見出し画像

RHSが2026年に仕掛ける新展開。Badmintonとチャールズ国王も関わる Sandringham、2つの新フラワーショーとは



2026年7月、英国のガーデンシーンで大きな注目を集めそうなイベントが、RHSによる2つの新しいフラワーショーです。
ひとつは、7月8日から12日までグロスターシャーのBadminton Estateで開催される「RHS Badminton Flower Show」。もうひとつは、7月22日から26日までノーフォークのSandringham Estateで開催される「RHS Sandringham Flower Show」です。
RHSといえば、世界的に有名なChelsea Flower Showを主催する英国王立園芸協会。2026年はそのRHSのショーカレンダーにとって、かなり大きな転換点になりそうです。これまで定番だったHampton Court Palace Garden Festivalは2026年には開催されず、2027年に戻る予定。代わって登場するのが、このBadmintonとSandringhamという2つの新しい会場です。そしてこの二つの会場は英国を代表する、歴史的にも豊かなランドスケープです。


この動きは、RHSがより多くの地域へ園芸文化を広げるための試みとも言えましょう。単に新しいイベントが増えるというより、RHSが“ロンドン中心”から少し視野を広げ、歴史ある地方の大邸宅や王室ゆかりの場所を舞台に、英国園芸の今を見せようとしている流れにも見えます。

RHS Badminton Flower Show  若手、地域、クラフト、そして英国カルチャー


まず注目したいのが、7月前半に開催されるRHS Badminton Flower Showです。
会場となるBadminton Estateは、世界的な馬術イベントでも知られる歴史ある地。

英国らしいカントリーエステートの空気の中で楽しむフラワーショーになりそうです。
Badmintonの特徴は、王室的な格式というよりも、地域性、若手デザイン、手仕事、コミュニティの力が前に出ているところです。
大きな話題のひとつが、BBC Radio 4のラジオドラマ「The Archers」の75周年を記念したガーデンです。ガーデンデザイナーのJo Thompsonが手がける「The Archers 75th Anniversary Garden」は、作中の重要な場所であるBridge Farmを現実の庭として立ち上げるもの。果樹、ワイルドフラワー、菜園、チーズ作りの要素などが盛り込まれ、サステナブルで家族的な空間になると紹介されています。
これは園芸ファンだけでなく、英国のカルチャーがお好きな方にも響きそうな企画です。ラジオドラマの世界を庭にという発想が、いかにも英国らしく、物語、土地、暮らし、植物がひとつになる感じがあります。
もうひとつの見どころは、RHS Young Designer of the Yearです。若手ガーデンデザイナーにとって大きな登竜門で、2026年はBadmintonで開催されます。

若手部門では、喪失や悲しみに寄り添う庭、若い女性が社会的プレッシャーから少し離れて自分を取り戻す庭、廃材や再利用素材を活かす庭などが登場予定です。単に美しい庭を作るだけでなく、心の回復、自己肯定感、サステナビリティといった現代的なテーマが強く打ち出されています。
特に印象的なのは、Sophie Leoによる「Where Grief Grows Quiet」。母を亡くした自身の経験から生まれた庭で、喪失の中にある人に静かな避難所を差し出すような作品です。庭が単なる装飾ではなく、感情を受け止める場所になり得ることを示しているように感じます。

また、Will YoungとJamie Butterworthによる「The Cubes」もかなり注目です。ユング心理学の“影”から“光”へ向かう心の旅を、3つの植栽空間で表現するというもの。暗く内省的な庭から、少しずつ光が入り、最後には開かれた自然主義的な植栽へと向かう構成です。フラワーショーで心理的な変化を空間化するという点で、かなり現代的な試みだと思います。

さらにBadmintonでは、Artisan Gardensも見逃せません。乾式石積み、バスケット作り、木工など、伝統的なクラフトやヘリテージスキルに光が当たります。英国の庭は、植物だけでなく、石、木、土、手仕事があって初めて成立するもの。Badmintonはその“手触り”を楽しめるショーになりそうです。

RHS Sandringham Flower Show 王室、自然、生物多様性、気候変動


7月後半に開催されるのが、RHS Sandringham Flower Showです。
会場は、King Charles IIIとQueen Camillaの私的な滞在地として知られるSandringham Estate。RHSのショーが王室の邸宅で開催されるのは大きなニュースで、注目されています。

Sandringham最大の目玉は、King Charles IIIが関わる「RHS Royal Legacy Garden」です。ガーデンデザイナーCatherine MacDonaldが国王と協働して手がける庭で、自然界に見られるフラクタルや枝分かれのパターンから着想を得ていると発表されています。

ここで面白いのは、王室らしい華やかさだけでなく、国王の長年の関心である環境、樹木、生物多様性、地域素材、伝統的な田園技術が強く反映されていることです。Homes & Gardensも、この庭を国王の園芸への情熱と環境への姿勢を示すものとして報じています。

Charles国王は、Highgroveの庭づくりでも知られるように、園芸を単なる趣味ではなく、自然との関係を考える実践として大切にされてきました。その国王がSandringhamでRHSのフラワーショーに関わるというのは、きっと内容も本格的になることでしょう。
Sandringhamでは、新しい賞にも注目です。「The King’s Biodiversity Award」は、生物多様性に貢献するデザインを国王が選ぶ賞。そして「The Queen’s Choice of Upcycled Containers Award」は、廃材などを活かしたアップサイクル・コンテナガーデンの中から王妃が選ぶ賞です。

王室の名前を冠した賞でありながら、テーマは非常に現代的です。生物多様性、アップサイクル、コミュニティ、野生生物との共生。華やかな王室イベントで終わらせず、今の庭づくりに求められる視点を前面に出しているところがSandringhamらしさと言えそうです。

また、Sandringhamでは「Grow Forward Gardens」という新しいカテゴリーも登場します。これは、気候変動に対応する庭づくりをテーマにしたカテゴリー。雨水利用、乾燥に強い植栽、洪水に強い庭、蝶を支える植栽など、家庭の庭にも取り入れられる実践的なアイデアが期待されています。

RHSのフラワーショーは、華やかなショーガーデンを見るだけの場所ではなく、これからの暮らしのヒントを持ち帰る場所でもあります。

Sandringhamはその意味で、「美しい庭」から一歩進んで、「未来の庭」を考えるショーになりそうです。

2つのショーの違い


BadmintonとSandringhamは、どちらもRHSの新しいショーですが、印象はかなり違います。
Badmintonは、若手デザイナー、地域、クラフト、コミュニティ、英国カルチャーが軸。The Archersの記念ガーデンやYoung Designer部門、Artisan Gardensなど、親しみやすく、発見の多いショーになりそうです。庭を通して、人の感情や地域の手仕事、日常の暮らしを見つめる雰囲気があります。
一方のSandringhamは、王室、環境、生物多様性、気候変動が軸。Royal Legacy Gardenを中心に、国王と王妃の関わりが大きなニュースになっています。格式ある場所でありながら、テーマはとても現代的。これからの庭がどう自然と向き合うべきかを考えるショーになりそうです。

話題性という意味では、Sandringhamのほうが強いかもしれません。王室の邸宅での開催、国王が関わる庭、王室による新しい賞など 話題性があります。

ただ、実際に歩いて楽しいのはBadmintonかもしれません。若手の挑戦、クラフト、地域の食、植物のマーケット、The Archersの世界観。少しカジュアルで、園芸の“今”を肌で感じられるショーになりそうです。

2026年のRHSが示しているもの


この2つのショーを見ていると、RHSが2026年に示そうとしている方向性が見えてきます。
それは、園芸をもっと開かれたものにすること。
Chelsea Flower Showのような世界最高峰の華やかさはもちろん大切。でもそれだけではなく、地方の土地、地域の人々、学校やコミュニティ、若手デザイナー、環境問題、気候変動、生物多様性。そうしたテーマを、実際の庭や植物を通じて見せていく。
BadmintonとSandringhamは、その新しい動きの象徴のように思えます。
庭は、ただ美しいだけのものではありません。悲しみを受け止める場所にもなり、社会のプレッシャーから離れる場所にもなり、野生生物を支える場所にもなり、気候変動に備える場所にもなります。
2026年7月、RHSの2つの新しいショーは、英国の庭がどこへ向かおうとしているのかを見せてくれるはずです。
華やかな花の祭典でありながら、そこにあるのは、これからの暮らしと自然の関係を考えるためのヒント。
Badmintonは「人と地域を回復させる庭」。
Sandringhamは「自然と未来を見つめる庭」。
そんなふうに見比べると、7月の英国フラワーショー巡りがぐっと面白くなりそうです。


いいなと思ったら応援しよう!