デカン大学院大学(Deccan College)【インド・マハーラーシュトラ州】
この記事では、私が約10年間学び、インドで言語学の博士号を取得した母校、デカン大学院大学について紹介したい。
大学の概要
1821年に設立されたデカン大学院大学(Deccan College Post-Graduate and Research Institute)は、インド近代教育史において3番目に古い教育機関の一つとして知られている。プネー北部のイェルワダ地区に位置し、19世紀に建てられたヴィクトリア朝ゴシック様式の校舎は、プネーを代表する歴史的建築物でもある。考古学、言語学、サンスクリット学などの分野ではインド屈指の研究機関として知られ、国内外から多くの研究者が集まっている。
大学生活
私の言語学との出会いは、この場所から始まった。当時は、入学時に学士課程で何を専攻していたかよりもGPAが重視される傾向があり、専門外から進学した私でも、修士課程1年目に基礎科目を徹底的に学ぶことができた。
授業は朝10時から午後3時まで、基本的に同じ教室で続く。教授が次々と入れ替わり、それぞれの講義で小テストが課される毎日だった。期末試験は持ち込み不可で1科目3時間。10問の設問から5つを選び、ボールペンだけで小論文を書き続ける。要点を押さえながら、自分の考えを論理的かつ詳しく論じた答案ほど高く評価された。
博士前期課程(M.Phil.)や博士後期課程(Ph.D.)に進むと、学びの中心は授業から研究へと移る。セメスターごとの研究報告や学会発表を重ねながら、研究の進め方は学生自身に委ねられる。言語学部では、マラーティー語をはじめとするインド諸語の地域研究や、多様な言語の記述研究が盛んに行われており、学生は修士課程から研究成果を発表する機会に恵まれている。
特に印象に残っているのが、毎週金曜日に開催されるLinguistics Discussion Group(LDG)である。私も教授陣の前で研究発表を行い、厳しい質問や議論を通して、自分の研究をさらに深める貴重な経験を積んだ。多くの先生方や研究仲間に支えられながら研鑽を重ね、博士号を取得することができた。私にとってデカン大学院大学は、言語学の道を歩み始めた学問の原点であり、研究者として育ててもらった、かけがえのない場所である。
華やかさよりも、緑に囲まれた落ち着いた研究環境が魅力のキャンパスである。敷地内には小さなカンティーン(カフェ)があり、野良犬たちと戯れながらチャーイを飲み、マギーヌードルやワダパオを食べる時間は、研究生活のささやかな楽しみだった。
プネーは暮らしやすく、インド諸語を現地で学びたい学生にとって、デカン大学は恵まれた研究環境だと思う。一方で、日本での知名度はまだ高くなく、留学手続きも複雑なため、留学先として十分に知られていないのが現状である。
大学の新たな試み
2026年7月16日の『Hindustan Times』によれば、デカン大学院大学は、インド知識体系(Indian Knowledge Systems:IKS)を基盤とする5年間の一貫教育プログラムを新設するとともに、「国家的重要機関(Institute of National Importance:INI)」への指定を目指す中長期計画「Vision 2047」を発表した。
つまり、これまで主に修士課程以上の学生を受け入れてきた同校が、今後は学士課程から学生を受け入れ、5年間の一貫教育によって修士号取得までを担う総合的な教育体制への転換を目指している。
お世話になった母校が、新たな時代へ向けて歩みを進める姿を、卒業生の一人としてこれからも見守っていきたい。
※画像は大学のメインキャンパス。約200年前に建てられた歴史的建築が、悠久の時を経た今なお学びの舎として、学生たちを迎え入れている。
