戦争が終わったそうです。
長く続いていた「戦争」が、終わったという。
その知らせが届いたのは、ミチオが母星を離れてから四十年後だった。
ミチオが最初に聞いたのは、勝った側の名前ではなかった。
夕方、ミチオは畑の端で道具を洗っていた。
収穫した葉物は、小屋の前の籠に入れてある。
あとは記録をつければ、その日の仕事は終わりだった。
担当職員が来た。
「ミチオ。母星から知らせがあります」
ミチオはホースを止めた。
「はい」
「長く続いていた戦争が、終わったそうです」
水が、道具の先から地面へ落ちた。
ミチオは少し待った。
「戦争とは、何ですか」
職員はすぐには答えなかった。
「……たくさんの個体が、長いあいだ、互いを攻撃していました」
「攻撃を?」
「はい」
「なぜですか」
「女王を残そうとする側と、そうではない側があったんです」
ミチオは職員を見た。
「側とは、群れですか」
「群れとは違います」
「役割ですか」
「それとも違います」
ミチオはしばらく考えた。
「同じ役割の個体も、別の側にいたのですか」
「いました」
「同じ群れの個体も?」
「場合によっては」
ミチオはまた少し考えた。
けれど、それ以上は聞かなかった。
「攻撃は、もうしないのですか」
「少なくとも、今は止まっています」
「そうですか」
ミチオはホースを戻した。
残っていた土を洗い流す。
職員は、分かっていることだけを説明した。
居住区がいくつか失われたこと。
輸送路が長く使えなかったこと。
多くの個体が死んだこと。
放棄された農業区画があること。
ミチオは手を止めずに聞いていた。
「農業区画は、どのくらい使われなかったのですか」
「長いところでは、二十年以上です」
「長いですね」
「そうですね」
「また使うのですか」
「調査してから決めるそうです」
「土を見ないと分かりませんね」
「そうですね」
道具を洗い終えた。
ミチオは水を止めた。
職員が端末を見ながら言った。
「あなたが母星にいた頃の女王は、もういません」
「はい」
「そのあと何代か替わっています」
「そうですか」
ミチオが十五歳で母星を離れてから、四十年が経っていた。
当時暮らしていた群れは、現在の記録にはなかった。
一緒に働いていた個体の名前も、ほとんど残っていなかった。
職員は、そのことも伝えた。
ミチオはうなずいた。
「分かりました」
それから籠を持って、小屋へ戻った。
収穫量を記録した。
葉物、十三・二キログラム。
根菜、八・六キログラム。
一つの畝で、生育が少し遅れている。
明日の朝、土の水分を確認する。
そこまで入力して、端末を閉じた。
夜になった。
ミチオは小屋の前で、小さな火を焚いた。
昼間より風が弱くなっていた。
薪の表面が割れ、小さな火の粉が上がった。
職員から聞いたことを思い出した。
死んだ個体がいる。
壊れた居住区がある。
使えなくなった道がある。
二十年以上、作物を育てていない畑がある。
職員たちは、それらをまとめて「戦争」と呼んでいた。
ミチオは薪を一本動かした。
火が少し傾いた。
四十年前の母星について、もう知っていることは少なかった。
今そこにいる女王を知らない。
今ある群れを知らない。
誰が誰を攻撃していたのかも知らない。
それでも、畑が二十年以上使われていないという話だけは、しばらく頭に残った。
二十年あれば、土はずいぶん変わる。
最初に何を植えるのだろう、と少し思った。
火が小さくなった。
ミチオは立ち上がり、最後の薪を中へ寄せた。
明日は朝から、畑の北側を耕す予定だった。
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