最後の晩餐レストラン
「最近話題のフレンチレストラン、知ってる?」
「ああ、隣町にできたって噂の」
「そう。最後の晩餐にしたい程、美味しいフレンチが食べられるらしいの」
男は密かにため息をついた。
連れて行け、ということだろうか。
「話題になっているなら、簡単には予約が取れないんだろうなぁ」
女は薄く笑った。
「それがね、予約できたの。次の日曜日に」
「さすがだね」
男はそう言いつつも、面倒だなと感じていた。
男は、女の用意周到すぎるところが苦手だった。
女は「もう寝るわね」と、手に持っていた分厚い雑誌をテーブルに置いた。
挟んであった紙が一枚、床に落ちた。
婚姻届。
男は小さく息を吐いた。
日曜日に、別れを告げよう。
🍽
日曜日。
女は綺麗に着飾っていた。
浮き足立つ女の横で、男の足取りは鉛のように重かった。
席へ通されてすぐ、女は男に囁いた。
「ここ、現金はダメなお店だけど、カード持ってきてくれた?」
金を払う気がない女に辟易しつつも、男は「もちろん」と答えた。
女は胸を撫で下ろすと、
「ありがと」と首をかしげた。
付き合いはじめの頃は、この仕草も可愛らしく思えていた。
愛想が尽きた今は、煩わしさしかない。
男はいつ別れを切り出すか、ということばかり考えていた。
とはいえ、それを忘れてしまうほどに、料理は絶品だった。
ワインはペアリングされ、料理に合うものがその都度運ばれてくる。男はあまりの美味しさに舌鼓を打った。
女が選ぶ店には、外れがない。
女は見る目があった。それ故、傲慢になるのは仕方のないことだが、結婚するなら、もう少し気の弱い女がいい。しかし、男を見る目も間違いないな、と男は鼻を鳴らした。
男は鹿肉のローストを口に運んだ。秋を感じさせる洋梨のソースの甘さがみずみずしい。口の中いっぱいに旨みが広がったところで、スパイシーな赤ワインを含む。後を引く美味しさに、笑みが溢れる。
確かに、最後の晩餐にしたい程の美味しさだな、と男は深く頷いた。
最後に洋梨のケーキが運ばれてきた。
ギャルソンは、皿を両手に持っていた。洋梨がのっている方を男に、のっていない方を女の前に置いた。
「洋梨がのっている方を食べなよ」
「あなたの大好物でしょ、洋梨は」
「ああ、覚えてくれてたんだね」
男はありがたく、洋梨がのった方のケーキを受け取った。
男がフォークを刺すと、何か固いものに当たった。
それをケーキの中から取り出して、皿の上に出した。
視線を皿から女の顔に向けると、視界がぐにゃりと歪んだ。
ワインを飲みすぎたせいだろうか。男は額を抑えた。視界の隅で何かが光った。
「……ゆ、指輪?」
それは、女にねだられて買った婚約指輪だった。
「そう。今までありがと。最後の晩餐のお会計に、ここにサインをちょうだい」
女は首をかしげた。
男は朦朧とした意識の中で、渡された紙にサインをし、その場で突っ伏した。
女は“遺言書“と書かれた紙切れを手に取ると、にんまりと笑った。
「これでもう、あなたは、ようなしよ」
1,200字
#秋ピリカグランプリ2024 に参加します!
テーマは「紙」
ピリカグランプリというお名前は色んなところで拝見していて、参加してみたい!と思っていたので、今回は参加できて嬉しいです!
ピッタリ1,200字。
少ない! 少なすぎて、書いては句読点を調節しながらなんとか1,200字に収めるという強引さ。
紙は物語の鍵なんだけど、テーマかと言われると薄いなぁという気がして不安しかない。でも紙がないと、この物語はなりたたないので、胸を張って紙がテーマと言い切ります!
しかし、思いつきで書いた"最後の晩餐レストラン"が気に入っちゃったので、どっかで短編を何本か書きたいなぁ、と思いました。何も考えてないけど。
しかし、謎すぎるレストラン。
この悪い女に加担をしたのかしてないのか、それすらも私にはまだよくわかっていません。男にも問題ありそうだけど。
ということで、読んでいただき、ありがとうございました!やっぱり、創作って楽しい!
