビチャビチャになっている。

しばらくすると走る足を止める。
はぁはぁと大きく肩で息をする。ドクドクと心臓が速く大きく鼓動しているのがわかる。
下を向くと雨が髪や顔から滴り落ちる。それと同時に目からは大量の涙が溢れる。
声を抑えるため口を強く結びながら、その場で泣き続ける。

ーーーーー

〇菜摘宅・自室(朝)

〈推しが死ぬまであと5日〉

菜摘、ベットから気だるそうに体を起こす。
菜摘M(あれから3日学校を休んだ)

朝食を食べ、制服に着替える。
菜摘M(土日も挟んだから5日も学校に行っていない)

〇学校・教室(朝のホームルーム)

チャイムの音が響く。

藪先生「金子~ ちょっと来い!」
菜摘立ち上がり教壇のほうへ。

担任の藪先生が新しい進路希望調査の用紙を差し出す。
藪先生「提出期限過ぎてるんだから、早めに出せよ」
菜摘「はぁ(紙を受け取りながら力のない返事)」

菜摘、真新しくなった進路希望調査の紙を顔の前に掲げまじまじと見ながら席に向かって歩いていく。

菜摘M(私が抜け殻になっていた5日間で、学校では最悪なことが2つ起こっていた)
菜摘M(一つは進路希望調査の締切が過ぎていたこと しかも何度先延ばしにしても逃れられない)

(もう一つは…)
目の前に掲げていた進路希望調査の紙をため息とともに下におろす。すると目の前には荷物一つない寂しい席。

菜摘M(りっくんがもう東京に旅立っていたこと)
いつもは利人が座っている席にはもう誰もいなかった。


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