春の川辺にてよしなしごとを
前回の記事が2ヶ月ぶりだったのでちょっと緊張したのだけれど、投稿してみたらすんなり皆さまに読んでいただけてなんだか安心した。
とはいえ、お休み中もコメントを下さった方のところへ読みに行ったりしていたので、あまり久し振りな感じはしないのかもしれない。
これからもマイペースで投稿しながら、皆さまの記事を拝読しに行こうと思っていますので、今後ともよろしくお願いします。
さて、ようやく世間が春らしくなってきたように感じるここ数日。
この季節になると、リア充写真をSNSにアップするつもりなんかさらさらなくて、ふだんは猫さんくらいしか撮らないおっさんのスマホにいろいろと別の画像や動画がたまっていく。
自宅の近所に人工河川があり、川の両岸は整備された遊歩道になっている。
そこは桜並木がずっと続いていて、千本桜と言われ近隣の人々にとって絶好の散策コースだ。
水中は魚影が濃く、水面を亀がプカプカ浮いてたりして、様々な水鳥たちもこの川を棲み家にしている。
花より団子なおっさんではあるが、そこは由緒正しき日本人でもあるので、美しい桜を見るとついシャッターを押してしまう。

毎年いろんな場所から写真を撮影していたら、桜並木のなかで数本の桜は花が一緒に咲かず、いつも2週間くらい遅れて開花しているのに気がついた。
桜社会にも秩序を乱す輩が存在するのかと思って調べてみると、どうやら『狂い咲き』という現象らしい。
何らかの理由で体内時計が狂ってしまった木が季節外れに咲いたりするのだという。
この言葉、人に対しては旬を過ぎてから何かにのめり込む様子を表すので、良い意味で用いられることは少ないようだ。語感も悪いし。
けど、時期外れだっていいじゃん、とおっさんは思う。
桜も人も、旬を過ぎてからのほうが味や見応えがあって好きだ。
旬のものは確かにフレッシュで美しい。
でも少し旬を外したほうが、より個性も際立つし本来の良さが見えてくるように感じる。
あの桜たちが、来年もまた狂い咲きしてくれるのを期待してやまない。
川辺で餌をついばむ水鳥たちの中にカルガモがいる。
春ともなれば、彼らはカルガモ一家を作って行動し、あちこちのメディアで取り上げられたりする。
だが、この川のカルガモたちは引越ししたりするわけではないのでメディアにも出ず、ただ遊歩道を散策する人々をなごませる存在だ。
カルガモの雛たちは、生まれたばかりの頃は5~10羽くらいの集団で親鳥にまとわりつく。
他の親鳥たちと餌場が一緒になったりすると、どっちが自分の親なんだか本人たちも判らなくなるらしく、元の親と違う親鳥についていったりするのを見ているのはかなり面白い。
でもそんな雛たちも人に飼育されているわけではない。
最初10羽だった雛は、次の週末には7羽になり、更には5羽になり、親鳥ほどのサイズまで成長する頃には1~2羽か、1羽も残らないこともある。
大部分は体力がもたなかったり、カラスや他の野鳥につつかれたりして脱落していく。
彼等はいつも自然の摂理と戦っているのだ。
おっさんは毎年その様子を見届けながら、1羽でも多くの雛鳥が翌年立派な親鳥になってくれることを祈っている。
この川の住人(鳥)に1羽のクロサギがいる。
おっさんが数年前ここを初めて訪れた時には既にいたから、もはや川の主と言っても過言ではない。

年齢・性別が判らないのでクロサギさんと呼んでいるが、おっさんの勝手なイメージとしては『働き盛りの中年男性(独身)』だ。
彼はたいてい川に挿してある木の棒に似せたコンクリ柵のてっぺんに乗って(写真参照)人々を出迎える。
いつ訪れても川の何処かには必ずいて、時には突然水中から魚を咥えて飛び出してきて驚かせたり、なかなか愛嬌のあるキャラで人気なのだった。
と、ここまで書いたところで、ふと
「ん?、クロサギが水中に潜って魚を?」
と、今まで疑問にも思わなかった事が気になりだして改めて調べてみた。
そして、たったいま衝撃の事実が判明した。
彼はクロサギではなく、カワウ(川鵜)だった。
だ、大丈夫、落ち着こう自分。
たとえ今のいままで数年間に渡って勘違いしていたにしても、単に鳥名が変わっただけ(?)に過ぎない。
彼に対する認識は変わらないし、本筋にも影響はない、筈だ。
これからは彼をクロサギさんではなくて、カワウさんと呼ぶことにしよう。そうしよう。
気を取り直して。
とにかくカワウさんは川の人気者だった。
春の一時期はカルガモ親子に一番人気を奪われるも、年間を通してのカワウさんの人気は揺るがなかった。
そんなカワウさんが、ある日突然姿を消した。
昨年の夏、大型の台風が関東をかすめて過ぎて行った翌日、おっさんは川へ散歩に出かけた。
台風一過の川は泥のように濁り水量もふだんより増してはいたが、カルガモや他の水鳥たちは岸へ避難して毛づくろいなどをしていた。
カワウさんの姿は見かけなかった。
以前にも大雨や強風の翌日にはいないことがあったので、そのときは特に気にはしなかった。
しかし、数日後に訪れても彼は不在のまま。
どうしたのだろうと心配しているうちに1カ月ほどが過ぎてしまっていた。
その日、いつものように川沿いを散歩していると、ふと川岸に打ちつけられた黒い物体が目に入った。
明らかに動物、それも鳥の亡骸だった。
頭部は水中に沈んでいて確認出来ないが、色と大きさはカワウさんのものとほぼ一致しているように見えた。
おっさんはショックのあまりしばらくの間その場に立ちすくんだ。
あの台風の日、彼は流木にでも当たって怪我をしたのかもしれない。
そしてそれが悪化して遂に命を落としたのではあるまいか。
カワウさんの変わり果てた姿を見つめながら、おっさんは川の人気者を失い悲しみにくれた。
その直後の出来事だった。
先程の動揺が消えないまま、とぼとぼ遊歩道を歩いていると、正面の川面をこちらに向かって飛んで来る1羽の大きな鳥をおっさんは見た。
それは、まごうことなきカワウさん本人(鳥)の姿ではないか。
生きていたんかい!
じゃあ先刻の黒い鳥の亡骸はいったい何だったんだ?
おっさんはさっきの川岸へ戻り、もう一度亡骸を確認してみる。
よく見ると、どうやらこれはカラスのようだ。
亡くなったカラスには本当に申し訳ないが、見間違いであったことに心の底から安堵する。
カワウさんは、お気に入りのコンクリ柵の上に上手く降り立つと、なんだか騒がしいおっさんを尻目にひとつ大きなアクビをした。
その後、現在もカワウさんは変わらず川のスターであり続けている。
夏に向けて、水鳥たちもますます元気に活動し始めるだろう。
おっさんは川辺にてそんな彼らを眺めながら、夕暮れの鳥たちのさえずりを聴いているのが愉しみなのだ。
やかましく、そして心地よい春の声を。
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