【第2章】 変身 〜後編〜
第1章『 ピエロ 〜前編〜 』
前話 『 変身 〜前編〜 』
「ハシブ、大変だガア!!」
上空から数羽のカラスがバサバサバサと慌ただしく公園へ舞い降りてきて、
「化け猫にクロヤンが喰い殺されちまったガア!」
さっきまであたしと話していたカラスは『ハシブ』という名前らしい。
「なんで、そんなことになったガア!」
叫ぶハシブに、仲間のカラスたちが興奮しながら、
「化け猫がサンマの薫製を隠している場所を見つけたからって、アイツ、一人で向かったんだガア!」
「そしたら、その場所にはサンマの薫製なんて無いどころか、草むらに隠れて待ち構えていた化け猫に喰われちまったんだガア!」
化け猫に喰われてしまった哀れなクロヤンについて、ギャア、ギャア、ギャアと話している。
カラスたちの話を黙って聞いていたあたしは心の中で、クロヤンが化け猫に食べられちゃったのは自業自得じゃない、と思っていた。
だって、化け猫のサンマを奪おうとしたのはクロヤンのほうなんだし、そういう悪いことをしなければ食べられなかったはずだもの。
「アイツ、この間さあ、化け猫の隠し持っていた小魚のチップスを偶然見つけて、俺たちへごちそうしてくれたガア……」
ハシブがクロヤンを懐かしむように言う。
仲間のカラスたちも、
「魚はめったに食べられないご馳走だから、あれは嬉しかったガア!」
「小魚チップス、美味かったガア!」
「また食べたいガア~~!」
涙とヨダレを同時に垂れ流している。
あたしは笑いをこらえながら、カラスたちの会話に耳を傾けた。
「それで、アイツ、今回もうまくいくって思ったんだガア!」
「しかも、今回はサンマの薫製がいっぱい隠されてるっていう、ドブネズミの情報をどこかで仕入れたみたいで、嬉しそうに向かったんだガア!」
「そしたら、バックリ、自分が喰われちまったガア!」
「化け猫に騙されたんだガア! 無念だガア!」
ワチャ~~……。
あたしも、化け猫に食べられちゃったクロヤンと同じじゃん……。
バスケットボールをマジックで出したり、あたしがバスケ部を辞めたことや、お父さんのリストラをカード占いで当てたピエロなら、あたしの不幸な運命を変えてくれるかもなんて甘い考えで、積極的にカード占いに参加しちゃってたんだもん……。
あのとき、ピエロのカード占いを断って、さっさと公園から出てれば、こんな醜いカラスになんてされなかったんだよ……。
それなのに、ついついピエロの占いを信じちゃって、カードを五枚も引いたりしたから、こんな目に……。
ていうか、そもそも、学校をさぼってこの公園に来なければ、ピエロに会うこともなかったんじゃないの?
ていうか、バスケ部に入部しなければ、学校をさぼってなんかなかったんじゃないの?
ていうか、あんなくだらない熱血少女バスケのアニメなんかにハマらなければ、バスケ部に入部してなかったんじゃないの?
いままで、あたしが選んできたことすべてが『ハズレ』で、選ばなかったことのほうが『アタリ』だったんだ……。
あたしの選ぶ道は、全部『ハズレ』ばっかり……。
全部、選んだあたしのせいなんだ……。
自分を責め続けることで、胸が締めつけられるような、心がぐちゃぐちゃになるような、やりきれない気持ちでいっぱいになる。
「やめてよ! そんなわけないじゃない!」
あたしはありったけの大声で叫んだ。
「あたしは、カラスに変身させられた被害者なのよ! あたしはなんにも悪くない! こんな目にあわせたピエロが全部、悪いのよ!!」
化け猫とクロヤンとサンマの話題で盛り上がっていたカラスたちがクチバシを閉じ、びっくりした顔であたしを見ている。
「あ……えと……ごめんなさい……」
あたしは目を伏せながら小さな声で謝った。
「みんな、ちょっと聞いてくれるガア?」
ハシブが広げたツバサをあたしの体にやさしく乗せて、
「この人、最近いろいろ大変なことがあったみたいで、ちょっと疲れてるんだガア。だから、みんなもやさしく接してあげて欲しいガア」
仲間のカラスたちへ、あたしのことをフォローしてくれた。
あたしはハシブへ微笑みながら「ありがとう」と心の中でつぶやいた。
「だったら、疲れてるときは羽虫を食べてファイト一発だガア!」
カラスたちがあたしを取り囲み、
「これから一緒に、羽虫を食べに行くガア!」
「オレ、いい穴場見つけたんだガア!」
「クウ~~腹減ったガア~~」
ヨダレをダラダラ流しながらフレンドリーに話しかけてきた。
えっ……?
さっきまで、仲間のクロヤンが化け猫に食べられて悲しんでたんじゃないの……?
仲間の死よりも、食欲優先なわけ……?
それに、あたし、羽虫なんて、まったく、ぜんぜん、食べたくないんですけど……。
唖然としているあたしの肩を、カラスたちがツバサでポンポンとやさしく叩きながら、
「元気を出すガア!」
「今日は、羽虫のバイキングディナーだガア!」
バサバサと勢いよく上空へ飛びたっていく。
「さあ、一緒に行くガア!」
ハシブが、あたしへ明るく声を掛けながら、
「急がないと食いっぱぐれちまうガア~~!」
空中へ舞い上がった。
「ちょっと待って~~」
あたしも砂塗れになっていた黒いツバサをバタバタと羽ばたかせながら、
「羽虫じゃない食べ物ってなにがあるの~~?」
両足で思い切り地面を蹴って、ジャンプした。
✻
さっきまで青かった空がいつの間にか、夕焼け空に変わっていた。
あたしの住んでいる町がミニチュア模型のジオラマみたいに見える。
あたしはいま、空を飛んでいる……。
オレンジ色に染まった、どこまでも果てしなく広がっている大空。
全身で感じる、心地良い風の流れ。
地面から解き放たれた、解放感。
黒くて醜いカラスの姿になってしまったけれど、
「これはこれで、ちょっとだけ『アタリ』かも……」
羽虫の大群を争うように食べまくっているハシブたちを眺めながら、しばらくはカラスライフに挑戦してみようと思った。

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