The Lost Universe 古代の巨大植物①植物の誕生
植物があるからこそ、私たちは生きていけます。地球上で暮らす全ての従属栄養生物には、生産者となる生き物の支えが必須なのです。砕けた表現をすれば、「動物たちの命は、植物の礎の上に成り立っている」とも言えます。
動物たちの繁栄の道を築いた偉大なる植物。そのルーツと進化に迫ってみたいと思います。
植物とは何者か?
「大きな木が好き」「可愛い花が好き」など、好みの植物は人によって様々だと思います。植物は我々を生かしてくれる生産者であると共に、人類にとって文化面においても大いなる存在なのです。


みんな植物は大好きですが、「そもそも植物ってどんな生き物なの?」と訊いたとき、よどみなく答えられる人は少ないと思います。タンポポやサクラやコケが植物だと誰もがわかりますが、明確な区別や分類は結構ややこしいです。
「種で増えるのが植物?」
→違います。種ではなく胞子で増える植物もいます。
「根・茎・葉に別れているのが植物?」
→これも違います。コケ植物など、根と茎と葉の区別のない植物もいます。
植物の進化を学ぶ前に、何が植物で何が別の生産者なのかを知らなくてはなりません。植物とは、一体何者なのでしょうか。
ワカメやコンブは植物なのか?
「光合成して酸素を作っているのが植物だ」と言う人もいるかもしれません。しかし、植物以外にも光合成できる生き物がいます。好例は微小なラン藻類(シアノバクテリア)やケイ藻類であり、彼らは植物の誕生前から光合成によって酸素を生産してきました。これらの藻類は、現代の生物学では植物とは見なされていません。
では、我々がいつも食べている海藻はどうなのかと言われれば、極めて難しい問題です。コンブなどの褐藻類は系統学的には植物ではないという意見がある一方、アオサのような緑藻類は緑色植物に含めるべきという説もあります。

本記事では、現代の教科書の記述に基づき、全ての藻類を植物に含めない方針で考察を進めます。これから取り上げていくのは、コケ植物・シダ植物・種子植物といった典型的タイプの植物たちです。植物の系統分類については、さらなる研究と議論が必要になってくるでしょう。
本記事における植物の定義として、「細胞壁を備え、光合成を行う多細胞の独立栄養生物であり、その中から原生生物界の生物を除外したもの」とします。今後の研究によって、緑藻類の立ち位置が変わるかもしれませんので、常に植物の分類には注目していきたいと思います。

地球の生態系を支える植物たち
植物がなくては、全ての陸上動物は生きていけません。地球上の植物は光合成によって酸素や有機物を生産するだけでなく、動物たちの食糧としても重要な役割を果たしています。また、枯死した植物体は土壌の栄養分となり、自然界に恵みを与え続けます。
私たち人類も植物によって生かされている動物なので、植物を蔑ろにしていては生存することはできません。植物が支える生態系から受ける恵み、野菜やフルーツといった食糧、家具や住居の具材ーー数えきれないほどの恩恵があり、我々の生活は植物に支えられていると言っても過言ではありません。

植物によって作られている美しくかけがえのない生態系。その誕生を知るには、まず植物の起源と進化について知らなくてはなりません。
植物はいつどのようにして生まれ、動物たちの繁栄の道を築いたのでしょうか。
植物の始まりと進化
藻類を植物に含めないのであれば、動物の方が植物よりも早く誕生したことになります。約5億7000万年前(先カンブリア時代末期)のエディアカラ生物群が最古の動物とされており、最古の植物の出現はずっと後の時代のできごとです。ラン藻類が酸素や有機物を生産していたので、エディアカラの生き物たちは平穏に生存できました。
この時代、生命は陸上進出しておらず、もちろん植物たちの姿もありませんでした。深緑の大地が広がるのは、もっと未来の話なのです。

植物の誕生は地球史の一大イベント。緑の大革命は、古生代の水の中で始まりました。
植物の祖先は何なのか?
地球の大地を覆う無数の植物たち。彼らの祖先は、水の中で誕生した緑藻類であると考えられています。もちろん、水中生活を営む緑藻類が、いきなり地上に適応できません。陸へ進むには、大地に立っていられる強いボディ、体のすみずみまで水を運べる仕組みが必要なのです。

なぜ緑藻類が陸へ向かったかと言うと、やはり光合成を効率よく行うためでしょう。水の底にいれば、深みが増すほど太陽光は届きにくくなり、他の水棲生物の影に入ることも多かったと思われます。
体いっぱいに光を浴びるためには、やはり水から出ないといけません。しかし、水中と違って地上には水がないため、地中や地表の水分を全身に運べる機構が発達しました。さらに、「体を高く伸ばす=丈夫な茎によって体を支える」ことで、太陽光を存分に浴びられるようになりました。
生き物は、より優れた方向へ適応・進化していきます。植物がたくさんの光を求めて陸へ向かったのも、至極当然の理だと言えます。
なお、陸上植物に最も近縁な緑藻類はシャジクモ類(よく見かける緑藻の仲間です。ご近所の田んぼの中にも生息していると思います)だと考えられています。陸地の近くで生息していたシャジクモ類ーー植物の祖先は、光を求めて、徐々に陸上生活に対応できる形質を獲得していったのです。

地上に緑の世界が広がるとき
植物の陸上進出の時期はとても古く、「本体の見つかっていないもの」を含めると、約4億7000万年前(古生代オルドビス紀)にまで遡ります。ゼニゴケ類の胞子と胞子嚢の化石が発見されており、最古の陸上植物はコケであったことがわかります。コケ植物はシダや木とは違って体が柔らかいため化石として残りにくく、進化の解明は非常に困難となっています。
確実なのは、コケ植物こそが陸地に根づいた初めての植物だということです。シダ植物や種子植物とは違う進化の道を歩んだ彼らは、現代に至るまで何億年も命をつないできたのです。

本体が見つかっている種類の中で最古の陸上植物は、シダでも木でもない「リニア状植物」というグループです。その中の代表がクックソニア属(Cooksonia)であり、約4億3300万年前(古生代シルル紀)に地上に出現したと考えられています。
クックソニアは維管束を備えておらず、茎の先端にトランペット型の胞子嚢を有しています。光合成や呼吸のための気孔があったとわかっており、後代の維管束植物にも共通する形質を持っていました。


リニア状植物からの発展を経て、我々のよく知る植物たちが続々と誕生していきます。ただ、古代においては、現代では到底考えられないような迫力と奇怪さを有するユニークな種類が多数登場しました。
次回以降は、太古の地球を彩った古代の巨大植物の世界を覗いてみたいと思います。気の遠くなるような大昔に、超スケールの不思議な植物園が広がっていたのです。
【参考文献】
Edwards, D., et al.(1980)Records of Cooksonia-type sporangia from late Wenlock strata in Ireland. Nature, 287 (5777): 41–42.
ニュートンプレス(2010)生命史35億年の大事件ファイル―生命創造から人類出現まで (ニュートンムック Newton別冊)
NATIONAL GEOGRAPHIC(2018)「謎の古代生物の正体は「動物」と判明、地球最古級」https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/092100413/
長谷部光泰(2012)一般社団法人 日本植物生理学会 みんなのひろば植物Q&A「藻類は植物でない?」https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2768
熊本県博物館ネットワークセンター(2020)陸上植物の進化 https://kumamoto-museum.net/kmnc/archives/2358
食から始まる健康情報サイト栄養いろどりライフ「藻類とは? 植物の仲間」https://www.dlt-spl.co.jp/life/cat_research/202008_whatsAlgae.html
豊橋市自然史博物館の展示キャプション
