全国自然博物館の旅【71】倉敷市立自然史博物館
歴史と伝統、そして先進が交わる街。それが岡山県の倉敷市です。多くの観光客で賑わう雅な街に、なんと素晴らしき生物学習のできる自然史博物館が立っています。
太古から現在において、岡山県には尊く雄大な自然環境が存在してきました。この地に宿る地球と生命の記憶、倉敷の街の博物館でしっかりと学びたいと思います。
倉敷の街の中で生物観察ができる?
自然史博物館の最寄駅は、JR倉敷駅。倉敷市の中心地ということもあり、アクセス環境は抜群に良好です。ただ、筆者が倉敷市に降り立ったのは夕方でしたので、博物館観覧は必然的に後日となり、倉敷の街歩きへと繰り出しました。
倉敷に来たら、やはり全国に誇る観光地「美観地区」を思いきり堪能したいところです。




意外かもしれませんが、美観地区にて生き物の観察ができます。実は、倉敷川ではコブハクチョウが育てられており、多くの観光客を魅了しています。コブハクチョウの優美な形態、泳ぐ姿や個体同士が触れ合う姿をじっくりと観察しましょう。麗しき生命を育む倉敷の街が、改めて尊く感じられますね。



博物館近くのホテルで一泊した筆者は、開館時刻の間際にチェックアウト。好奇心MAXで倉敷市立自然史博物館へと向かいました。
博物館の周辺には、公共施設が集まっており、倉敷市民の重要な学習と文化の拠点となっています。岡山県の自然環境の特色や、太古の岡山の生態系について、とことん学びたいと思います。自然学習を通して、この地に息づく生命と自然の神秘を知れば、我々は岡山県をもっと大好きになっていることでしょう!



岡山県と地球史の生命を学べる倉敷の学術基地
太古から現代まで続く岡山県の生命史
エントランスホールに入ると、ナウマンゾウの親子の復元模型が登場! 母親の個体は「ナウママ」、幼体は「パオ」と名づけられています。
ナウマンゾウは約30万年前~約1万6000年前(研究者によって数値に差異あり)の日本に生息していたゾウ類であり、もちろん岡山県の大地においても栄えていました。リアルな模型を拝んでいると、我が国を闊歩していたナウマンゾウの勇姿が脳裏に浮かんできます。




知の入口であるエントランスホールには、自然科学の世界に導く展示がいっぱい。模型や標本との出会いを通して、人は地球と生命の謎に強く引き込まれていきます。自然博物館が地域の人々に与える学術教育は、とても意義深いと感じます。



エントランスホールの学習コーナーの奥には、なんとミニ水族館があります。美麗な生体展示と解説キャプションによって、岡山県の淡水生態系への理解を深められます。
希少淡水魚アユモドキの生息地として、生物マニアの関心を集める岡山県の淡水域。本区画での学習を通じて、身近な水環境の保全についても考えてみましょう。





1階エントランスホールの観覧で高まったテンションのまま、2階の展示室へと向かいましょう。
2階の第1展示室は古生物学の神秘が詰まった「岡山県のなりたち」。地球史の総合的な学習に加えて、岡山県の太古の生命についても知ることができます。地球と共に歩みながら、岡山県産の化石について学べる素晴らしい展示構成だと思います。





本館では、壮大な進化の歴史を生命の誕生から時系列に学習できます。先カンブリア時代に生まれた地球初の生命は、気の遠くなるような時間を経て、多様かつ爆発的に進化していきます。先カンブリア紀には光合成を行うシアノバクテリアが誕生し、地球に酸素が満ちていき、オゾン層も形成されていきます。
生命誕生がもたらした、自然環境への大いなる変革。連綿と続く地球と命のドラマの果てに、今の自分が生きているという実感が湧いてきますね。





時代はさらに進み、植物も動物も大地への上陸を果たします。植物が陸上環境に変化をもたらし、動物たちの生息の場を広げていきます。
新たな環境で育まれた、新たな生態系。古生代に栄えた不思議な生き物たちの世界を、化石標本と解説資料でたっぷりと体感しましょう。




古生代ペルム紀末期の環境激変を乗り越え、時代は中生代へ!
この時代、恐竜をはじめ我々のよく知る化石動物たちが大繁栄しました。数々の環境激変を乗り越えながら、生命は力強く進化を続けていきます。超壮大な地球史の軌跡を感じながら、観覧を進めましょう。




中生代が終わり、哺乳類王朝の新生代が幕を開けます。本館の展示では、新生代前期のコウモリ類の化石や、原始的な霊長類プレシアダピス類の化石を拝めます。コアな古生物たちのラインナップを前にして、化石マニアの方々のテンションは一気に上がると思います!



ここからは、いよいよ岡山県の古生物たちが本格登場です! 先述の通り、県内には古生代から中生代の地層が広く分布しており、岡山県は古生物学者にとって素晴らしい研究フィールドと言えます。地域の古生物学の探究は化石マニアにとって大きな楽しみの1つなので、筆者は知的好奇心MAXで学習にのぞみました。




岡山県には中生代の地層が広範囲に分布しており、三畳紀から白亜紀にかけての生物化石が多数産出しています。太古の生き物たちの種類や生態を確かめれば、中生代の岡山県の環境が見えてきます。
まだ岡山県で恐竜の化石は見つかっていませんが、当時の岡山県の世界を想像していると、古生物マニアは必ずそこに恐竜の姿を思い描きます。中生代の地層が豊富な岡山県の大地には、きっと驚異的な恐竜たちの化石が眠っているはずです!



岡山県は新生代の生物化石も超豊富。現代から約1500万年前(中新世中期)は県域の大半が浅い海であり、当該時代の地層からは海洋生物の化石が多産しています。今よりもずっと暖かな古代の海では、どのような生き物たちが暮らしていたのでしょうか。




実は、岡山県の生物化石は陸地のみならず、瀬戸内海の海底からも産出しています。新生代の日本は大陸と地続きになっており、多種多様な動物たちが陸路を通じて岡山県にやってきました。そして約1万年前、海水面の上昇によって瀬戸内海が誕生。備讃瀬戸の海底には、当時の脊椎動物の化石を含む砂岩・礫岩が分布しているのです。
大陸との縁を示唆するかのように、備讃瀬戸海底から発見される化石には、サイ類やゾウ類など現代日本では見られない動物たちの骨格がいっぱい! 地球環境全体が1つの巨大な世界なのだと改めて認識できます。




日本産の古代のゾウ類として、最も有名な種類がナウマンゾウです。トウヨウゾウやサイ類と同じく、ナウマンゾウの化石も備讃瀬戸海底から数多く発見されています。岡山県ではゾウたちの闊歩する野生の楽園が永く続いており、超雄大な自然環境が広がっていたのです。岡山県の大地と海からは、これからもたくさんの太古の生命が現れることでしょう!




岡山県の自然環境を網羅的に総合学習
次なる展示室「岡山県のいきもの」では、県内における現代の動植物について学習できます。生き物好きにとっては、地域の生態系や生物相がとても気になるところですね。
まずは、素晴らしい恵みの海である瀬戸内海を見ていきましょう。大昔の瀬戸内海は陸地であり、約1万年前の海面上昇によって内海となりました。かつての山は島となり、たくさんの島々を有する海が形成されたのです。ミステリアスな瀬戸内海には、どのような生命が舞い踊っているのでしょうか。





豊穣の海である瀬戸内海では、陸と海の間にも美しき生態系が築かれています。浜では海浜性植物が花を咲かせ、浜辺環境に適応した昆虫たちが動き回っています。ビーチを歩くとき、少し視線を変えれば、新たな生き物たちの世界が見えてくるのです。



次は岡山県の内陸部へと目を向けてみましょう。岡山平野には岡山県の3大河川(吉井川・旭川・高梁川)が流れており、広大な水田地帯では用水路が網の目のごとく広がっています。現自然と里地の水辺にはどのような生き物たちが息づいているのか、本館の標本展示でとてもわかりやすく学べます。





岡山県の陸域は魅力的な生物観察のフィールドであり、本館の多様な生物標本の展示が、環境の豊かさを強く示しています。吉備高原に広がるアカマツ林と雑木林、深く豊かな森に覆われた中国山地ーー本当に素晴らしい自然の世界が、岡山県の美しき生命を育んでいます。展示標本を見れば見るほど、「岡山県の大地で生き物と会いたい!」という気持ちが強まってきます。





岡山県が誇る超ユニークで魅力的な環境が、「阿哲の石灰岩台地」です。高梁川流域では石灰岩から成るカルスト台地が広がっており、そこには独特な生命が息づいています。さらに、中国大陸と共通の動植物が多く見られ、かつてこの地域が大陸とつながっていたことを教えてくれます。不思議な石灰岩の大地の環境を、ジオラマ展示でたっぷりと学習してください。



美麗な自然の世界を有する岡山県。ですが、我々人類の活動の影響により、生き物たちの個体数が激減したり、生態系が激しく撹乱されています。在来種の絶滅危機も、外来種の移入問題も、全ての原因は人間のエゴなのです。岡山県の生き物たちの現況を知り、人類が地球で生きていくためにこれから必要なことを考えてみましょう。




無限に広がる昆虫と植物の世界
本館の3階では、現生の昆虫と植物について、膨大かつ詳細な標本と解説資料で体系的に学習できます。第3展示室「昆虫の世界」に足を踏み入れると、昆虫マニアの血が熱くなってきます。
まずは貴重な化石標本を拝み、太古の昆虫たちの姿を目に焼きつけましょう。はるかな大昔から、昆虫たちは生存競争を戦い抜いてきたのです。偉大なる生命の先輩・昆虫たちに敬意を表します!




昆虫たちの形は、実に不思議です。同じ種類でも季節・遺伝型・生息環境によって、様々な形態バリエーションが生まれます。本展示では、解説資料で形態変化のメカニズムを学びつつ、標本観察で彼らの多様性をダイレクトに理解できます。ここまで専門的な昆虫学習ができるとは、本当に幸せです!





昆虫たちの体は、種類によって大きく異なっています。例えば口器1つとっても「噛む口」「なめる口」「吸う口」など、食糧や生態によって差異が見られます。そして、同じ「吸う口」であっても、蜜を吸うチョウ類、獲物の体液を吸うタガメやサシガメでは細かな形状が違っているのです。昆虫たちの体には、生命の美と能力が集約されていると感じます。




さて、昆虫マニアが楽しみにしているのは、博物館観覧の恒例の光景ーー展示ケースに立ち並ぶ膨大な標本です。もちろん、本館においても、超膨大な昆虫たちの標本にお目にかかれます。
その様は、まさしく巨大な立体昆虫図鑑! あまりにも数が多いので、一部のみを紹介させていただきます。ぜひ現地を訪れて、全ての昆虫たちの美しさを味わってください。、





昆虫は地球上の生物で種類が最も多く、ハマれば必ず自分の「推し」ができます。気づけば推しの昆虫について詳しく調べたり、昆虫との出会いを求めて遠くの山や森や河川に野外観察に出かけたりします。本館の膨大な昆虫標本をご覧になって、自分だけの推しの昆虫を見つけてください。





本館では展示の創意工夫や、ユニークな標本の展示が見られ、あらゆる手法で昆虫たちの魅力を伝えてくれています。独特な標本資料が教えてくれる昆虫たちの不思議な生態と、驚異的能力。ミステリーがいっぱいだからこそ、昆虫の探究は本当に楽しいのです!





さて、ここまで学習したら、生物マニアは「岡山県の昆虫研究の現状が知りたい!」と思うはずです。岡山県の自然科学の探究基地である本館では、県内の昆虫の研究調査で大きな成果をあげられています。現在の岡山県の昆虫相はどうなっているのか、標本と解説資料で深く学びたいと思います。




昆虫たちの秘密をたっぷり学んだら、第4展示室「植物の世界」へと移動します。素晴らしいことに、植物学習の導入として、生物の五界説(界は生物の最も大きな分類単位であり、5つのグループに分かれます)から詳しく教示してくれます。植物とは何者なのかを学び、彼らの実像に迫っていきましょう。




本展示では、植物の基礎知識をわかりやすく、かつ詳細に教示してくれています。その1つが植物たちの多様な形態であり、根や茎も種類によってタイプが異なることに驚かされます。彼らの多様性を知ったとき、植物への関心がさらに高まっているはずです。





花や果実に多様なタイプがあることはたくさんの方々がご存じだと思いますが、実は種子にも様々な形態があります。「羽」付きの種子を風に乗せて飛ばしたり、特殊な形状の種子を動物の体に付着させたり、水に浮きやすい種子を川の流れや海流に運ばせたりと、散布戦略に応じて最適の形がとられています。
本当に植物は神秘的。永きわたる進化によって獲得された彼らの能力に、改めて驚かされます。





植物の基礎知識を学んだところで、各種族の姿を見ていきましょう。ここからは、コケ植物・シダ植物・種子植物の標本や模型の展示が始まり、それぞれのグループの特徴を一挙に学べます。同時に、岡山県に生息している植物の種類についても説かれていますので、得られる情報はとても多いです。




被子植物の展示は、複数の科(ファミリー)ごとに専門コーナーが設けられています。標本・模型・キャプションが調和して素晴らしい学習効果を生んでおり、個々の種類の特徴をスムーズに理解できます。本館のわかりやすさ重視の展示構成には、本当に深く感動します。




本館の標本資料の展示コーナーは、メイン展示室のみならず通路にも設けられています。岡山県内で発見・採集された多様な標本が目白押しであり、観覧しながら通路を歩いていけば、かなりの知識を獲得できます。魅力的な自然史博物館を、隅から隅まで学び尽くしましょう。




倉敷市立自然史博物館、とってもとっても多くの知識と感動を与えてくれる素晴らしい学術施設です。岡山県の生命史と生態系を深く学べるのはもちろんのこと、昆虫や植物について幅広い学習ができます。
生き物好きの人に、心から強くオススメできる博物館です! 本館で学んだら、岡山県のフィールドに自然観察へ繰り出しましょう。

倉敷市立自然史博物館 総合レビュー
所在地:岡山県倉敷市中央2-6-1
強み:古生代から新生代における岡山県の古生物を探究する濃密な展示解説、岡山県の膨大な生物標本を活用した現自然の総括的解説、昆虫学と植物学を基礎から体系的・専門的に学習できる工夫満載の展示構成
アクセス面:アクセス環境が良好なこと、付近の駐車場の多くは有料であることから、旅行者の方にはレンタカーよりも公共交通機関をオススメします。JR倉敷駅から「倉敷中央通り」を歩いて15分ほどの距離ですので、倉敷の街を眺めながらまったりと博物館に向かうのも大いにありです。ただ、猛暑の日や悪天候の日など、徒歩移動が困難だと感じた場合は、無理せず倉敷駅からタクシーもしくは路線バスに乗りましょう。岡山県民の方・近隣県にお住まいの方は、車で来館される場合は周辺の有料駐車場を利用してください。博物館の手前にある駐車場は、図書館に本を返却する方のための駐車場ですので、図書館を利用しない方の駐車は禁止されています。
とってもとっても総合力の高い自然史博物館。地域自然や当地の生物化石の展示解説は極めて濃密であり、専門的な学習を通して、岡山県の自然環境の生命史の壮大さに感動させられます。さらに、昆虫学と植物学に関して、基礎から深く学べます。各生物種の展示標本の数も極めて多く、非常に多くの情報を来館者に授けてくれます。
本格的な生物学習ができる博物館ですので、ぜひとも全ての生物マニアに訪れてほしい施設です。岡山県の自然環境に関心を抱かせていただけるのと同時に、多様な生物標本に囲まれる喜びを味わえて、昆虫と植物についての総括的に学び直せます。美しき倉敷の街にこれほど素敵な自然史博物館があることに、改めて心から感激いたします。

