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全国自然博物館の旅【71】倉敷市立自然史博物館

歴史と伝統、そして先進が交わる街。それが岡山県の倉敷市です。多くの観光客で賑わう雅な街に、なんと素晴らしき生物学習のできる自然史博物館が立っています。
太古から現在において、岡山県には尊く雄大な自然環境が存在してきました。この地に宿る地球と生命の記憶、倉敷の街の博物館でしっかりと学びたいと思います。


倉敷の街の中で生物観察ができる?

自然史博物館の最寄駅は、JR倉敷駅。倉敷市の中心地ということもあり、アクセス環境は抜群に良好です。ただ、筆者が倉敷市に降り立ったのは夕方でしたので、博物館観覧は必然的に後日となり、倉敷の街歩きへと繰り出しました。
倉敷に来たら、やはり全国に誇る観光地「美観地区」を思いきり堪能したいところです。

JR倉敷駅に到着。駅の南側の「倉敷中央通り」を歩いていけば博物館に着きますが、もう夕方ですので街歩きを思いきり楽しむために美観地区へと向かいます。
和洋折衷の街並みが倉敷の魅力。博物館の方角へと歩きながら、美観地区の雰囲気を味わいます。
美観地区には街全体に優しく暖かい空気が満ちていて、とても趣があります。倉敷を眺め歩き、倉敷の宿に泊まるのは最高の贅沢ですね!
お店の前で、ガンプラ(ガンダムのプラモデル)の音楽隊を発見。倉敷では、伝統の美と先進の美が融合しています。

意外かもしれませんが、美観地区にて生き物の観察ができます。実は、倉敷川ではコブハクチョウが育てられており、多くの観光客を魅了しています。コブハクチョウの優美な形態、泳ぐ姿や個体同士が触れ合う姿をじっくりと観察しましょう。麗しき生命を育む倉敷の街が、改めて尊く感じられますね。

倉敷川で育てられているコブハクチョウ。筆者は夜にじっくりと観察させていただきました。
筆者の来訪時には、倉敷川がイベントでライトアップされていました。幻想的な雰囲気が、コブハクチョウたちの魅力をさらに際立たせてくれています。
橋の下で休むコブハクチョウたち。街の中で夜の生物観察ができるとは、やはり倉敷は素晴らしいですね!

博物館近くのホテルで一泊した筆者は、開館時刻の間際にチェックアウト。好奇心MAXで倉敷市立自然史博物館へと向かいました。
博物館の周辺には、公共施設が集まっており、倉敷市民の重要な学習と文化の拠点となっています。岡山県の自然環境の特色や、太古の岡山の生態系について、とことん学びたいと思います。自然学習を通して、この地に息づく生命と自然の神秘を知れば、我々は岡山県をもっと大好きになっていることでしょう!

すぐ近くに駐車場がありますが、ここは図書館に本を返す方のための駐車場です。博物館を観覧される場合は、周辺の有料駐車場を利用しましょう。
倉敷市立自然史博物館。岡山県の現自然と古代の自然環境を、専門的かつ体系的に学べます。
入館したら、左の自然史博物館へと向かいましょう。学習の後は、観光休憩所で一服するのも大いにありですね。

岡山県と地球史の生命を学べる倉敷の学術基地

太古から現代まで続く岡山県の生命史

エントランスホールに入ると、ナウマンゾウの親子の復元模型が登場! 母親の個体は「ナウママ」、幼体は「パオ」と名づけられています。
ナウマンゾウは約30万年前~約1万6000年前(研究者によって数値に差異あり)の日本に生息していたゾウ類であり、もちろん岡山県の大地においても栄えていました。リアルな模型を拝んでいると、我が国を闊歩していたナウマンゾウの勇姿が脳裏に浮かんできます。

ナウマンゾウの親子(成体がナウママ、幼体がパオ)の復元模型。彼らは新生代の「更新世」という時代に栄えたゾウ類であり、日本を含む東アジアに分布していました。
ナウマンゾウの模型は定期的に動きます。サイズ的には現代のゾウ類よりやや小型ですが、迫力と勇ましさは抜群です!
太古の倉敷に棲んでいた古生物たちのレリーフ。先史時代の日本は動物王国であり、ゾウ類やサイ類を多くの巨獣たちが闊歩していました。
ヤベオオツノジカのレリーフ。とても広く大きな角を備える大型シカ類であり、ナウマンゾウとほぼ同じ時代、日本の広い範囲に分布していました。

知の入口であるエントランスホールには、自然科学の世界に導く展示がいっぱい。模型や標本との出会いを通して、人は地球と生命の謎に強く引き込まれていきます。自然博物館が地域の人々に与える学術教育は、とても意義深いと感じます。

トリケラトプスの頭骨模型。パワフルな巨体と大きな角備えた、強力な植物食恐竜です。
タイリクオオカミの剥製。瞬発力と持久力を併せ持つ、とても洗練されたハンターです。
ホッキョクグマの剥製。クマ類の中でも、肉食性の傾向が強い種類です。

エントランスホールの学習コーナーの奥には、なんとミニ水族館があります。美麗な生体展示と解説キャプションによって、岡山県の淡水生態系への理解を深められます。
希少淡水魚アユモドキの生息地として、生物マニアの関心を集める岡山県の淡水域。本区画での学習を通じて、身近な水環境の保全についても考えてみましょう。

エントランス横の学習コーナーの奥には、ミニ水族館があります。岡山県の水棲生物たちを観察できる素晴らしいチャンスです!
岡山県に生息する淡水魚たち。河川・湖沼・里山の水辺など、岡山県の水環境には美しい生命が息づいています。
倉敷で確認されている水草(藻類ではなく植物です)。河川・用水路・溜め池には多くの水草が繁茂していますので、ぜひ自然の中で探してみてください。
両生類アカハライモリ。岡山県では、県中部から北部にかけて多く分布しています。
博物館スタッフさんによるハンドメイドの解説資料。とてもわかりやすく、暖かみのある資料です。

1階エントランスホールの観覧で高まったテンションのまま、2階の展示室へと向かいましょう。
2階の第1展示室は古生物学の神秘が詰まった「岡山県のなりたち」。地球史の総合的な学習に加えて、岡山県の太古の生命についても知ることができます。地球と共に歩みながら、岡山県産の化石について学べる素晴らしい展示構成だと思います。

2階へ上がり、さらに観覧を進めます。第1展示室「岡山県のなりたち」では、地球史と岡山県の生命史を学べます。
展示室入口付近に設置された、ティラノサウルスの頭骨模型。重々しい骨格から見て取れるように、噛む力は陸上生物で最強だと言われています
岡山県で発見された化石たちをピックアップ紹介。県内では、古生代から新生代まで、とても幅広い年代の化石が産出しています。
高梁市より出土した約2億年前のトクサ(シダ植物)の化石。岡山県には中生代の地層が存在していますので、恐竜が発見される可能性も大いにあります。
1500万年前のビカリアの化石。本種は暖海性の貝類ですので、当時の岡山県の気候は現代よりも暖かかったと考えられています。

本館では、壮大な進化の歴史を生命の誕生から時系列に学習できます。先カンブリア時代に生まれた地球初の生命は、気の遠くなるような時間を経て、多様かつ爆発的に進化していきます。先カンブリア紀には光合成を行うシアノバクテリアが誕生し、地球に酸素が満ちていき、オゾン層も形成されていきます。
生命誕生がもたらした、自然環境への大いなる変革。連綿と続く地球と命のドラマの果てに、今の自分が生きているという実感が湧いてきますね。

地球史の解説エリア。大型の展示パネルと化石標本によって、地球と生命の歩みをわかりやすく総合学習できます。
ボリビアで発見された、約20億年前のストロマトライトの化石。超古代のシアノバクテリアの光合成活動によって形成された岩石です。
クラゲにそっくりなアスピアラの化石レプリカ。約6億年前に生きていた「エディアカラ動物群」の一種です。
防御姿勢のまま丸まった三葉虫の化石。彼らは節足動物の一群であり、種類によってはダンゴムシのごとく丸まることも可能です。
カンブリア紀の海の環境復元図。5億年以上前の海の中では、私たちの想像を超える不思議な生命の楽園が存在していたのです。

時代はさらに進み、植物も動物も大地への上陸を果たします。植物が陸上環境に変化をもたらし、動物たちの生息の場を広げていきます。
新たな環境で育まれた、新たな生態系。古生代に栄えた不思議な生き物たちの世界を、化石標本と解説資料でたっぷりと体感しましょう。

デボン紀の魚類ボスリオレピスの化石。尾以外は硬い骨質の「甲冑」で覆われています。
ペルム紀の両生類ブランキオサウルス。成体になっても、オタマジャクシのようなエラがありました。
裸子植物グロッソプテルスの葉の化石。本種の化石はアフリカ・南アメリカ・南極などで見つかっており、当時の大陸がつながっていた証拠とされています。
石炭紀の森林の環境復元図。当時の酸素濃度はとても高かったので、巨大な節足動物が次々と出現しました。

古生代ペルム紀末期の環境激変を乗り越え、時代は中生代へ!
この時代、恐竜をはじめ我々のよく知る化石動物たちが大繁栄しました。数々の環境激変を乗り越えながら、生命は力強く進化を続けていきます。超壮大な地球史の軌跡を感じながら、観覧を進めましょう。

単弓類リストロサウルスの頭骨。直系の祖先ではありませんが、彼らは私たち哺乳類と近い動物群なのです。
ドウビレイセラスの化石。アンモナイトを見ると、古生物マニアのテンションは爆上がりしますね!
魚類アスピドリンクスの化石。中生代のジュラ紀から白亜紀にかけて、世界中の暖海で栄えていました。
植物食恐竜の足の骨。備え付けのルーペを使うと、骨組織を詳しく観察できます。

中生代が終わり、哺乳類王朝の新生代が幕を開けます。本館の展示では、新生代前期のコウモリ類の化石や、原始的な霊長類プレシアダピス類の化石を拝めます。コアな古生物たちのラインナップを前にして、化石マニアの方々のテンションは一気に上がると思います!

パラエオキロプテリクスの化石。彼らコウモリ類は、新生代の前半に誕生し、現代まで繁栄し続けています。
初期の霊長類プレシアダピス類の頭骨化石。長く伸びた前歯が特徴的ですね。
古代のゾウ類ゴンフォテリウムの臼歯。噛み合わせにはコブ状の凹凸があります。

ここからは、いよいよ岡山県の古生物たちが本格登場です! 先述の通り、県内には古生代から中生代の地層が広く分布しており、岡山県は古生物学者にとって素晴らしい研究フィールドと言えます。地域の古生物学の探究は化石マニアにとって大きな楽しみの1つなので、筆者は知的好奇心MAXで学習にのぞみました。

待ちに待った岡山県産の化石展示。古生代から新生代までの化石標本の豪華ラインナップです!
石炭紀の四放サンゴ類の化石。解説キャプションと同時展示されていて、学習内容をスムーズに理解させてくれます。
井原市で発見された三葉虫の化石。岡山県では古生代の生物化石が多数産出しており、素晴らしい化石産地であると思います。
古生代の石灰岩中の化石標本。厚さ0.1 mmにスライスされており、備え付けのルーペを使えば、海洋生物たちの体の細部を詳しく観察できます。

岡山県には中生代の地層が広範囲に分布しており、三畳紀から白亜紀にかけての生物化石が多数産出しています。太古の生き物たちの種類や生態を確かめれば、中生代の岡山県の環境が見えてきます。
まだ岡山県で恐竜の化石は見つかっていませんが、当時の岡山県の世界を想像していると、古生物マニアは必ずそこに恐竜の姿を思い描きます。中生代の地層が豊富な岡山県の大地には、きっと驚異的な恐竜たちの化石が眠っているはずです!

三畳紀のシダ植物ハウスマンニア・ナリワエンシスの化石。種小名には、産出地である成羽町の名がつけられています。
白亜紀に生きていたゴキブリ類の翅。湖の堆積物から成る泥岩層より産出した化石です。
白亜紀のタニシ類の化石。岡山県の中~南部には白亜紀の泥岩層が分布しており、淡水生物の化石が数多く発見されています。

岡山県は新生代の生物化石も超豊富。現代から約1500万年前(中新世中期)は県域の大半が浅い海であり、当該時代の地層からは海洋生物の化石が多産しています。今よりもずっと暖かな古代の海では、どのような生き物たちが暮らしていたのでしょうか。

約1500万年前の貝類化石。多くの貝類の殻が海流によって集まって化石となりました。
貝類ヤマトビカリアの化石。中国地方の新生代第3紀の泥岩層から多く産出しています。
大きなアツガキ類の化石。熱帯・亜熱帯気候の海に棲む貝類であり、本種の発見は、当時の岡山県が温暖だったという事実を示唆しています。
サメ類の歯の化石。当時の海洋生態系の上位捕食者だったと考えられます。

実は、岡山県の生物化石は陸地のみならず、瀬戸内海の海底からも産出しています。新生代の日本は大陸と地続きになっており、多種多様な動物たちが陸路を通じて岡山県にやってきました。そして約1万年前、海水面の上昇によって瀬戸内海が誕生。備讃瀬戸の海底には、当時の脊椎動物の化石を含む砂岩・礫岩が分布しているのです。
大陸との縁を示唆するかのように、備讃瀬戸海底から発見される化石には、サイ類やゾウ類など現代日本では見られない動物たちの骨格がいっぱい! 地球環境全体が1つの巨大な世界なのだと改めて認識できます。

氷期には海水面が低下し、たくさんの野生動物が大陸から日本に渡ってきました。そして、約1万年前に瀬戸内海が形成され、多くの動物化石が瀬戸内海に眠ることになったのです。
瀬戸内海の海底より発見されたサイ類の大腿骨。更新世の日本は大陸と地続きになっており、多くの野生動物が日本にやってきていたのです。
スイギュウ類の化石。更新世の岡山県は動物王国であり、雄々しいスイギュウが群れを成して生活していたと考えられます。
トウヨウゾウの肋骨・腰椎・臼歯などの化石。彼らはステゴドン類というグループに属しており、現代のゾウ類とは別系統にあたります。

日本産の古代のゾウ類として、最も有名な種類がナウマンゾウです。トウヨウゾウやサイ類と同じく、ナウマンゾウの化石も備讃瀬戸海底から数多く発見されています。岡山県ではゾウたちの闊歩する野生の楽園が永く続いており、超雄大な自然環境が広がっていたのです。岡山県の大地と海からは、これからもたくさんの太古の生命が現れることでしょう!

ナウマンゾウの全身骨格。日本で最もポピュラーな古代ゾウと言っても過言ではありません。
備讃瀬戸海底より採集されたナウマンゾウの化石。手前に設置された大腿骨には触ることができますので、ぜひタッチしてみましょう。
大きく湾曲したナウマンゾウの牙(切歯)。奥に設置されているのは、トウヨウゾウの切歯です。
ナウマンゾウ・トウヨウゾウ・マンモスの比較解説。詳しく比べると、体型も大きさも牙の形も異なっているとわかります。

岡山県の自然環境を網羅的に総合学習

次なる展示室「岡山県のいきもの」では、県内における現代の動植物について学習できます。生き物好きにとっては、地域の生態系や生物相がとても気になるところですね。
まずは、素晴らしい恵みの海である瀬戸内海を見ていきましょう。大昔の瀬戸内海は陸地であり、約1万年前の海面上昇によって内海となりました。かつての山は島となり、たくさんの島々を有する海が形成されたのです。ミステリアスな瀬戸内海には、どのような生命が舞い踊っているのでしょうか。

第2展示室「岡山県のいきもの」観覧スタート。岡山県の現生動植物を総合学習できます。
スナメリの剥製。小型のハクジラ類であり、瀬戸内海でも生息が確認されています。
瀬戸内海は、多様な海水魚たちが舞う豊かな海。我々の食生活を支える、とても重要な海域なのです。
クロウシノシタ。沿岸部の砂底に棲む海水魚であり、貝類やエビを食べています。
瀬戸内海と九州北西部に分布する希少種カブトガニ。彼らは決してカニではなく、クモやサソリと同じ「鋏角類」の中間です

豊穣の海である瀬戸内海では、陸と海の間にも美しき生態系が築かれています。浜では海浜性植物が花を咲かせ、浜辺環境に適応した昆虫たちが動き回っています。ビーチを歩くとき、少し視線を変えれば、新たな生き物たちの世界が見えてくるのです。

水鳥たちの剥製標本。瀬戸内海の浅瀬や干潟は、彼らにとって重要な狩場となります。
海浜性植物ハマボッスの模型。浜辺に生息する植物たちは、乾燥した砂地での環境に耐えるために、独特な進化を遂げています。
オサムシモドキの標本。浜辺を散歩するとき、海浜性植物の周囲を観察してみると、多くの昆虫たちがいるとわかります。

次は岡山県の内陸部へと目を向けてみましょう。岡山平野には岡山県の3大河川(吉井川・旭川・高梁川)が流れており、広大な水田地帯では用水路が網の目のごとく広がっています。現自然と里地の水辺にはどのような生き物たちが息づいているのか、本館の標本展示でとてもわかりやすく学べます。

岡山県に棲む淡水魚の樹脂標本。スイゲンゼニタナゴは超希少種であり、岡山県と広島県の一部にしか生息していません
カエル類の展示解説。彼らは水田や用水路にも生息しているので、田園地帯の水路は生物観察スポットとして超オススメです。
淡水域に棲むイシガイ類の殻標本。岡山県の河川にて生物観察をする際、浅瀬で探してみましょう。
水鳥トモエガモの剥製標本。渡り鳥であり、冬になると本州中部以南に飛来します。
南アメリカ中南部原産の外来種ヌートリア。水辺の土手に巣穴を掘って生活しています。

岡山県の陸域は魅力的な生物観察のフィールドであり、本館の多様な生物標本の展示が、環境の豊かさを強く示しています。吉備高原に広がるアカマツ林と雑木林、深く豊かな森に覆われた中国山地ーー本当に素晴らしい自然の世界が、岡山県の美しき生命を育んでいます。展示標本を見れば見るほど、「岡山県の大地で生き物と会いたい!」という気持ちが強まってきます。

ニホンイノシシの剥製。野外で出会ったら、決して刺激しないように冷静に行動してください。
たくましいツキノワグマの剥製。現代の日本において、彼らとの共存は重要な課題となっています。
雑食性哺乳類テンの剥製。とても身軽であり、樹上での行動が得意です。
勇ましいポーズのオオタカの剥製。鋭い爪が示すように、彼らは極めて強力な捕食者です。
広島県を分布の西限とするコエゾゼミ。セミ類の鳴き声は種類ごとに違っており、各種の鳴き声を覚えておくと、野外での自然観察にとても役立ちます!

岡山県が誇る超ユニークで魅力的な環境が、「阿哲の石灰岩台地」です。高梁川流域では石灰岩から成るカルスト台地が広がっており、そこには独特な生命が息づいています。さらに、中国大陸と共通の動植物が多く見られ、かつてこの地域が大陸とつながっていたことを教えてくれます。不思議な石灰岩の大地の環境を、ジオラマ展示でたっぷりと学習してください。

「阿哲の石灰岩台地」のジオラマ展示。特殊な環境ゆえに、ユニークな生命による独特の生態系が構築されています。
ジオラマに設置された模型。カケスはドングリを落ち葉の下などに貯め込む習性があり、食べ残れたドングリは新たに芽吹いて森を広げます。
石灰岩台地に息づく植物の模型。石灰岩地域の特有の植物群落もあれば、人の手が加わった二次林も存在しています。

美麗な自然の世界を有する岡山県。ですが、我々人類の活動の影響により、生き物たちの個体数が激減したり、生態系が激しく撹乱されています。在来種の絶滅危機も、外来種の移入問題も、全ての原因は人間のエゴなのです。岡山県の生き物たちの現況を知り、人類が地球で生きていくためにこれから必要なことを考えてみましょう。

夏鳥として渡来するヨタカ。かつては岡山県全域で見られましたが、森林伐採などの影響により激減しています。
岡山県内で数を減らしている昆虫たち。彼らを追い詰めているのは、私たち人間の勝手な環境破壊なのです
減少する種類がいる一方で、多く見られるようになった生き物もいます。タイワンウチワヤンマは南方系のトンボ類ですが、1980年代から岡山県でも確認されるようになりました。
ブラジル原産の昆虫ヤサイゾウムシ。1940年に、倉敷市で最初の帰化個体が確認されました。

無限に広がる昆虫と植物の世界

本館の3階では、現生の昆虫と植物について、膨大かつ詳細な標本と解説資料で体系的に学習できます。第3展示室「昆虫の世界」に足を踏み入れると、昆虫マニアの血が熱くなってきます。
まずは貴重な化石標本を拝み、太古の昆虫たちの姿を目に焼きつけましょう。はるかな大昔から、昆虫たちは生存競争を戦い抜いてきたのです。偉大なる生命の先輩・昆虫たちに敬意を表します!

3階の第3展示室「昆虫の世界」。まずは貴重な化石標本と対面し、昆虫たちの進化の歴史を学びましょう。
古生代の石炭紀に生きていたムカシギス類の化石。当時の大気中の酸素濃度はとても高く、昆虫たちの繁栄に最適な環境だったのです。
ジュラ紀のトンボ類の化石。現生種とほぼ同じ姿をしており、彼らは優れた飛行能力を駆使して、太古から現代まで力強く生き抜いてきたのです。
白亜紀のアミメカゲロウ類の化石。めちゃくちゃかっこいい!

昆虫たちの形は、実に不思議です。同じ種類でも季節・遺伝型・生息環境によって、様々な形態バリエーションが生まれます。本展示では、解説資料で形態変化のメカニズムを学びつつ、標本観察で彼らの多様性をダイレクトに理解できます。ここまで専門的な昆虫学習ができるとは、本当に幸せです!

昆虫の体の秘密を基礎からわかりやすく解説。円柱形のケースには、多種の昆虫たちの標本が展示されています。
たくましいゴライアスオオツノハナムグリの標本。あらゆる角度から、昆虫たちの体を眺めてみましょう。
ギラファノコギリクワガタのオスとメス。クワガタ類はオスの方が大きいですが、カマキリ類はメスの方が大きく、昆虫たちの形態の性差は実に興味深いです。
地図上に標本をプロットし、マイマイカブリの地域変異を教示。棲んでいる地域によっても、昆虫の形態変異は起こるのです。
同じシロオビアゲハですが、遺伝的多型により模様が異なります。個々に遺伝子が異なっており、全ての生き物はこの世にたった1つの命だということを教えてくれます。

昆虫たちの体は、種類によって大きく異なっています。例えば口器1つとっても「噛む口」「なめる口」「吸う口」など、食糧や生態によって差異が見られます。そして、同じ「吸う口」であっても、蜜を吸うチョウ類、獲物の体液を吸うタガメやサシガメでは細かな形状が違っているのです。昆虫たちの体には、生命の美と能力が集約されていると感じます。

ハンミョウやバッタの口は「噛む口」。強い顎で食物を噛み切ったり、噛み砕いたりします。
オオクワガタの口器は「なめる口」。ブラシ状の器官で、食物表面の液体を吸収して摂取するのです。
クロアゲハの口器は、ストロー状の「吸う口」。花の蜜など、深いところの液体を吸い上げるのに適しています。
昆虫たちの「鳴く」メカニズムについての解説。彼らがどのようにして音を発しているのか、図で詳しく説いてくれます。

さて、昆虫マニアが楽しみにしているのは、博物館観覧の恒例の光景ーー展示ケースに立ち並ぶ膨大な標本です。もちろん、本館においても、超膨大な昆虫たちの標本にお目にかかれます。
その様は、まさしく巨大な立体昆虫図鑑! あまりにも数が多いので、一部のみを紹介させていただきます。ぜひ現地を訪れて、全ての昆虫たちの美しさを味わってください。、

巨大な図鑑のような昆虫標本の壁。昆虫マニアのテンションは爆上がりです!
超可愛いオオハキリバチ! 頭の形が超キュートですね!!
中央アフリカに生息するポリフェムスオオツノカナブン。アフリカの昆虫は、本当にかっこいいですね!
テイオウゼミ。威厳ある風貌、「帝王」の名にふさわしいかっこよさですね!
オオサマダイコクコガネ。動物の糞を食べる昆虫であり、糞や地中に潜り込むために、頭部や脚がシャベル状になっています。

昆虫は地球上の生物で種類が最も多く、ハマれば必ず自分の「推し」ができます。気づけば推しの昆虫について詳しく調べたり、昆虫との出会いを求めて遠くの山や森や河川に野外観察に出かけたりします。本館の膨大な昆虫標本をご覧になって、自分だけの推しの昆虫を見つけてください。

ツマジロハビロイトトンボ。すさまじく長大なボディで、いかにもイトトンボと言ったところですね。
ニューギニアオオコノハギス。たくましさとかっこよさに、昆虫マニアの目は釘づけです。
キノハダカマキリ。カマキリ類も多様性に富んでおり、かっこいい種類がとても多いです!
カメノコテントウ。可愛い昆虫と言えばテントウムシ類のイメージが強いですね。
イシノミ類の液浸標本。とても原始的な種類であり、昆虫の初期進化を考えるうえで重要な存在なのです。

本館では展示の創意工夫や、ユニークな標本の展示が見られ、あらゆる手法で昆虫たちの魅力を伝えてくれています。独特な標本資料が教えてくれる昆虫たちの不思議な生態と、驚異的能力。ミステリーがいっぱいだからこそ、昆虫の探究は本当に楽しいのです!

顕微鏡で昆虫標本を精密観察できる体験展示。脚・触角・翅脈など、昆虫たちの体の細部をとことん見つめましょう。
クヌギハマルタマバチの「虫こぶ」ができた葉の標本。成虫が葉に産卵すると玉のような「こぶ」が形成され、中で幼虫が育ちます。
キムネクマバチの巣の標本。本種は枯れ枝をくりぬいて、内部に巣を作ります。
チャイロスズメバチの巣。本種は、他のスズメバチ類の巣を襲って乗っ取ります
ツツジグンバイの拡大模型。とても小さな昆虫ゆえに肉眼では観察しにくいので、この機会に大きな模型で彼らの姿をしっかりと見ておきましょう。

さて、ここまで学習したら、生物マニアは「岡山県の昆虫研究の現状が知りたい!」と思うはずです。岡山県の自然科学の探究基地である本館では、県内の昆虫の研究調査で大きな成果をあげられています。現在の岡山県の昆虫相はどうなっているのか、標本と解説資料で深く学びたいと思います。

準絶滅危惧種アカマダラハナムグリ。本種が絶滅してしまった県もあり、とても希少な昆虫なのです。
アカハネオンブバッタ。外来昆虫であり、この個体は備前市にて発見されました。
岡山県内で急激に増えている外来種タイワンタケクマバチ。竹に穴を開けて営巣します。
標本の作り方も、写真で詳しくレクチャー。改めて、本館は昆虫マニアにとって超嬉しい学習施設だと思います。

昆虫たちの秘密をたっぷり学んだら、第4展示室「植物の世界」へと移動します。素晴らしいことに、植物学習の導入として、生物の五界説(界は生物の最も大きな分類単位であり、5つのグループに分かれます)から詳しく教示してくれます。植物とは何者なのかを学び、彼らの実像に迫っていきましょう。

生物の五界説の解説資料。一番大き分類学の単位では、生物は「植物界」「動物界」「菌界」「モネラ界」「原生生物界」に分けられます。
植物界に属する生命は、生態系では生産者の役割を担っています。私たち人類は、植物がいないと生きていけません
コンブやワカメなどの藻類は植物ではありません。彼らは原生生物界に含まれる生き物なのです。
満を持して植物の世界へ。我々の世界を支える植物たちの秘密、学ぶ意義はとても大きいと思います。

本展示では、植物の基礎知識をわかりやすく、かつ詳細に教示してくれています。その1つが植物たちの多様な形態であり、根や茎も種類によってタイプが異なることに驚かされます。彼らの多様性を知ったとき、植物への関心がさらに高まっているはずです。

植物の根の形態解説。双子葉植物では主根と側根を有する種類が多く、単子葉植物の根はほとんどの種類がひげ根となっています。
乾燥標本の展示。根を含めて、植物体の形態が詳しくわかります。
ウコンの塊茎。土に埋まっているので根だと勘違いされるかもしれませんが、これは茎の一部です
ハスの根茎。地上部には出ていませんが、これも茎なのです
葉の乾燥標本。植物の葉のバリエーションは数えきれないほどあり、種類を同定するうえで重要な指標となります。

花や果実に多様なタイプがあることはたくさんの方々がご存じだと思いますが、実は種子にも様々な形態があります。「羽」付きの種子を風に乗せて飛ばしたり、特殊な形状の種子を動物の体に付着させたり、水に浮きやすい種子を川の流れや海流に運ばせたりと、散布戦略に応じて最適の形がとられています。
本当に植物は神秘的。永きわたる進化によって獲得された彼らの能力に、改めて驚かされます。

花の形態に関する解説。それぞれの花序の構造を、図でわかりやすく説いてくれています。
ガマ類の肉穂花序(これも花です)。花の穂は上下に分かれており、上が雄花の穂、下が雌花の穂となっています。
ご存じの通り、果実にも様々な形態バリエーションがあります。おいしい果実を動物に食べてもらい、種子を遠くに運んでもらうのが植物たちの狙いです。
動物に付着するタイプの種子。果実にトゲや剛毛があったり、粘液を出したりして、動物にくっつきます。
植物の種子散布には、たくさんのタイプがあります。動物の体に種子を付着させたり、風に種子と運ばせたりと、植物の生存戦略の巧妙さが伺えます。

植物の基礎知識を学んだところで、各種族の姿を見ていきましょう。ここからは、コケ植物・シダ植物・種子植物の標本や模型の展示が始まり、それぞれのグループの特徴を一挙に学べます。同時に、岡山県に生息している植物の種類についても説かれていますので、得られる情報はとても多いです。

岡山県内に息づくコケ植物の写真。本展示を通して筆者のコケ植物への関心は強まり、今後の自然環境でのフィールドワークで捜索してみたいと思います。
コケ植物のハイヒモゴケ。彼らコケ植物は、体の表面から水や養分を吸収します。
シダ植物の乾燥標本。種子植物とは異なり、彼らは胞子で増殖します。
裸子植物アカマツの葉と球果。彼らは種子植物の仲間ですが、被子植物とは異なり、雌花には子房がなく、胚珠が剥き出しになっています。

被子植物の展示は、複数の科(ファミリー)ごとに専門コーナーが設けられています。標本・模型・キャプションが調和して素晴らしい学習効果を生んでおり、個々の種類の特徴をスムーズに理解できます。本館のわかりやすさ重視の展示構成には、本当に深く感動します。

ブナ科植物の解説。葉の標本を解説パネルと一体化させることで、来館者の学習理解をスムーズにしてくれています。
ヤマツツジの模型。ツツジ科は多くが低木であり、美しい花を咲かせる種類がいます。
帰化植物アメリカコナギの模型。淡水に棲む水草の一種です。
ヒメカンスゲの乾燥標本。カヤツリグサ科の同定には、熟した果実と根茎が必要となる場合が多いです。

本館の標本資料の展示コーナーは、メイン展示室のみならず通路にも設けられています。岡山県内で発見・採集された多様な標本が目白押しであり、観覧しながら通路を歩いていけば、かなりの知識を獲得できます。魅力的な自然史博物館を、隅から隅まで学び尽くしましょう。

展示室の外の通路に設置された展示コーナー。岡山県の現生動植物の標本や生物化石がいっぱいですので、ぜひ余すところなく観覧しましょう。
ニタリクジラの頭骨。2021年に倉敷市の水島港で発見された個体であり、全身の骨が採集されています。
岡山県に生息する鳥類の羽。種類ごとに形が異なっており、彼らの生態の違いがそれぞれの羽から感じられますね。
体重30 tもあったと考えられている植物食恐竜アパトサウルスの足跡模型。人間が座って入れるほどの大きさがあり、恐竜のスケールを実感できます。

倉敷市立自然史博物館、とってもとっても多くの知識と感動を与えてくれる素晴らしい学術施設です。岡山県の生命史と生態系を深く学べるのはもちろんのこと、昆虫や植物について幅広い学習ができます。
生き物好きの人に、心から強くオススメできる博物館です! 本館で学んだら、岡山県のフィールドに自然観察へ繰り出しましょう。

太古も現代も、魅力的な自然環境が広がる岡山県。本県の古生物学の研究発展も、とても楽しみです。

倉敷市立自然史博物館 総合レビュー

所在地:岡山県倉敷市中央2-6-1

強み:古生代から新生代における岡山県の古生物を探究する濃密な展示解説、岡山県の膨大な生物標本を活用した現自然の総括的解説、昆虫学と植物学を基礎から体系的・専門的に学習できる工夫満載の展示構成

アクセス面:アクセス環境が良好なこと、付近の駐車場の多くは有料であることから、旅行者の方にはレンタカーよりも公共交通機関をオススメします。JR倉敷駅から「倉敷中央通り」を歩いて15分ほどの距離ですので、倉敷の街を眺めながらまったりと博物館に向かうのも大いにありです。ただ、猛暑の日や悪天候の日など、徒歩移動が困難だと感じた場合は、無理せず倉敷駅からタクシーもしくは路線バスに乗りましょう。岡山県民の方・近隣県にお住まいの方は、車で来館される場合は周辺の有料駐車場を利用してください。博物館の手前にある駐車場は、図書館に本を返却する方のための駐車場ですので、図書館を利用しない方の駐車は禁止されています

とってもとっても総合力の高い自然史博物館。地域自然や当地の生物化石の展示解説は極めて濃密であり、専門的な学習を通して、岡山県の自然環境の生命史の壮大さに感動させられます。さらに、昆虫学と植物学に関して、基礎から深く学べます。各生物種の展示標本の数も極めて多く、非常に多くの情報を来館者に授けてくれます。
本格的な生物学習ができる博物館ですので、ぜひとも全ての生物マニアに訪れてほしい施設です。岡山県の自然環境に関心を抱かせていただけるのと同時に、多様な生物標本に囲まれる喜びを味わえて、昆虫と植物についての総括的に学び直せます。美しき倉敷の街にこれほど素敵な自然史博物館があることに、改めて心から感激いたします。

倉敷の美観地区は、昼も夜も美しいです。現地を訪れた際には、和風ファンタジーのように幻想的な街の雰囲気を楽しんでください。

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