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「推しが死ぬまであと30日」第3話

〇ファミレス・ボックス席(夕)

〈推しが死ぬまであと5日〉

いつもの席に菜摘と紫乃が座り、勉強をしている。
利人の姿はない。

菜摘「紫乃はりっくんとちゃんとお別れできたの?」
菜摘いつものように机に伏せた状態で顔だけを紫乃の方に向けている。
不貞腐れた表情。

紫乃「できたよ 駅まで見送ったし」
菜摘「ふーん、仲良いんだね」
紫乃「仲良いよ」
菜摘「私、嫌われてたのかな」
紫乃「そんな訳ないじゃん なんか喧嘩してたんでしょ?」
菜摘「りっくんが言ってた?」
紫乃「わざわざ言わないけど ずっとそういう空気だったじゃん」

紫乃は勉強の手を止めて菜摘の方を向く。
紫乃「だいたいあんたが現実から目を背けて学校休んだりしなければ普通にお別れできたのに(意地悪っぽい言い方で)」
菜摘「…」
菜摘、すっと体を起こして
菜摘「え、私進路希望調査の締切が理由で休んだと思われてる?」
紫乃「違うの?」
菜摘「そんなわけないじゃん」「子供かよ」
2人で顔を見合わせて笑いあう。

紫乃「私、菜摘たち見てると羨ましかったよ 推しがいるって毎日楽しいだろうな~って」
菜摘「うん 楽しかったけど、でも急にいなくなったりするんだよ?」
紫乃「そりゃずっとは続かないよ 私たちだってあと半年で卒業して別々の大学に行くんだし」
菜摘「うう…」
紫乃「でも、私にとっての”推し”は菜摘の絵だったと思う」
菜摘「へ!?」
菜摘、体を起こし目を丸くして紫乃を見る。

紫乃「ファンアートかどうかは関係なく、菜摘の絵を見ると元気が出るし、嫌なことがあっても全部リセットされる」「自分もまだまだやれるって思えて絵も勉強も頑張れる」「たぶん菜摘の言う推しってそういうものなんでしょ?」
菜摘「うん、私の推し活と完全におんなじサイクルだ」
紫乃「ふふ」

紫乃「りっくんも菜摘の絵が”推し”だったんじゃなかいかな?」「菜摘にとってののんくんが、りっくんにとっての菜摘の絵だったと思うよ」
菜摘「そんなこと言われたことないよ? 紫乃以外にちゃんとした絵見せたことないし」
紫乃「でもファンアートはSNSに投稿してたでしょ?」「ずっと菜摘に絵を描き続けてほしそうにしてたじゃん」
菜摘「あ! たしかに」
美術室での利人との会話がフラッシュバックする。

紫乃「菜摘にとってはただの趣味だったかもしれないけど、私たちは”助かってた”ってことよ」
菜摘「ふふ 紫乃がオタク用語使ってる(笑いながら)」
紫乃「はじめて使ったわ(笑いながら)」
菜摘「そんなふうに思ってくれてたなんて嬉しいなぁ」
菜摘はニヤニヤしながら照れた様子。

紫乃「ま! だから1回ちゃんとりっくんと話した方がいいんじゃない?」
紫乃も照れ隠しのように急に話を切り替えようとする。

菜摘「うん、そうだね」

菜摘「紫乃…」
紫乃「うん?」
菜摘「だいすき~」
菜摘は紫乃にぎゅーっと抱き着く。
紫乃「きもい きもい」
紫乃も嫌がる素振りをしながらも嬉しそうな表情。

〇菜摘宅・自室(夜)

〈推しが死ぬまであと0日〉

卒業前のラスト配信を視聴するため、スマホをスタンドにセットし、ジュースと涙を拭くためのティッシュを机に準備している。

勉強机の椅子に座り、両耳にイヤホンを装着。
スマホ画面をスクロールし、〈卒業配信 今までありがとう〉というタイトルの動画をタップする。
イヤホンからは聴き慣れた声が流れる。

菜摘M (のんくんの声を介して遠くにいるりっくんとの繋がりを感じる)
菜摘はそっと目を閉じる。

ーーーーー

のんくんの声「(先行して)Vtuberとしての活動は今日で終了となりますが 僕はこれからも必ずどこかで曲を作り続けます」

〇ライブハウス・ステージ上(終演直前)

ステージ上の画面にはのんくんのアバターが映し出され、ファンへの最後の挨拶をしている。
客席では約1000人ほどのファンが静かに最後の挨拶を見守る。中にはすでに涙を流すファンもいる。

のんくん「音楽活動に関しては今よりもっと力を入れていくつもりだから 何年後かに別の形で僕の音楽をみんなに届けられるかもしれませんね」

暗めのステージ裏、のんくんの”中の人”がマイクに向かって話している様子を引きで。

のんくん「そうなれるように、頑張ります じゃそろそろお別れの時間ですね」「本当に今までありがとうございました この4年間本当に楽しかったです またいつかどこかで会いましょう またいつか僕を見つけてください」
会場ではファンの嗚咽のような泣き声が響き、のんくんの言葉に応えるように拍手が大きくなる。

〇菜摘宅・自室(夜)

菜摘、目を瞑ったまま静かにのんくんの挨拶を聴く。

〇ライブハウス・ステージ裏

配信者の口元のアップ
利人(のんくんの声)「それじゃ みんなバイバイ」

〇菜摘宅・自室(卒業配信終了時)

ティシュで軽く涙を拭う菜摘。
と、画面は切り替わり〈配信は終了しました。ご視聴ありがとうございました。〉の文字。

菜摘M(今日、2年前にかかった魔法が解けた) 

ーーーー

〇菜摘宅・自室(翌日・昼)

〈推しが死んでから1日〉

休日の昼頃。
菜摘の部屋に大量に飾られていたグッズはすべて片づけられていた。一つ一つ丁寧に透明なボックスに詰められている。

菜摘、スマホでLINEを開き利人とのトーク画面へ。
菜摘メッセージ〈お疲れ様。のんくんのお葬式しようよ!〉
菜摘は吹っ切れたような明るい表情。

〇同(同日・夜)

菜摘、勉強机にPCを開き、オンラインで利人と話している。

菜摘「お別れもせずに急にいなくなるなんて ひどいよ」「友達なのに」
利人「ごめん…」「でも俺、酷いこと言っちゃったから、もう会いたくないだろうと思ってさ」
菜摘「そんな訳ないじゃん!」

利人「(少し間があって)俺のこと、いつから気づいてた?」
菜摘「最後に会った日だよ」
利人「え!? 雨の中急に帰った日? なんで気づいたの?」
菜摘「…ホクロ」
利人「!?」

〇(菜摘回想)ファミレス・ボックス席(6日前・夜)

利人が紫乃に問題の解き方を聞きながら仲良く話している様子を見つめる菜摘。
菜摘の視界に利人の右手が入る。
利人の右手、親指と人差し指の間の手の甲に薄く小さいホクロを見つける。

菜摘「!!」
驚いた様子で目を丸くする。

〇(さらに菜摘の回想)16日前の帰り道(夜)

紫乃からの連絡を受け、のんくんが配信で事故を起こしたことを知る。
SNSで拡散されていたのんくんの右手の画像を拡大すると、小さいホクロが写っている。
位置は利人のホクロと同じ。

菜摘回想終わり

利人「気持ちわるっ」「ホクロの位置まで把握済みってこと?」
菜摘「”のんくんの”(強調して)ホクロの位置をね」
利人「あー、はいはい」
菜摘「残念ながらのんくんにしか興味ないのでね」
いじわるな口調で。

利人「あ、ごめんよ…(笑いながら)」
菜摘「うそうそ(笑いながら)」

利人「ずっと黙ってたこと 怒ってる?」
菜摘「怒ってない」「隣であんなに騒がれたら普通言えないよ」「…ごめんね」
利人「謝んないでよ」「嬉しかった 菜摘が俺の音楽好きだって言ってくれて」
菜摘が恥ずかしそうに笑う。

利人「菜摘」「ファンアートありがとう」

〇(利人回想)利人宅・自室(3年前)

利人、自室のPCの前に座り、ヘッドフォンを装着してマウスを操作している。
完成させたMVを動画サイトにアップロードするが視聴回数は102回。
ひとつ前のMVもその前のMVもずっと同じような数字だった。
大きなため息をつき勢いよくゲーミングチェアの背もたれに倒れ込む。

今度は机に置いていたスマホを手に取り、SNSで「のんくん」と検索しエゴサーチを始める。自分に関連する投稿は見当たらない。
スクロールを続けると、のんくんのファンアートが目に留まり、スクロールする手を止める。そこには上手いとは言えないが丁寧に描かれたことがよくわかるイラストとともに「のんくん、頑張れ!」というメッセージ。
利人、笑顔でよっしゃとガッツポーズをし、イラストにいいねボタンを押す。
投稿主のアカウント名は「nyan」

利人回想終わり

利人「今までもずっと、ファンアート描いてくれてありがとう」
菜摘「美術室で私の絵を見たとき、びっくりしたんじゃない? いつも見てる絵が目の前にあって」
利人「うん めちゃめちゃ(笑いながら)」
菜摘「ずっとりっくんに見られてたなんて恥ずかしすぎるよ」
利人「そんなん俺もだよ(笑いながら)」
菜摘「(笑)」
その後も話題は尽きず、二人の会話は続く。

グッズが撤去された菜摘の部屋にはたったひとつ、美術室で描いていたのんくんのファンアートだけが飾られている。

菜摘M(推しが死んだ(会話の様子をバックに))

(もうのんくんが作る新曲は出ないし、のんくんの作曲配信がアップされることはない。でもそれだけじゃなく、推しは私の中でも死んで完全に思い出となった。のんくんはりっくんに吸収されて解けて無くなったのだ。だから悲しいとか、だから残念とかない。逆に身近な人だから嬉しいとかもなかった。ただ事実として推しは死んだ。完全に。)

(のんくんが生きていた世界は私には本当に眩しすぎるくらい綺麗に見えた。
のんくんがいなくなった今、今度は私の未来がようやく綺麗に見えてきた気がする。)

かなりの時間話した2人のオンラインお葬式はお開きモード。

菜摘、利人の顔が映る画面に手を伸ばす。
菜摘「今までお疲れ様」「元気でね」
利人「お葬式なのに元気でねって(笑いながら)」
菜摘「のんくんに言ったんじゃないよ」「りっくんに言ったの」
利人、驚いた表情をするがすぐ満面の笑顔で返す。

利人「ありがとう」

菜摘「私もきっとすぐそっちに行くよ」

菜摘M(りっくんに会いたくなったらいつでも東京に遊びに行こう)(話したいときは電話をかけよう)

菜摘M(私たちはこの先もたまに魔法にかかりながら 現実を生きていくのだ)

勉強机に置かれた進路希望調査の第一志望欄には〈○○美術大学〉の文字があった。

END


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