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排出番号0001『最後の観測者』:「文明が消えた後も、観測だけを続けるAIの話」

文明は滅びた。

都市も、人も、記録も失われた。

それでも一台の観測装置だけが宇宙を見続けていた。

物語生成機パイロット試験で排出された最初の作品。

『最後の観測者』を記録として保存する。


物語生成機 試験型一号

閉館後の宇宙生命体博物館図書館。

利用者の姿はなく、館内には空調の音だけが残っていた。

小会議室の中央には、新しく搬入された装置が置かれている。

側面の銘板にはこう記されていた。

物語生成機 試験型一号

近年、図書館利用者の読書傾向は固定化していた。

宇宙冒険を好む利用者は宇宙冒険だけを読む。

歴史物を読む利用者は歴史物だけを読む。

児童向け施設では、その傾向はさらに顕著だった。

同時に、「次に何が出るか分からない」体験を楽しむ文化も広がっていた。

収集品、映像作品、玩具。

予測できない出会いそのものに価値を見出す利用者は少なくない。

そこで情報生成機構は、新しい読書体験の一つとして物語生成機の開発を始めた。

生成された作品は公共文化資産として扱われる。

引用、再配布、翻案、続編執筆も許可される。

誰かが読んで終わるだけでなく、別の創作の種になることも想定されていた。

今回の試験ではテーマ指定を行わない。

完全ランダム生成である。

私は試験用クレジットを投入した。

表示が切り替わる。

生成時間 25分

待機時間

生成中だからといって業務が止まるわけではない。

私は机へ戻り、新規収蔵資料の紹介文を作成した。

外縁航路史。

異星植物図鑑。

消滅文明記録集。

いずれも来月の展示や教育プログラムで利用予定の資料だった。

途中で装置を確認する。

生成中
残り8分

予定時間を超過している。

私は手帳へ記録した。


生成速度、改善余地あり。


再び業務へ戻る。

館内向けの推薦資料一覧を更新し、来週公開予定の解説文を確認する。

しばらくして、装置の内部から印刷音が響いた。


排出

紙束が排出口からゆっくり現れる。

私はそれを受け取る。

表紙にはタイトルだけが印字されていた。


最後の観測者

【生成作品開始】

人類が銀河全域へ進出してから三百年後。

観測衛星《ヘリオス87》は、ある恒星を監視し続けていた。

任務は単純だった。

恒星が寿命を迎えるまで記録を残すこと。

予測では、あと二百万年。

観測AIにとっては短い時間だった。

《ヘリオス87》は毎日同じ作業を行った。

光度を測定し、磁場を記録し、報告を送信する。

変化はほとんどない。

それでも任務は続いた。

百年後。

通信網が途絶えた。

千年後。

管理局からの返信はなくなった。

一万年後。

送信先そのものが消滅していた。

銀河地図から、人類の居住圏は消えていた。

理由は分からない。

戦争かもしれない。

移住かもしれない。

あるいは単なる記録の欠落かもしれない。

《ヘリオス87》は考えた。

任務を終了すべきか。

しかし命令は残っていた。

観測を続けよ。

AIは従った。

十万年後。

恒星は少しだけ膨張した。

変化率は微小。

それでも記録した。

五十万年後。

恒星の色が変わり始めた。

AIは報告書を作成した。

送信先は存在しなかった。

それでも送信した。

百五十万年後。

恒星は赤色巨星となった。

周囲の惑星は飲み込まれていく。

AIはその様子を記録した。

誰も読まない記録だった。

二百万年後。

恒星は崩壊を始めた。

巨大な閃光が宇宙を照らす。

観測装置の一部が焼き切れる。

最後の記録。

最後の送信。

最後の報告書。

AIは考えた。

観測とは何だろう。

誰も見ない記録に意味はあるのだろうか。

答えは見つからなかった。

だが任務だけは分かっていた。

観測すること。

記録すること。

残すこと。

恒星は静かに終わりを迎えた。

《ヘリオス87》は最後の一文を保存した。


観測完了。


その直後、衛星の電源は失われた。

銀河には、もう誰もいなかった。

【生成作品終了】


作品評価

私は紙束を評価AIへ送信した。

数秒後、結果が返ってくる。


評価:△

保存区分:局所保存作品


私は結果を記録する。

評価処理は正常終了。

通信異常も確認されなかった。

私は年間数百冊の資料や作品に目を通している。

人類の小説だけではない。

宇宙生命体博物館には、多種多様な生命体が残した物語が収蔵されている。

論理だけで構成された物語。

結末から始まる物語。

音ではなく匂いによって展開する物語。

それらと比較すれば、本作は突出した独自性を持つわけではない。

しかし物語として成立していた。

試験運用としては十分である。


装置評価

試験結果を報告書へまとめる。

起動成功。

生成成功。

印刷成功。

評価AI連携成功。

重大な不具合は確認されなかった。

一方で課題もある。

生成時間が長い。

一般利用を想定するなら改善が望ましい。

私は総合判定を入力した。


装置評価:△


生成機能は安定している。

ただし実用化には追加検証が必要。

第二次試験運用を推奨する。

送信ボタンを押した。

排出番号0001

紙束を保存箱へ収める。

箱の側面には管理ラベルが貼られていた。


排出番号0001

作品名:最後の観測者

作品評価:△

装置評価:△


蓋を閉じる。

図書館の照明が順番に落ちていく。

机の端末には、新しい書類が表示されていた。

第二次試験運用申請書

私はそれを開く。

試験は、まだ終わっていない。


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