小さな庭から、地球を守る 〜イギリスのガーデニングが教えてくれた、植物との新しい関係〜
イングリッシュガーデンと聞くと、美しいバラや整えられた芝生を思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし今、英国では「庭づくり」が、単なる美的趣味に留まらず、環境保全へのアクションとして再び注目されています。

ガーデニング=気候アクション?
イギリスには、RHS(Royal Horticultural Society:英国王立園芸協会)という団体があります。
ガーデニングの普及だけでなく、教育、研究、そしてサステナビリティ推進にも力を入れている組織で、多くのガーデナーにとっての“知の拠点”のような存在です。
そんなRHSが今、発信しているのが「ガーデニングは地球環境を守る力になる」というメッセージなのです。実際、エコ・ガーデニングには、人と地球の両方にとってたくさんのメリットがあります。ガーデンの樹木や草花は、 大気浄化、雨水の吸収・洪水リスクの低減、 都市のヒートアイランド現象の緩和、ポリネーター(花粉媒介生物)の保護といった恩恵を、社会にもたらしています。つまりガーデニングは、個人レベルでこうした生態系機能を強化する「気候適応策(Climate Adaptation Measure)」にもなり得るのです。もちろん広い庭でなくても、小さなスペースでも、自分自身のペースで変化の担い手になれるのです。

ガーデナーが本気を出すと、地球11周分のCO₂が削減できる?
木はまさに、「空気をきれいにするエコの王様」。庭に木を1本植えるだけで、何十年にもわたって炭素を吸い、酸素を放ち、私たちの暮らしを守ってくれています。
そして、ガーデン(庭)は、実はとても大きな面積を占める、貴重な「生き物たちのすみか」です。
英国全体の庭を合わせてみると、その面積は50万ヘクタールを超え、これはノーフォーク州全体に匹敵する広さ!英国には約3,000万人ものガーデナー(ガーデニングが趣味の方も含む)がいます。つまり、一人ひとりがちょっと意識を変えるだけで、大きなインパクトになる可能性があるわけです。
例えば、窓辺に置いた小さな鉢植えにも、ミツバチなどのポリネーターを呼び寄せる力があります。
庭は、個人のスペースでありながら、街や地球全体と密接につながっている「インターフェース」。選ぶ素材や植物ひとつで、未来を左右する力を持っているという視点が重要なのです。
気候変動対策に、ガーデンでできることがある
異常気象(洪水や猛暑)が増えている今、ガーデナーは気候変動の「原因」と「影響」の両方に働きかけられる立場にあります。
例えば、ツタ植物(アイビー)を建物を覆っていると、夏は家を涼しく保ち、冬は保温効果を発揮します。
樹木やヘッジは、二酸化炭素を吸収し、酸素を作り、雨水を吸収して洪水を防止してくれます。また、健康な土壌は、炭素を地中に閉じ込めて、大気への放出を抑えてくれます。
その他、
・エコガーデニングを意識し、 環境に合った植物を「適材適所」で選ぶと、無理なく育ち、お手入れも簡単になります。
• 除草剤や化学肥料を使わないことは、環境にも人にも優しく、コストも削減できます。
• 芝生を頻繁に刈らずに、ナチュラルな状態を保つことで、思いがけない野生植物(例:野生ラン)が現れることも。
人の手で「完璧に整えよう」とするより、自然の力に任せた方が、むしろ美しく豊かな庭になることもあるわけです。

今、多くの動植物が絶滅の危機にさらされています。動物たちだけでなく、彼らの食物連鎖の下にある「虫たち」も減ってきています。けれど、 30%以上の食べ物は、昆虫による花粉媒介に依存していますし、ミツバチがいなくなれば、リンゴもイチゴもアーモンドも育ちません。
つまり、食糧安全保障は、ミクロな生態系に支えられていて、虫がいなくなると、農業も人間の食生活も成り立たなくなるわけで、まさに「小さな命=大きな未来」とも言えましょう。
植物の力は、人間のためでもある
緑豊かな空間は、単に視覚的な癒しをもたらすだけではありません。
現代心理学、特にガーデンサイコロジー(園芸心理学)の研究では、庭づくりや園芸活動が、人間のストレスホルモン(コルチゾール)を減少させ、幸福感やレジリエンス(精神的回復力)を高めることが示されています。
実際、英国では「Green Care」と呼ばれる、ガーデニングを活用した心身のリハビリテーションプログラムが医療・福祉・教育の現場で積極的に導入されています。土に触れる、植物を育てる、自然と呼吸を合わせる——これらの小さな行為が、心を整え、ウェルビーイング(well-being)を高める力になるのです。
私たちは、例え 小さなスペースでも、できることはたくさんあります。自然と共に生きることで、心も環境も健やかになります。

英国発、10のサステナブル・ガーデニングアクション
RHSが提案する地球にやさしい10のガーデニング行動を、日本の暮らしにも取り入れやすい形でご紹介します。
① 木を植える→ CO₂を吸収し、日陰をつくり、鳥たちのすみかにもなります。
② 雨水を使う→ 「Mains to Rains」というキャンペーンで雨水利用を推奨。
ウォーターバット(雨水タンク)で水を貯めて再利用すれば、CO₂と水道代のダブル削減に。
③ ピート(泥炭)を使わない→ ピートは炭素を多く含む湿地の一種。採掘すると温暖化が進むため、要注意。
④ コンポストを作る→ キッチンの野菜くずや落ち葉を肥料に再生。市販の培養土を買うよりずっとエコで経済的です。
⑤ 壁面にもグリーンを→ 1㎡の緑が、ヒートアイランド対策や豪雨時の吸水、空気清浄に大活躍。
⑥ ポリネーター(花粉媒体生物)を保護するための花を育てる→ ミツバチや蝶は果物や野菜の受粉を助ける大切な存在。彼らが好む花を植えることが生態系の回復につながります。

⑦ 国産や自家栽培の花を選ぶ→ 輸送でCO2も排出されますので、できるだけ近くで育ったものを。
⑧ ガーデンツールを電動に変える→ ガソリン式の機械は騒音もCO₂も多め。電動式は環境にも耳にもやさしい選択。
⑨ 自分の植物を記録する→ RHSの「My Garden」では全国の植物データを集めて生物多様性を可視化中。私たちも、庭の記録が未来の研究につながるかもしれません。
⑩ 地産地消・無農薬の野菜づくり→ 家庭菜園は最高のエコフード。輸送・包装ゼロ、農薬ゼロで、食卓にも安心と季節感を届けてくれます。ガーデニングは「自然と暮らす力」を取り戻すこと

このような小さな行動の積み重ねが、気候変動を“遠い問題”ではなく、“今ここ”の暮らしとつなげてくれるのだと感じます。そして、これは単に環境のためだけではありません。
植物と触れ合うことで、私たちの心も整えることもできるのです。
ストレスが溜まっているとき、
土にふれ、葉の揺れを見つめ、じょうろで静かに水を与える。
それだけで、呼吸がゆっくりになり、意識が今この瞬間に戻ってきます。イギリスでも、「ガーデニングがメンタルヘルスに与える効果」が科学的にも証明されており、医療や教育の現場にも取り入れられ始めています。
・庭がなくても大丈夫。ベランダでハーブを育てる
・窓辺に季節の花を飾る
・雨の日にベランダのバケツに水をためておく
・落ち葉でプチコンポストを始めてみる
どれも今日からできる、小さなグリーンアクションだと思いませんか?
楽しく、気軽に続けられることがいちばんのサステナブルな取り組みなのです。

RHSが伝えているのは、
「完璧じゃなくていい。楽しみながらできることを選ぼう」という姿勢です。
庭を通して自然とつながり、暮らしの中に緑を取り戻すことは、地球にとっても、私たち自身にとっても、大切な一歩になるのだと感じています。
小さな一鉢でも、ベランダのプランターでも、多くの人が取り組むことにより、地球規模の変化の一部になりうる。これは、“Think Global, Act Local”(グローバルに考え、ローカルに行動する)というサステナビリティの基本精神にも通じています。あなたのアクションが、未来の空気をきれいにするかもしれません。

