川柳句会ビー面 2025年7月
匿名互評の川柳句会の選評と投句一覧。目次に無記名の句一覧があるため、無記名句一覧の仮想体験も可能。
参加者: nes・ササキリユウイチ・スズキ皐月・ラム=ラグドール・公共プール・南雲ゆゆ・城崎ララ・小野寺里穂・西脇祥貴・黒澤多生

新宿の複雑さのまま桃を吐く
新宿の複雑さって何だろう。「桃を吐く」が良いなと思った。ちょうど桃の季節だから、口の中に桃の一部が残った状態で読むと、身体が新宿に降り立った。
────────────南雲ゆゆ
「複雑さのまま」があることで「桃を吐く」の日常感が強くなっていて面白かった。たぶん単純さのまま吐くこともあるんだろうな。特別難しいところはないが落ち着いた面白さを感じる。
────────────スズキ皐月
例えば、たった一枚の鯛のウロコを鯛を使わずに作り出すのは困難だと思う。どんなに、見た目として似たものを樹脂で作れたとしても、鯛のウロコと同様の組成のあの一枚をつくるのは不可能に近く、鯛を一匹捕まえるか、育てる方が圧倒的に早い。だから、あらゆるモノは、入力に対する出力の原理を持った計算機である、というよく言われることが成り立つ。桃を吐くためには、一番手取り早いのは、水や光や栄養素を入力として、桃(実)を出力する計算機としての桃の木を手に入れることである。桃の木のDNA、桃の木の設計図、桃を吐き出すための物の設計図は、ある意味単純であれど、桃の木それ自体は複雑すぎる。なお、桃の設計図(桃の木を使わずに作り出すもの)と、桃の木それ自体とは異なる。……そんなことを考えた。そして、新宿。漢の「紫煙」のリリックに"何かとストリート語る割に嫌なパンチライン地元新宿 日本の中心太いパイプライン固い結束 金に暴力 甘い誘惑この世の天国 歌舞伎町で裏社会科見学傍から見りゃ大雑把に見えてるかもしれないが緻密な計算に基づいて成り立ってる贅沢"というのがある。新宿には、大雑把に見えるかも知れないが実は複雑で緻密な何かがある。まあ要するに、新宿は複雑である。さて、桃の木に比べて新宿は複雑なのか←というのが、もうおかしい問いである。この問いは実のところ、一瞬で考えている。一瞬で出てきたこの問いは面白くないので、だからか、この句は面白いとはすぐには思わなかったが、だが、あとあと面白いと思った。それは、これを書いたからというよりも、こう書こうと思いつく直前くらいであった。
────────────ササキリ ユウイチ
言いたいことは好きだし伝わるものがある。新宿と桃の対比、複雑さへの戸惑い、桃くらい大きいものを「吐く」やり場のなさ。という風に、あるところまで読み解ける(やった人の意に適ってるかどうかは別にして)ことのいい悪いはあれど、読ませる親切さはある句だと思う。中八は気にならないけど、七にはできる。新宿を得て吐くまでの流れで中を七に整える余裕もなかったんだろうな、とは読める。ただひとつ気になるのが「新宿」。あとに「複雑さ」ってガイドがついてなお、新宿がなんなのかがぼんやりしたままで居続けちゃう。新宿デカすぎ。たぶんこの新宿ぼんやり感は、東京住み地方住みの別にかかわりないと、思う。新宿の内面化、ってカジュアルな悟達でおもしろいけど!
────────────西脇祥貴
新宿→歌舞伎町の連想から、桃を吐く=愛を語ると読みました。ホストやキャバクラの薄い愛の言葉を「吐く」として、甘ったるい味の中に新宿駅の地下通路のような複雑さを感じて吐き気を催してくる感じ、わかんなくない!
────────────黒澤多生
脱ぐものを選ぶ 羽衣にも飽きて
着るものを選ぶのではなく「脱ぐものを選ぶ」という。引き算のコーディネートとよく言うが、着る前に考えるのではなく一旦着てから何を脱ぐか、考える。一癖ある。「羽衣にも飽きて」で急に時代設定をしてくるが、別のあり方も模索できそう。
────────────小野寺里穂
「脱ぐものを選ぶ」でおお、ってちゃんとなった。まだまだあるね、シンプルなのにうわっと思わせる組み合わせ……ほんと希望だよ……。で、そこが十分強かったから並にはするんですけどそれゆえ言いたいこともあって、一字空け要らない! 気持ちはわかるし効果もそれなりにあるのはわかる、でも前段ほんとうまくいってるから空けなくても「選ぶ」で切れます。こっちに任せて! そうすればあとの羽衣もほどよくかっこつく。いま一字空けがあるために羽衣がかっこつきすぎてるし、こんなにかっこつけるほど羽衣はフレッシュじゃない。でも飽きる態度はクールなのだから、さらっと移行してほしい。ほんといいよ! よすぎて既出を疑ったくらい。
────────────西脇祥貴
オリジンで誕生を見る 見続ける
確かに、オリジンで誕生を見る で終わっている感じがする。終わっているのだから、終わりつつあってもいいと思う。
────────────ササキリ ユウイチ
ガンダム? 弁当? 弁当だと有名な短歌があるけど、あちらではチェーンの店名ながら、それを知らなくても元の語義から流れに乗ることはできた。字数があるから。比べるのもなんだけど、こちらはやっぱり概念になりすぎか……。オリジンと誕生近いし。ぜんぜん関係ないけど元地元の道端に張り出されてた小学生標語「あいさつで 友だちふえる ふえまくる」を思い出しました。このごり押し見るとこあるな……と前通るたび思ってたのですが、いざ使おうとすると難しいね。でも前句を仮構しようとするととたんにいい句な気がしてきた。一句で言い過ぎない、ってことは、三要素からも導き出せるんだな。
────────────西脇祥貴
お弁当屋さんのオリジンとどれくらい伝わるのか不安になった、、「キッチン」ってルビ振るのもあり得たけどちょっと面白に振りすぎだと思ってここに落ち着きました。
────────────黒澤多生
サバンナに幾何学を返してあげる
すべては天から借りたもの(Everything is RENT!!!!!)、とはまじ最高ミュージカル『RENT』のパンチラインですが、あれを人類規模まで拡張したときでてくるのがこれだ、と思った。大きい句! たぶん幾何学はサバンナからもらってるんだけど、こう言われないと気づかないところだから突けてるのはつよい。で、「あげる」の驕り。えらっそう! でもこのふてぶてしさがおかしみと穿ちになって川柳にしてるよなあという骨の確かさ。披講の際はぜひ嫌らしさたっぷりに読んでいただきたいですね。あ・げ・る、くらい。
────────────西脇祥貴
幾何学模様でイメージしていた。サバンナは幾何学模様とは遠いような気がしていて、そこの取り合わせの面白さ。しかも返してあげるの奇妙さも面白い。
────────────スズキ皐月
返してあげる、ということは何かを奪っていたのか。キリンとかシマウマとか、いろんな模様の動物がサバンナにいるけど幾何学模様の動物はサバンナに適応できるのか。人間の傲慢さを感じる句。
────────────黒澤多生
発想が面白いと思った。でも、「お前それサバンナでも同じこと言えんの?」である。言えない気がする。
────────────ササキリ ユウイチ
返しても、またいつか知的生命体が幾何学を拾い集める気がする。サバンナの生命力にそう思わされる。
────────────南雲ゆゆ
逮捕状もらえば笑うさ犬だって
前回黒澤さんが夏の気配を感じてて、今回冒頭から吐くとか脱ぐとかサバンナとかでさらなる夏ぶりが醸し出されているんですけど決定打はここ。夏、真っ盛り……。いい並びですね。この句は理屈も通ってるしいい。だってたちの悪い冗談としか思えないもんね、逮捕状。この中八は要る中八、夏のチルでダルなリズムを半笑いでつくってる。つくづく夏だねえ……。高校の英語の先生が「私家では犬しか味方いないから」みたいなアメリカンエピソードで高校生の笑いを誘ってたの思い出した。犬、たのもしいねえ……。ドラッギーではあるが、ここはノードラッグでドラッギーよりラリってるものと読みました。良きにつけ悪しきにつけ、生活にこそぶっとばされたいもの。
────────────西脇祥貴
ブラックユーモア感。面白い。
────────────城崎ララ
信じられないことが起きたときについ笑ってしまう感覚はわかる。それは犬もそうかもしれないし、「警察」という意味の犬もそうであろう。飼い犬に手を噛まれることはあるが、飼い主に手錠をかけられることだってある。そうであれ、と願う。
────────────ラム=ラグドール
「笑う犬の冒険」ってあったんですけど、「さ」が入ってないほうが嬉しかった…。犬も歩けば棒に当たる、も確かに棒の部分にポリスさがありますね
────────────黒澤多生
どよめき ポカリ注いだ神棚の
おもしろい、今回一字空けの句が目につく。
────────────小野寺里穂
いい不遜! そしてなんて語呂の良さだ中下……ちょっと感動した。ふつう注がないし破壊的なんだけど、その破壊的なことをあれ、なんだやろうと思えばできるんじゃん! と気づかせる力の強さ。絵もいい。あんまりいいので上はどよめきくらいで収めておくのがいい、とまで思える(ほんとはもうひとひねりいけると思ってしまうけど、たぶんそれやると過多になる、中下が死ぬ)。しかし優しいね。これだけ暑い時期、じぶんよりも神棚の熱中症を気にできるなんて。その素朴な優しさをふっとばすほど行動が破壊的なのは加減の勝利だし、こんなショットのある映画は見たい。やさしさと破壊性の同期。川柳だね。どよめきさえ耳にやさしいよ。
────────────西脇祥貴
神様が驚いてるんだろうと思ったら微笑ましい。夏で暑いからポカリの方がいいよね。
────────────スズキ皐月
情景に笑った。情景の写し方が映像的だなとも思った。
────────────黒澤多生
ポカリを注ぐ様子を見ている親族のどよめきでもあり、「神棚」のどよめきでもある。熱中症になりませんように、という素朴な祈りかもしれない。
────────────ラム=ラグドール
ヒップホップ育ちは徒歩で里帰り
ヒップホップで育ったはずのものたちがヒップホップの精神に反する主張を掲げるのを何度も目にした。彼らは一度ヒップホップに里帰りするべきなのだ。徒歩で。
────────────ラム=ラグドール
そうかもね!と思わせる潔さ。ヒップホップの人は車を持ってるイメージが強いがそんなことは関係ない。
────────────小野寺里穂
東京育ちはよく歩くもんね。
────────────黒澤多生
ヒップホップ、って入ってるわりにフローがあんま良くないけど、内容はおもしろい。たぶんほんとはクソデカランドクルーザーで家なぎ倒しながら帰りたいのに、まだ無えマネーなんで徒歩、トホホってかんじ。迎えるものも特にない。あ、育ち、だからヒップホップやってるとは限らないのか。これどのヒップホップで育ったかによるな……Nasかな? Eminemだったら絶対徒歩じゃないもんな。飛んで帰るから。いや、帰らないから。
────────────西脇祥貴
幽霊の肝を温めすぎないで
ウィ・シェフ‼︎
────────────ササキリ ユウイチ
半生のレバーペーストとか、外をカリカリ中をトロっとさせる串焼きとか、美味しそう。幽霊なら食中毒にならそうな清潔感と冷製っぽさがあるのも面白い
────────────公共プール
夏っぽい注意書き。肝が冷える/肝を冷やすの逆、ってそういえばあるのかなと思って「肝 温まる」で調べたら体調改善ばっかり出て来た。健康になるらしい。満足して成仏しちゃうのかな。それはそれで幽霊には良さそうだけど……。幽霊研究者側の見解なんだろうか。だとしたらエゴじゃん! と本来ならもうちょっと軽く読むべきところ、幽霊のことが気になってきちゃった。披講前提ならそんなことなくさっと笑いが取れると思う。そういうレベルでポップ。ただ猛者だらけの場だと「ある」な、にされそうな気も。
────────────西脇祥貴
「幽霊に肝を冷やす」の対義語として理解できるのに一つ一つ細かくみていくと矛盾しているのが面白い。幽霊に肝あるの?肝を温めるとは?なぜ温めすぎてはいけないのか?「冷やす」の対義語が「温めすぎる」なのも面白い。
────────────黒澤多生
レントゲンは何のためです?とお味噌汁
すごい。お味噌汁に言わせたような句の置き方がすごい。味噌汁を挟んだ食卓で問われたようにも見えるし、お味噌汁自身が首傾げてるみたいでもあり、良い。ふたつのシーンに立てるだけの客体がある。たぶんこのお味噌汁は腕組みもできるし足もある。
────────────城崎ララ
しにたくないからだよ。しにたくないために放射線あびるんだ、まぬけだよね。と、でつなぐところでフローががたつく、と思いながらもじゃあどうすればが思いつけなかった。でもこれはお味噌汁を選んだことがすごい。お味噌汁と人間の距離を意識させたもの。そんな距離、あった!!! って。そしてその距離でされるべき話をちゃんとしている。実がなにかによっていくらでも切実になれるし、いくらでも軽薄にもなれる。あとお、が付いてるからかお味噌汁がですます調なのほんとよくつくりこんだなと思った。そうだよね! ってなるもん。だからだいすきお味噌汁。これが生活実感に即した生活の句、ってやつでしょう。
────────────西脇祥貴
これって本当にマッサージなんですか・・・?
────────────黒澤多生
お前を穿つための穴だよ
予定された穿ち。その穴。
────────────南雲ゆゆ
川柳です、という前提で聞く穿ちと、それを外して聞く穿ちって、こんな印象違う? と思った。川柳の前提を外したとき、とたんにサンデー漫画の台詞になるなあ、って……。川柳であることが明らかな場で、三要素までは知ってる人が読むなら効く部分はありそう。ただそうじゃないとき、この句がちゃんとゆさぶるかなあという気はする。穴で穿つ、はほんとはおかしいんだけど、穿つと穴が縁語だからそのおかしさに気づく前に流されちゃうおそれもある。ちょっと立ち止まらせないといけない、そのちょっとの間をもたせるには見た目がポップすぎるか。
────────────西脇祥貴
読者だけじゃもったいないと思った
────────────公共プール
言い放ち方が9番のアンサーとして合いすぎました。
────────────黒澤多生
歯にゆらぎ目がよこについてもそら似
認識が溶けてるねえ。夏。ひらがなの量がいいかんじ! あとゆらぎスタート。ゆらぐ世界なんですよ、からのひらがな多量、そして絶妙な容姿の溶解。ったってお馬もカメレオンも目はよこについてるんだからじつは溶解でなく変容。それでも(も!)そら似。そらまでひらがななのほんとすごいな、空似の空だけじゃなくてskyの空も出てくるもんな。それは「についても」が「似ついても」を呼ぶのも同様。でしかもほんと、ただの「そら似」でしかない。夏だ。夏のあたまが排出した句でしかない。これからはサマージャムよりこちら。このダル、このフローが夏。
────────────西脇祥貴
なんか深海魚っぽい。深海魚でも空。
────────────黒澤多生
犬王が頭をよぎる句。「目がよこについても」そら似でやり過ごせるのかな、本当に?
────────────城崎ララ
首のある花あきらめは悪いほう
花に首があるかなんて気にしたことがなかったし、だからあえてそう言われるとほう、とも思うし人間のことかとも思う。花より断然首のことを意識する。首に着せられた情報を探りまくってしまう、「首」を立たせるのにこういうやり方もあるんだ……。あきらめは~以降は備考みたいなバランス。新子先生一門の中でも新子先生エピゴーネンにおちいらなかったかっこいいみなさんの句を思わせるつくり。ただかっこいいみなさんはあきらめは~以降にもう少し重心を傾けてると思われる。いっぽうこの句はそこまででもない。花の色とか、そういう情報くらいあっさり添えているように見える。ひとえに「首」の立ち加減のなせる技。あきらめ以降も首への付与情報に見えてくる。であればこそ、具体的な花の名前が出てもよかったのかな、とは思った。
────────────西脇祥貴
パックンフラワー
────────────黒澤多生
発情は年一回と決めている
偉い。この主体は偉いな!というのが率直な感想。
────────────南雲ゆゆ
性的欲望のコントロール、理性として欲望しているのか、本能に欲望させられているのか、決定権がある方が理性的にみえるけど「1年は春夏秋冬と決めている」みたいなちっぽけなプライドみたいなのを感じた。
────────────黒澤多生
杉本博司さんの『ロスト・ヒューマン』って展覧会は、世界が滅亡したあとの感慨をいろんな立場の人(になり代わった著名人たち)が手紙にしたためて、かつそのそれぞれに合わせた廃墟を空間に作り込む、という形の展示だったらしい。その中のある部屋に、いろんな動物の発情期を比較したグラフみたいのが貼ってあって、そこで人間はたしか「年中」とされていた。だからこの句の主体を、いちおう句を出せているんだから人間ということにすれば、年中できる発情を年一回に抑えるという、よく言えば禁欲的な、軽く言えばジョジョの登場人物みたいなことをしている人だと読むことはできる。さらに軽く読めば、トホホなにおいもしてくる。年一回もできないところを、開き直っているみたいな。この筋が入ってくるために、読みの方針がぐしゃっとなった。個人の取り決めに、他者の位置からあまり言えることがなくて。いいと思う、それで。発情も疲れるし。あ、あれに近いな、「セクハラは上司のときにするものよ/渡辺隆夫」。そうかどうかは知らないけど、あなたにとってそういうものなんなら、それでいいんじゃないかな。
────────────西脇祥貴
濡れ太鼓愛国音頭エドモンド
こればっかりはこういうのに弱い。語感がとても良い。濡れ太鼓って何!太鼓の「こ」と愛国の「こ」が太鼓の「カッ」の役割をしてる気がする。
────────────黒澤多生
面白すぎる。この時期だからこそパンチラインが効いてる。けど、エドモンドだけは意図を探るとっかかりがなかったので、何とも言えない。
────────────南雲ゆゆ
スト6川柳でしょうか。エドモンドがエドモンド本田であるとはもちろん言い切れない。けど念のため検索したらエドモンド・オプティクスって会社くらいしか出て来なかった。だからこそこの固有名詞は読み手をふるいにかけるし、下五にそれがいる以上読後感にそれが与える影響たるや、たるや、って感じです。知らないで読む読みが知ってしまっている以上できないのでなんともむずかしい。どう見えるのかな。ただ上中はわりとおもしろい。これだけでジュニークになっててもおもしろいと思える。なんね濡れ太鼓って!
────────────西脇祥貴
振り付けで ごっつぁんチョップ してほしい
────────────公共プール
多目的トイレで天皇と腐る
天皇の川柳利用がどうしても好きなので反応してしまう。今の時代、「多目的トイレ」も「天皇」も広義の下ネタである。主体が天皇と何を行うのかに思いを致すと、それは「腐る」ことだと言う。身体が腐ると素直に読めば、多目的トイレは陵墓になる。大きさ的にはちょうど良いし、便器やトイレットペーパーが副葬品となる。ちなみに7・7の破調で9・8として読んだ。ところで天皇と言うとき、読み手は誰を想像するのだろう。今上陛下なのか、昭和天皇なのか、あるいは個人を想定しない象徴的な存在なのか。
────────────南雲ゆゆ
うっすらと嫌悪感がある。渡部の罪はでかい。
────────────黒澤多生
うー、惜しい。どうせ句跨るんだったら「天皇と腐る多目的トイレで」のがよかったと思ってしまった。まんま散文の並びが、この句ではせっかくの中身を安く上げてしまってるように見える。たぶん面白過ぎる「天皇と腐る」に対して「多目的トイレ」が字数のわりに密度が薄いんだろうな。含意が大きいのは承知のうえで(だれでも使えるトイレの「だれでも」、とは)、目で見てしまうとどうしても字幅が印象を食ってしまう。先に天皇と腐る絵を見せた後多目的トイレを出した方が、よりその含意にも思いを誘導しやすいと思う。これは披講される場合でもおなじはず。あー、いいんだけどな。
────────────西脇祥貴
堪え難きを堪え忍び難しを忍びってこういう場面もあるんだ。多目的の一つが腐敗なのもおもろい
────────────公共プール
川柳にどこまで倫理を持ち込むかの瀬戸際にある句だと思った。
────────────小野寺里穂
遠近法で中絶をする
遠近-中と法-絶のそれぞれの漢字が親しい組み合わせっぽくて、語彙としての違和感がすくなくてびっくりしたし、妊娠の中絶もおれの知らない遠近法があるのかと思った。胎児が消失点に向かっていって消えちゃうのかな。それは無責任な男の視点っぽいというのは皮肉。
────────────公共プール
遠近法というのが方法ではなく中絶をする根拠なのだと思った。遠くて近い法律で中絶をする。
────────────黒澤多生
中身はいいけど音数揃えの「を」はいただけない。より短い七七を選ぶならなおさら、思ったより目立ってしまってる。それならいっそ語尾に賭けて「遠近法で中絶したよ」とかにしたら……とも思ったけどそれじゃどこまで行っても「選球眼でウインクしたよ/暮田真名」の後追いか。いや、にしたってこの暮田さん句へのアンサーとしてはだいぶ面白い(中絶を面白いと言っているわけではないです。念のため)。軽さが中絶の絶望をよりぐしゃぐしゃなかたちで読み手にぶつけてくるし、その手法としていにしえの遠近法を持ち出すあたり、闇はいよいよ深くなる。ごめん勝手に変えたうえその句の評書いて。でもそれだけこの句では「を」が気になってしまった。
────────────西脇祥貴
ここにいるみんな象られて踏み絵
「ここにいるみんな」がどこを指しているか不明だがなんとなく自分が含まれているような気になる。例えばこのビー面の場だろうか。そうなるとここの人間関係や理念みたいなものを踏み絵として迫られているような気になる。少し意地悪さや嫌さを感じるが面白い。
────────────スズキ皐月
ぞうられて、と読みたい。象られる。踏んでも踏まれても大丈夫。
────────────黒澤多生
絵踏の踏絵はレリーフだったな、ということからあらためて確かめつつ読みました(「象られ」の与える微妙な肉感)。全人類の原罪を代表して背負ったから踏絵にはイエスひとりが載れば済んでたのに、それじゃ足りなかったんだ。原罪への贖いはやっぱり一人に代表させて済むものじゃなかった、なんて現状見てればそりゃそうだよ。じゃあ、っつってイエスに代表させた「ここにいるみんな」へ演繹して踏絵を仕立て直す。それを踏む、とはどういうことだろう。いや、現在絵踏は行われていないんだから、それはただ現状のキャプチャーとしてあるただのモノなのかもしれない。「みんな」は鏡のように自分の「象られ」た踏絵を、踏まれない踏絵を見る。どう思うだろう。いっそ踏んでくれと思うだろうか。踏んでしまいたいと思うだろうか。踏まれるだろうことにおびえるだろうか。踏絵の表情は変わらない。でもしかしもう「みんな」は、「象られて」しまった。踏まれようが踏まれまいが、何も動かない。なにひとつも。「みんな」規定されてしまった。圧倒的な虚しさ。もうここでおしまい。軽みと穿ちだけが救いで、だから読めてるけど、事実として突きつけられたら辛すぎると思う。
────────────西脇祥貴
読者がアイドルに仕立て上げられたうえに、弾圧に利用されちゃうんだ
────────────公共プール
なんだかホマレ。
────────────ササキリ ユウイチ
雨垂れ星 昨日、 壊て
縦で読むとより良さがある。「壊て」はこぼてと読むのだと初めて知った。「壊れて」 が壊れてるみたいでよかった
────────────黒澤多生
どう読むのかすごく迷ったし、色々空白を考えたりもしたけど全然わからなかった!わからないけど詩情のようなものは感じていたので予選としました。う〜ん読み取りたいぜ。
────────────城崎ララ
このまま降って来たのでこのまま出しました。ビー面しかないよな……と思いつつ。
────────────西脇祥貴
お皿をわって盛岡でくらそうよ
「作者が盛岡の人なのかな」みたいな想像をしないというか、そういう類の地方性がない句で、その上で盛岡じゃないといけない感じがする。
────────────南雲ゆゆ
そうする〜!って言いたくなる句。かるい口当たり。「お皿をわって」からお引越しの時割れ物を抱えて後ろをついて歩いた中也の姿まで見えた。お皿なんかわっちゃおう。お引越しの煩わしさなんて忘れちゃおう。楽しい暮らしが盛岡で待っている。そんな予感。
────────────城崎ララ
いい軽み! 「わって」「くらそうよ」がひらがななせいで、「盛岡」を覚えたての子どもがへんな角度から提案したライフハックみたいに見える。最高。ここまでスムーズに言い切られると、もはやどこも動かないと思いこまされる。その腕力も良し。お皿をわったら盛岡なんだ、理由はともかく。「子供よりシンジケートをつくろうよ(穂村さんの部分)」を思い出すものの、一歩生活のレベルに下りて来ているところで川柳味の足しになっていると思う。シンジケートをつくるより、お皿をわって盛岡でくらす方が現実にできそうだもんね。あとは盛岡側の視点のみ、か……。
────────────西脇祥貴
書を捨てよ、旅に出ようみたいでなごやか
────────────黒澤多生
これで最後 花火は胸を綴じました
ぼんやりし過ぎたか。
────────────西脇祥貴
無い千羽鶴が無いまま試着室
無が二重化されて空の試着室ということしかわからないのに、無の千羽鶴の存在をいやでも感じる。かつてあったのか、これから置かれるのか、そもそも何の関係もないのか。試着室という空間は、他の空間と比べて用途が限定されている。一人の人間が洋服に向き合うということは祈りのような行為と言えるのか。無い千羽鶴には祈れるのか。
────────────小野寺里穂
夏、八月、ということで戦争モチーフの多い今回(神棚、幽霊、レントゲン、首、愛国、天皇、踏み絵)。千羽鶴もそうだけどここでは「無い」千羽鶴。それはもちろん「無い」んだから「無いまま試着室」に入ることはある。つまり試着室にいる、というだけのことを言うにあたって、実はそのとき「無い千羽鶴」が「無いまま」試着室にいるんだ、とわざわざ言い直している。これは生活上のどんなシーンにも言える。手元に千羽鶴が無い以上、何をしていたってそれは「無い千羽鶴が無いまま」していること。そういわれることでより浮き上がってくる千羽鶴。祈りのかたち、そして祈りの前提としての残酷。千羽鶴なんて無いほうがいいに決まってる。同時に以前、災害のニュースかなにかで見た、千羽鶴を送られても置き場に困るという話を思い出す。祈りの形にしてはでかすぎるのだ、千羽鶴。とたん、モノは無いのに迫ってくる千羽鶴の存在感。物言わぬし、そもそもモノもないのに、なんだろうこの存在感。だからあえて「無い」って言わなきゃいけないのか。物言わなくて、モノがなくても、存在感がすでにでかいから。とここまで千羽鶴を整理して、やっと「試着室」が読める。薄着になるプライヴェートな空間。試着することよりもその属性のほうが、剝き身に近くなった自分と「無い」千羽鶴の存在感との距離のほうが、どうしても意識される。安易につないではいけないと思うものの、あの日裸で焼け死んだ人たちのことを、どうにも思い浮かべずにいられない。主体はいま生きている。からこそ、生きている主体の存在がより意識される。こういう方法で生きている自分の存在を確認するべきなのかもしれない、年に一、二度、八月くらいは。「無い」うえに「試着室」だから、すべてに音は無くことばもない。主体の存在の周りだけで意識される状態の句。あの頃との距離はそう無い、ずっと。
────────────西脇祥貴
無いが無いだからあるのだろうか。この書き方だと千羽鶴がたくさんあるように読み取れる。試着室も不思議ではあるが、千羽鶴が必ずある空間がまずこわい。そして試着室というプライバシーをとりあえず守ったような空間もこわい。
────────────スズキ皐月
「試着室」が惜しい、気がする。
────────────黒澤多生
わたしたちナルキッソスの猫なのに
いちおう確かめたけど「ナルキッソスの猫」なる説話はなさそう。そういう意味で雨月さんの言う故事成語をつくりにいってる句、に分けられそうな句。個人的にそうなりそうな句って、言い切りの強さとかは? と思わせる見た目のキャッチーさ、しかしその裏になにやらありそうで見えない軸を感じさせる、とか条件がいくつかあると思うんですけど、この句は「ナルキッソスの猫」にそのだいたいが詰まってて、フェイク故事成語みたいに仕上がってる。シュレディンガーの猫の既知の語感と、ナルキッソスという深さをもつ固有名詞がそう思わせるんでしょう。その上で、そんな故事成語があるものとして、「わたしたち」が語っている。一歩先行く、になってる。これができてるところにおおっ、ってなった。ただそういった余韻のわりにナルキッソスの猫が虚なので、何度か読み返すうちこちらにナルキッソスの猫を肉付けするよう要求されてる気分になってくる。それはな……と思った。でもこれが「ナルシシズムの猫」だったら、意味は通るけどこんなに惹かれたかな、とは思う。猫だから並選入れますが。
────────────西脇祥貴
自分だったら「わたしたち」のところに何か状態や出来事をいれるだろうなあ、と思いました。でも改めてみるとナルシズムに溢れた猫が集団でいる景はわりと面白いかも。
────────────黒澤多生
「笑える!」と壁一面にある図書館
オモロ怖い。この句の世界観なら児童学習書「笑える!」シリーズありそう。(『笑える!恐竜』とか) 森羅万象を「笑える!」に回収していく恐ろしい図書館。ここに来た君も、「笑える!」に収められるのかも。
────────────南雲ゆゆ
なんか、やだ。なんだけど、この言い方以外で説明するのは野暮というか、この言い方だからこそ伝わってくる「なんか、やだ。」があるのが魅力だと思いました。
────────────雨月茄子春
ヤな図書館だ〜!この厭さがいい。厭世のいい味がしている川柳。図書館なのがより一層イヤな感じで良い。販促のためではない。もっと純度の高い、なにか悪意めいたもの。笑える!の煽り方もそうなんだけど、読書体験に何らかの特定の感情を結びつけようとするのって邪悪な感じがする
────────────城崎ララ
音数がなんとも……読み上げてみると、説明しちゃってる感が出る音数。これはたぶんどうにかできたとおもう。「笑える!」はポップみたいなものなんだろうけど、だとするとちょっとそのままであり得る光景だと思った。「笑え!」ではグループ魂さんだけど、それくらい離れたほうがいい気がした。「壁一面」をどう読むか、だとして、壁一面全面が隙間無く「笑える!」なんだったら狂気だけど、「にある」がわずかにそれを緩めているのがおしい印象。図書館の書店化とか書店との協働とかは、もうけっこう進んでいるから……。
────────────西脇祥貴
「図書館はお静かに!」の隣にあると思うとだいぶ面白い。デカいは面白いを信じ抜いている。デカいは面白い。
────────────黒澤多生
貴方こそ永久歯には打ってつけ
こう言われたらなんと返事をすればよいだろう。「貴方」は「永久」と言われているような、不死を想像させる…?
────────────小野寺里穂
考えようによっては褒め言葉(丈夫で摩耗しにくい)?
────────────城崎ララ
プロポーズ
────────────黒澤多生
ラリッた世界の営業のひとが言ってきそうな台詞なんだけど根拠があり、それは永久歯に永久の部分があること。部分なのに永久。永久なのに部分。このカルトな無限ループは営業さんのみならず関わったすべてをラリらせる。すこぶる躁でコワい信心の切り抜き。というような筋を付けない場合、どこまでこのシンプルな入れ替えを楽しめるか……。いっそ元通り逆の方が(永久歯こそ貴方には~)へんな言い切りの怖さが出たかも。
────────────西脇祥貴
向日葵がモーターショーに黴びている
なんか悲しい気持ちになった。
────────────黒澤多生
叙景。そうだろうな、と思える景。場と、そこに置いたものがそうなるだろうな、という状態が一致してる。つまり筋は通ってる。問題はそこより、そこからかんじられる情念が典型的に見えること。典型的な情念のパッケージを模倣した、くらいメタな試みだったらともかく(だとしてもそう読めるサインは見当たらない)、これをどうして言いたかったんだろう、とつい思ってしまう。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのつもりで言っているなら足りない。
────────────西脇祥貴
枝豆の割れ目だね……とカブトムシ
カブトムシ!?枝豆の割れ目もわからないまま言い捨てて飛んでってしまうカブトムシが見えた。なんだったんだ……
────────────黒澤多生
道券はなさんの食いもんツイートだ! あと枝豆の割れ目って皮のってこと? この叙景は視点とショットの妙が効いてるんだけど、道券はなさんの食いもんツイートだと思わないと、三点リーダがやや情緒的過ぎて見える。カブトムシがキャラっぽくなりすぎるというか。この句の上ではそれが、あまり良く働かないでいる気がする。
────────────西脇祥貴
怪文書素敵怪文書印税
さいしょ怪文書「索敵」って読んじゃった。ふつうに素敵だった。17音だけど素敵、の評価の後に印税、がくるとちょっとちぐはぐに見えた。二つの説明がつながってないというか。それか各怪文書のタイトルなのかな?
────────────西脇祥貴
咽頭的──目抜き通りもバンジージャンプも
「咽頭的」のわからなさが面白い。あとに出てくるふたつはなんとなく共通項は見出せそうであるが咽頭的って感じがするかは判断が難しい。音に着目すれば「into的」ともとれるので、それで行けば共通項が咽頭的な気もしてくるが理屈で読みすぎだろうか。考えることが多くて面白い。
────────────スズキ皐月
「咽頭的」が面白い。
────────────南雲ゆゆ
「目抜き通り」に聞き馴染みがなかったけど、意味を調べたらなるほどバンジージャンプとそこが繋がるのね、と思った。
────────────黒澤多生
ダーシの使い方な……それこそ三点リーダじゃだめだったのかな。「キシヲタオ・・・(岡井隆さん)」みたいに。このダーシはちょっと速すぎて、せっかく面白い「咽頭的」を面白がり尽す前に目抜き通りとかに接続してしまっている気がする。なので咽頭的目抜き通りや咽頭的バンジージャンプが、ほんとはもっと面白いはずなのにさっ、と過ぎて終わってしまう。そこがややもったいない。
────────────西脇祥貴
壁が立ち一人称が過去になる
汲み取れない。人称に過去なんかないから、なんか汲み取れない。汲み取れた感じがするとき、なんか間違っている気がするんだよ。壁が立つというのは、壁に出会うということなんだけど、壁が立つのだから、壁が立ってもいいというか、なぜ壁は普段、立ちあがることがないのか。壁でないものが、なぜ壁と呼ばれることになったのか。
────────────ササキリ ユウイチ
なんか技巧的にすごいことをしている気がする。「立ち」「一人称」で「一人前」みたいな読みが勝手に連想されて、「壁」と「過去」で包括されてるイメージ。むずいけどもっと理解したい!
────────────黒澤多生
吊るしの御子 待ってたら来るパチンコ
17音。語呂はあきらめ、句の要請に任せた。一字開けが要るかどうか最後まで迷った。
────────────西脇祥貴
総評
今週体調不良もろもろで選だけです、すみません!
────────────nes
