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25万のオンナ

25万のオンナは、俯きながらキーボードを叩いていた。

その横顔から何かを言いたそうな雰囲気を感じ取った私は、彼女に声をかけてみた。すると彼女は、とつとつと話だした。

「昨日、携帯電話にメールが来てたんです。7万円の請求のメールが。私、7万円を使った記憶がなくて。そんなの使ってないって思って。おかしいなって思ったんです。だから、内容を確認しようと思って、メールをクリックしたんです。カード会社からのメールだったから。そして、指示に従ってカード番号とかを入力していって。最後にワンタイムパスワードを入れたんです。そしたら、何が起きたと思いますか?」

何が起きたも何も、それは架空請求だろう。
カード情報を抜かれたんだろうなと、私は思った。

でも一応私は、彼女に尋ねた。
「どうなったと?」
彼女は答える。

「ワンタイムパスコードを入れた瞬間、メキシコのペソで、日本円にして25万円分が使われたんです!」

彼女の顔が、不安と不満とさまざまな感情でないまぜになっているのがわかった。ほぼ、泣きペソだ。

「まじか! メキシコでペソ!」

大変なことになっている彼女に申し訳ないと思いつつ、どういうわけかメキシコのペソに私はハマってしまい、堪えきれずに彼女に25万円って、ペソにすると何ペソ? と聞いてしまった。

今、聞かなければならないことはペソのレートの話ではないだろう。その25万円を支払う必要があるのかということが重要だ。

私はその請求はどうなるのか?と、彼女に確認してみた。カード会社に連絡をしたところ、それが架空請求だと確認できれば、支払わなくて良い可能性があると言われたとのこと。しかし、払わなければならない可能性も拭えないらしい。メキシコに行ったこともないのに、メキシコのペソで支払われたお金を払わないといけないなんて、と彼女は嘆いた。

そんな話をしていたら向かいの席の女性が、「架空請求ですか?」と身を乗り出してきた。

「メキシコのペソで25万円分使われたらしいよ」

私がそう伝えると、「25万円!」と彼女は目を見開いた。そして彼女は「私も今日、架空請求にあったんですよ」と話し出した。金額は3万円だったが、驚いたと言っていた。彼女もすぐにカード会社に連絡をし、こちらは請求を止めてもらえたとのことだった。


架空請求。

実際に請求が来たら、それは誰もが驚くだろう。
身に覚えのない請求が来るのだから。しかも1,000円とかではない。万単位なのだし。



私もかつて、請求書を見て驚いたことがあったことを思い出した。


その時の私は彼女たち同様、こんな金額を使った覚えはない!と思った。
架空請求だ!いつ私のカード情報が抜かれたんだ!
私はそう憤りながら過去の記憶を辿った。すると頭の片隅の方でかすかに思い出される支払いの記憶があった。

あの時の旅行代。
懐かしき日の家電代。
いつぞやのよくわからない支払いの数々。
ワンクリックし続けたネットショッピング。

全ては記憶の彼方に放り投げたはずの、過ぎ去りし日々の支払い。それが時空を超え、請求額となって舞い戻ってきたのだ。
架空請求を疑った自分に肩を落とす。


しかし、彼女の場合はそうではない。
使ってもいないお金の請求なのだ。


「支払いせんでいいようになるといいね!」
どう励ましていいのかわからない私は、それだけ言うと席を離れた。


……そして数日後。


「請求が来たんですよ!」
彼女は憤っている。
「しかも電話も繋がらないし!」
彼女は憤慨している。

請求の内容を確認すると言っていたのに、請求は止まっておらず、普通にカードの支払額が確定したメールが来たらしい。その額、25万円。

「えー。でも確認するって言いよったやん。もう支払い確定なん?」
「なんか1〜2ヶ月はかかるって言ってたんですよね」
「じゃあ、調べてる間に請求が来るってこと?」
「そうみたいですね〜」
「えー! 払ったら返ってくるん?」
「返ってこないかもですね〜」

ナナナナなんと!
ナナナナーイ!アリエナーイ!メキシコ、煮干し粉!


「もう一回電話してみますけど」

彼女はそう言った。
後日、再び電話をしたと教えてくれた。請求額は確定しているが、実際の支払日はまだ先のため、鋭意調査中とのこと。支払い日の数日前に連絡がなければまた連絡をしてくださいと言われたと肩を落としていた。

「息子からは、25万のオンナって呼ばれてるんです」

彼女はほぼほぼ諦めかけたような、もうネタに昇華してしまったような表情すら浮かべている。クリックしたのがよくなかったと反省もしている。

いやいや、でかいぞ、25万は!

諦めたらそこで試合終了ですよ。
反省するのはいい。でもクリックしたのが悪いんじゃない。悪いのはクリックをさせ、メキシコで何ペソかしらんが日本円にして25万円相当分のペソを使った奴である。


彼女が25万円支払わなくてもいいようになることを、私は祈っている。



みなさまも、どうぞお気をつけください。



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