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#22 3度の流産を乗り越えて、私は母になった

医師に「不育症」と告げられたとき、自分の心と向き合うため、久しぶりに実家を訪れる決意をした。あの頃の気持ちに、ひと区切りつけたかった。
けれど、実家に足を踏み入れた瞬間、どこか“他人の家”のような感覚がした。「ああ、私はもう、ここを“自分の家”だとは思えないんだな」と、ぼんやり思った。

父の姿はなかった。会うつもりもなかったし、正直、いてほしくないと思っていたから、少しホッとした。
言葉にできない空気が漂い、長い沈黙が続いた。
少しずつ、テレビの話題や当たり障りのない会話を交わす。もし相手が他人だったら、1時間も耐えられないような空気の中、ただそこにいた。

「何もない?」と心配してくれる母と兄の気配を感じながら、うまく返事ができない自分がいて、胸が詰まった。でも、ほんの少しだけ歩み寄ろうとする気持ちが、自分の中に芽生えていた。
言葉にはできなかったけれど、心の奥でつぶやいた。「生んでくれてありがとう」と。

その日を境に、私たちは誕生日だけ「おめでとう」とメッセージを送り合う関係になった。
血縁よりも遠くて、でも他人よりは少し近い。それが今の、私と母と兄のかたち。

気持ちを穏やかに保ちながら、「今回ダメでも仕方ない」と思って、妊活を始めた。
ホルモンバランスが崩れ、生理周期も乱れ、「うまくいくのかな…」と不安を抱えながら、不妊治療のような日々を繰り返した。
先生に勧められた葉酸サプリを毎日飲み、お腹を締め付けないよう気をつけて、食事の栄養バランスにも意識を向けた。

そして──
まだ胎嚢すら見えなかったのに、心拍が確認できた。小さくて目に見えない命に、心から感謝した。
自分のことなんてどうでもよくて、ただ早く我が子に会いたいと思った。

妊娠してからは、絶対に流産したくないと神経質になり、少しの痛みにも過敏になった。お腹が大きくなるたび、検診のたびにホッとして、成長を確認するたびに心から安堵した。
旦那と名前もすぐに決めた。

ある日の午前中、診察で「高位破水している」と告げられた。
前夜は茶色いおりもの、朝にはピンクや赤っぽいおりものが少量出たが、「おしるしかな」と思い込んでいた。
ネットには「破水は透明」「黄色っぽい」と書かれていて、実際に出たものが水っぽいのか粘着質なのか判断がつかず、迷っているうちに時間が過ぎてしまった。今思えば、少しでも迷ったらすぐ病院に連絡すべきだったと思う。

前駆陣痛のような軽い痛みはあったけれど、本陣痛は経験しないまま。
赤ちゃんの頭は降りておらず、子宮口も開いていない。骨盤の状態も良くなくて──「赤ちゃんが苦しくなるかもしれない」と、緊急帝王切開が決まった。

あまりにも急な展開で、言われるまま、されるまま。怖がる暇もなかった。
予定日を過ぎていたこともあり、「最悪は帝王切開かも」と聞いていたので多少の覚悟はあったけれど、実際には想像以上に緊張して体がこわばった。

太い点滴、浣腸、尿道カテーテル、腰への麻酔……。
意識はあるのに、下半身の感覚がなくなっていく不思議な感覚。
麻酔を入れるとき、スタッフが「色白だね〜」と話しているのが聞こえて、なんだかちょっと和んだ(笑)。

でも、意識があるからこそ「何をされているのかわからない」ことが怖くて、助産師さんの手をギュッと握って耐えた。
それでも、早く赤ちゃんに会いたかった。

産声が聞こえて、赤ちゃんが横に来た瞬間──想像以上だった。
「わあ…この子が…」と、胸がいっぱいになった。

男の子だった。自分の出血の音が耳に響いて、「赤ちゃんに何かあったの!?」と体が自然に動いてしまった(笑)。

「子どもを愛せるか」悩んでいたことが、遠い昔のよう。母親になるって、本当にすごい。

その後すぐに全身麻酔に切り替わり、意識が遠のいた。術後の曖昧な記憶の中で、「お腹すいた」と何度も言っていたらしくて、それが自分らしいなと思った(笑)。

目が覚めると病室で、旦那が涙ぐみながら「ありがとな。よく頑張ったな」って何度も言ってくれて、私も涙が出た。
旦那が「自分の子ども、めっちゃ可愛い」って言ってくれて、本当に嬉しかった。この人の子どもを産めてよかったと、心から思った。

赤ちゃんは感染もなく無事だった。
コロナの影響で退院まで会えなかったのは寂しかったけれど、とにかく無事で安心した。

麻酔の影響で声は枯れ、頭もぼんやりしていた。夜には麻酔が切れ、一気に痛みが押し寄せてきた。
痛み止めの点滴を2回打って、朝を迎えた。左腕の針の部分が焼けるように痛くて、むしろその痛みで気が紛れたほど。

術後2日目の朝、尿管を外すために立ち上がる練習。これが本当に痛くて、腰は曲がり、歩くだけで激痛。
でも一度立てたら、二度目は少しだけマシになった。トイレに一人で行かなきゃいけないから、必死だった。

夕方、赤ちゃんを少しだけ連れてきてもらえて、どうしても顔が見たくて、痛みをこらえて近づいた。
初めて抱っこしたその瞬間、愛しさがあふれてきた。「この子が、お腹から出てきたんだ…」って。
たくさん写真を撮って、旦那にもいっぱい送った。「早くおうちに帰りたいなあ」と思った。

人生でお腹を切るなんて思ってもいなかった。でもこの経験を通して、今までの人生が変わったような気がする。

翌日、点滴の針の部分が限界で、手がむくんで腫れた。鉄剤の注射も激痛だったけれど、ようやく点滴が外れて反対の腕に替えられ、痛みから解放された。
ロキソニンも半錠に減り、「こんなに早く回復するんだ…!」と驚いた。術後3日目には体重が5kg減っていた。妊娠前の体重にはまだ戻っていないけれど、少しずつ近づいている。

部屋も移動し、ベッドも楽になった。まるでホテルのような部屋に、ボリューム満点で美味しい料理。普通の食事に戻れたことが嬉しかった。

お腹の痛みはまだあるけれど、少しずつ歩けるようになってきた。
初めての授乳も始まり、おむつ替えも抱っこも、まだ不慣れで不安。でも、ひとつずつ学びながら。

退院までの1週間は、初めての経験ばかりだった。
心から望んだ我が子──愛せるかどうか悩んでいたのが、ちっぽけに思えるほどだった。
きっと、同じことで悩む人もいると思う。でも私はこう思えた。「生んでからでは後戻りできないからこそ、人は悩むのだ」と。

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