深夜ラジオ【Midnight Glide】 ひなぎくのジェーンー30メートルのあいあい傘
夢の中の深夜ラジオ。番組名は『Midnight Glide』(真夜中の滑走)
DJ:レスター・ザ・ナイトフライ
僕は、10代の頃、深夜ラジオに夢中でした。DJが、夜空を旋回していて、急に僕の心の片隅に舞い降りて、素敵な音楽を”僕だけ”に届けてくれているような気がしました。ラジオはただの電波じゃなかった、今もそんな風に感じます。
僕に寄り添ってくれたそんなDJが、いつのまにか僕の中で「レスター・ザ・ナイトフライ」、そうドナルド・フェイゲンの1982年「The Nightfly」に登場する架空のDJと同化してしまいました。
そんな僕の夢の中のDJが語りかける、勝手気ままなラジオ番組、それが『Midnight Glide』です。
(チリチリ… レコードのノイズ、ゆっくりとターンテーブルが回る音)
ここは、誰にも言えない気持ちが、音にのって静かに滑り降りる場所─
『Midnight Glide』
ようっ!
今夜も滑走路、明かりは点いたぜ。
ここはFM99.9、深夜の管制塔。
『Midnight Glide』、ナビゲーターはこの俺、レスター・ザ・ナイトフライ
眠れないやつも、寝たくないやつも、勉強中のやつも、俺を待ってくれてたんだろ?。
今夜は、少しだけ風の匂いが違うような気がしないか?
え?暑さのせいじゃないかって?
違うよ。ニュースを耳にして、胸の奥がざらついた人もいるかもしれない。
俺も、そのひとりなんだ。
風の匂いは、そのニュースのせいだ。
オジー・オズボーン──“プリンス・オブ・ダークネス”。
あの狂気と哀しみのあいだを笑いながら歩くようなロックスターが、とうとうこの地上のステージから姿を消してしまった。7月5日のバーミンガムでサバスの最後のライブが、オジーの最後のライブになっちまったんだ。

こうもりを食らった話ばかりが有名になっちまったけど、あの人の声には、トゲと祈りが同居してた。
絶叫じゃないんだ。
叫ぶようでいて、どこかずっと誰かを呼んでるような、寂しげな声だった。
人が壊れてしまいそうなとき、夜が深すぎてもう戻れないようなとき、あの声が、冗談みたいなギターと一緒に、そっと手を伸ばしてくれることがあったんだ。
ブラック・サバスからソロへ、幾度となく地獄をくぐってきた男。
あの、もうろうとした瞳の奥には、どんな景色があったんだろうな。
だから今夜、俺たちの『Midnight Glide』は、この一曲から始めよう。
別れじゃなくて、飛び立ちでもなくて。
これは、いつかまた、ステージ裏で交わす握手のための乾杯だ。
"Dreamer" Ozzy Osbourne
♪~I'm just a dreamer, I dream my life away
僕はただの夢見る者──夢の中で生きてるんだ
I'm just a dreamer, who dreams of better days
僕はただの夢想家、もっと良い日々を夢見てる~♪
このMVを初めて見た時、ダースベイダーの師匠のパルパティーン卿に見えて、たまげたよ!
まあ、そんなことは、どうでもいい。
それにしても、
“I’m just a dreamer”っていうサビ、しびれるよな、そう思わないかい?
だってオジーが、叫ぶんだぜ?
強がりや狂気の仮面の下にある「本当の声」が宿っている気がするだろ?
狂った世界で、目をそらさずに生きようとして、
それでも壊れずにいるために、ヤツは“夢見る者”であり続けたんだろうな。
「ボクもただの夢見る者なんだよ」って思ってる君?
お便りありがとう!
14歳の君も、ぼんやりと”窓の外の世界を眺めながら夢見てる”んだろうな?
📨 手紙を紹介しちゃうぜ? 14歳のタカヒロ!
「レスターさん、はじめてお便りします。男のくせにちょっと恥ずかしい話だけど、聞いてください。
今、僕は14歳で、いま好きな女の子がいます。名前はヨーコちゃん。僕は野球部です。もちろん丸刈りです。彼女はテニス部で、ラケットを握るはつらつとしたプレーと友達と笑っている姿がまぶしくて、気づけばつい目で追ってしまいます。
このあいだも、休み時間にヨーコちゃんが、グランドにほうきの柄で、30メートルほどのおっきな”あいあい傘”を書いて笑ってたんです。右側には、”ヨーコ” 左側に空欄だったんで、ちょっとドキってしてしました。
彼女はボーイッシュでいて可愛くて、頭も良くて。でも、彼女には同じテニス部の彼氏がいるみたいです。ふたりが一緒に帰っているのを、何回か見てショックでした。だから30メートルの”あいあい傘”の左側の名前は、その彼だって知ったんです。でも、気持ちは、おさまりませんでした。
この前の朝、下駄箱前で彼女とすれちがったのに、「おはよう」も言えませんでした。ただうつむいて通り過ぎてしまって、あとでとても後悔しました。
声をかけたかったのに、なんでできなかったのか、自分でもよくわかりません。怖かったのかもしれません。それとも、声をかけてしまったら、なにかが終わってしまうような気がしていたのかもしれません。
でも、気になっちゃうんです。
こんな気持ちははじめてで、どうしていいかわからなくなって、誰かに聞いてほしくて、この手紙を書きました」
(🎙 レスターの語り)
グランドに書いた30メートルのあいあい傘かよ~!!!
そりゃ俺もそんなヨーコちゃんを好きになりそうだ。
ヨーコちゃんの姿を想像したら、タカヒロの気持ちなんとなくわかるよ。
でも、彼女にはもう彼氏がいる。
その時点で、言葉ってどこかに吹き飛んじゃうよな?
グローブの紐は結びなおせても、心のボールは投げられなったんだよな?
でもタカヒロ、ちゃんと「好き」って気持ちを持ってるじゃないか。
それだけで、十分立派だ。
報われるとか、手に入るとか、そんなことよりも
誰かのことを本気で想うって、人生で何度できると思う?
タカヒロの恋は、今はまだ始まってもいないのかもしれない。
だけどな、その想いが育ててくれるものがあるんだよ。
優しさとか、強さとか、ちょっとだけ大人になることとか
全部、君の未来に繋がってるんだ。
今夜、君に届けたい曲がある。
1975年、アメリカが出した、静かで、やさしくて、少し哀しいラブソング。
タイトルは「ひなぎくのジェーン」
彼女のことを今でも想ってる。彼女が誰といるのかなんて、もう関係ない。
それでも、もう一度会いたくて
彼は飛行機に乗る。遠く、デイジー・ジェーンの町へ。
恋ってのはさ、
前に進むことだけが正解じゃない。
忘れられない想いを、忘れないまま生きていくのも、立派な答えだ。
だから、自分のその気持ち、大事にしてほしい。
きっと、未来の誰かがタカヒロのその心に、気づいてくれる。
それじゃあ、聴いてくれ
Americaで、「ひなぎくのジェーン」
♪~Oh, Daisy Jane
Don’t you know that I’m here alone?
I won’t sleep until I find you again
デイジー・ジェーン
僕がまだ一人きりなのを君は知らないだろう
もう一度君に会えるまでは、きっと眠れないよ~♪
ちょっとむつかしかったかい?でも、14歳はもうりっぱな男だしな?
また恋したら便りを送ってくれよ?レスター・ザ・ナイトフライに。
深夜になれば、君の頭の上を旋回してるから。
さて、夜も更けてきた。
今夜のラストは、アリシア・シーズとジョン・メイヤーでしめよう。
甘くて、切なくて、ちょっと大人な夜の曲だ。
ラジオの前の オジーのように”夢見るきみ”へ
きみの大切な誰かを想いながら聴いてみてくれ。
Alicia Keys&John Mayer - If I ain't got you
『Midnight Glide』
君の心の滑走路は、まだまだ灯りがついてるぜ。
また次の夜にも、手紙を待ってる。
レスター・ザ・ナイトフライでした。
(針がゆっくりとレコードを離れ、ターンテーブルの回転が止まる音…)
