全国自然博物館の旅【67】愛媛県立総合科学博物館
一般的に「科博」と言えば、東京の国立科学博物館を想像されるかもしれません。しかし、四国の人にとっての「科博」は愛媛県立総合科学博物館です。その展示内容の濃密さと奥深さは、都会の博物館に勝るとも劣りません。
太古の世界から現生自然まで、深く広く学習できる愛媛県の「科博」。新たな自然科学の知見をたくさん得るために、筆者は愛媛へと向かいました。
究極の総合力を誇る愛媛県の「科博」
四国の自然は最高! どの季節に行っても、自然観察のやり方次第で、たくさんの生き物たちと出会えます。素晴らしい環境と生命を守るために、四国では保全活動が強く進められています。
実は、愛媛県は絶滅哺乳類ニホンカワウソが最後に確認された地方であり、今なお四国での生存を信じ続けている人もいます。四国の美しい大自然を眺めていると、ニホンカワウソたちに会いたい想いが強まってきます。環境保全の尊さを知るうえでも、愛媛県を訪れる意義はとても大きいと思います。


香川県からレンタカーでスタートし、自然観察しながら高知県を経て、筆者は愛媛県へとやって来ました。こまめに休息しながらまったりドライブを続け、新居浜市に立つ愛媛県立総合科学博物館に到着!
博物館の近くには大型の立体駐車場があるので、車での来館がベストです。旅行者はレンタカーで移動される方が多いでしょうし、四国在住の方はご自身や家族がマイカーをお持ちだと思いますので、ぜひ車で「科博」に来館していただきたいと思います。


愛媛県立総合科学博物館は、幅広い自然科学を教示・研究する学術施設。四国において屈指の大型博物館です。その大きさは、エントランスホールの広さから強烈に伝わってきます。なお、本館ではレストランでおいしいランチや軽食を味わえますので、生物マニアの人は時間を気にせず好きなだけ観覧しまくりましょう。


生命と自然環境を深く学びたい方は、まず3階の「自然館」へと上がってください。地球はなぜ生まれ、生命はどこからやってきたのかを考えながら、観覧を始めましょう。その先には、無限に咲き誇る生き物たちの世界が待っています。



地球の歴史と愛媛県の大自然の探究が始まる
学術性と迫力に富む圧巻の古生物展示
「地球のゾーン」に入ると、生命史の学習が始まります。白亜紀の代表するティラノサウルスとトリケラトプスの模型ロボットは、かっこよさと迫力が最強! 彼らに魅せられた人々は、古生物学のロマンへと誘われるのです。





それでは、黎明期から生命の時代を遡り、進化の歴史を見ていきましょう。約40億年前の海で誕生した生命は、進化の過程で光合成能力を身につけ、あふれるほど大量の酸素を産み出しました。新たな環境は生命をさらに躍進させ、古生代に入ると爆発的に種族を増やします。
我々には想像もできないような超太古の時代、数多くの生命が現代へつながる生存競争を繰り広げていました。化石標本を眺めていると、はるか遠い時代の存在である古生物たちを、とても身近に感じられます。





化石を観覧しつつ、お隣のコーナーの精巧な古生物模型も見ていきましょう。古生代の生き物たちが超リアルな造形で再現されており、古生物マニアの目を強く引きつけます。個々の生物模型が躍動的なポーズで表現されているので、太古の生き物たちの生態を鮮明にイメージさせてくれます。



続いては脊椎動物の進化に注目します。カンブリア紀に誕生した魚類は、永い時の流れの中で顎を獲得し、多様な種類を生み出し、水域の覇権を獲得します。
古生代の水の王者は魚たち。多様な魚類たちの標本資料を拝みつつ、彼らの進化の軌跡を学んでください。




環境激変を繰り返し、生命たちの進化が加速する古生代。時代が石炭紀に移ると、魚たちの一派から両生類が誕生し、ついに脊椎動物が陸上適応を果たします。未知なるフロンティアを開拓した両生類の本能は、我々人類にも受け継がれていると思います。彼らの偉大なる一歩を、本館の展示で深く学習しましょう。





そして時代は中生代へ。恐竜たちが支配する大王朝の幕開けです。圧倒的な強さと偉大さを誇った恐竜たちは、いかなる生物であり、いかにして栄えたのかーーその謎を本館の展示で解き明かしてみましょう。





本館の恐竜展示は、とても奥が深いです。全身骨格の展示のみならず、歯や爪などの部位をピンポイントで解説してくれています。恐竜たちの秘密を知れば知るほど、彼らの王者たる所以がわかってきます。





中生代末期の環境の激変を経て、生き残った生命は、次の新生代にて大繁栄します。この時代において哺乳類は飛躍的な進化を遂げ、ものすごい勢いで多様性を増していきます。本館の標本展示で多くの種類を目の当たりにすれば、新生代の哺乳類のすさまじい進化速度を理解できます。




精巧な模型展示も、本館の大きな魅力。恐竜たちに続いて、古代のゾウ類たちもリアルな造形で来館者を魅了してくれます。視覚的な情報の学習効果はとても高いので、模型を活用した解説は我々の理解の大きな助けとなってくれます。




さて、超太古から現代まで続く生命史を追ってきましたが、ここまできたら四国の生物化石を見たいですよね? 本館では四国産の様々な動植物の化石が展示されていて、古生物マニアの関心を強烈に高めてくれます。化石たちの声を聞き、四国の大地から、はるかな太古に想いを馳せてみましょう。




ニホンカワウソとの出会いを通じ、環境の保全を考える!
時代を現在まで遡ると、自然展示の主役は古生物から現生動植物へと移ります。生物標本とジオラマを多用した本館の展示構成は、視覚的に素晴らしいインパクトを有しており、私たちの探究心を強烈に刺激してくれます。我々と同じ時代、自然界で力強く生きる生命たちの秘密を詳しく見ていきたいと思います。




ジオラマ・剥製標本・模型のどれもが秀逸であり、それぞれの持ち味を活かした工夫あふれる展示は、本館の大きな強みです。生き物たちの形態的な特徴や生態を詳しく説きつつ、彼らの自然界での姿をイメージさせてくれます。自然博物館とは、壮大な地球環境へ開かれた窓であると改めて実感します。





お次は、偉大なる海洋の生命たちとの出会いです。こちらでも多様な生物標本や模型が効果的に活用されており、来館者に海洋生態系をわかりやすく伝えてくれています。本館で学べば、海の生き物たちの驚くべき秘密に出会えることでしょう。





先述の通り、かつて日本では広い範囲にカワウソが分布していました。ですが、人間の度を越した自然破壊や乱獲によって、彼らは日本中の水辺から姿を消してしまいます。
ニホンカワウソが最後に目撃された地は、愛媛県の宇和島市。本館でニホンカワウソの基礎学習をすることには、大きな意義を感じます。絶滅した生き物は二度と帰ってきませんので、野生動物の個体数調査に加えて、一般への保全意識の啓発が必要なのです。





今度はもう一度、太古の愛媛県へ戻ってみましょう。愛媛県はとても生物化石が豊富であり、古生代から新生代に至るまで多様な生き物の化石が発見されています。まさしく、本県は生命の壮大なドラマが秘められた大地なのです。愛媛県の古生物学は、これからどんどん発展していくことでしょう。





愛媛県の自然を語るうえで欠かせない場所が、西日本最高峰の石鎚山(標高1982 m)です。石鎚山では標高1200~1700 m付近にかけて美しきブナ林が広がっており、コマドリやモモンガなど多くの野生動物が生息しています。観覧していくうちに、石鎚山をはじめとする愛媛県のフィールドへ自然観察に出かけたい心地になりますね!




愛媛県の野鳥たちの剥製展示は、まさしく美の局地。かっこよさと美しさに満ちあふれた鳥たちが並んでおり、生物マニアの視線は釘づけとなります。
亜高山帯の森林・河口の干潟・平野部の水田は鳥たちの重要な生息場となっており、非常に多くの種類が愛媛県で記録されています。なおかつ、様々な渡り鳥が飛来するのも大きな特徴です。旅の鳥たちにとって、愛媛県は冬を越す大切な場所なのです。




続いては哺乳類展示コーナーでは、実に数多くの種類の剥製がズラリと並んでいます。壮麗な山林と河川を有する愛媛県の大地で、力強く生きる哺乳類たち。勇ましい剥製標本には、野生動物の強さと美しさが湛えられています。




愛媛県の哺乳類展示をさらに深掘りし、再びニホンカワウソについて考察していきましょう。彼らは日本固有のイタチ科の半水棲哺乳類であり、明治時代以降の乱獲や環境開発によって個体数が減少。もう50年間も生きた姿の目撃例はなく、現在のレッドリストでは「絶滅種」に指定されています。
私たちと同じ地球・同じ日本で暮らしていたニホンカワウソ。彼らはどんな生き物であったのかを、本館は人々に強く伝えています。我々がおかした過ちから目を背けず、ニホンカワウソの実像を学ぶことはとても重要だと思います。




壮大な海に面する愛媛県の沿岸では、多種多様な海洋生物が暮らしています。西海町の沖に浮かぶ鹿島には造礁サンゴが群生しており、日本初の海中公園に指定されて、現在も保護が続けられています。本館の展示資料で愛媛県の海を覗いて、海の神秘を感じてください。





生態系の保全を成すうえで、絶対に考えなくてはならないのが外来種問題です。初めに申し上げますが、外来種の生き物たちも被害者であり、勝手な人間の行動によって、見知らぬ土地に連れてこられただけなのです。彼らを駆除することはやむを得ませんが、「外来種は決して悪者ではない」という事実だけは理解していただきたいと思います。
不幸な命を増やさないために、私たちは博物館の教育資料でしっかりと学び、胸に強く留めておかなくてはなりません。なお、海外原産の生き物を飼うことは決して悪くはありませんが、どんな生き物でも一度飼ったら最後まで面倒を見なくてはなりません(絶対に逃がしてはダメです!)。生命に対する1人1人の意識が、大きな自然環境の保全へとつながっていくのです。




壮大な知が詰まった愛媛県の「科博」。太古から現代に至るまでの生命の歴史はもちろん、自然環境と生命の尊さを教示してくれました。
ニホンカワウソとの出会いは、来館者にとって素晴らしいできごとになります。これから人類はどのように自然と関わっていけばよいのか、その指針を愛媛県の科博から学べます。

愛媛県立総合科学博物館 総合レビュー
所在地:愛媛県新居浜市大生院2133-2
強み:生命の進化を時系列・体系的に学べる濃密な古生物展示、古代から現代に至るまでの愛媛県の動植物の豊富な標本資料、環境教育性の高い貴重なニホンカワウソの資料展示
アクセス面:立地の関係上、レンタカーか自家用車の利用を推奨します。最寄りのバス停から博物館までは約2 kmも距離がありますので、せとうちバスでの移動を選択した場合、長距離の徒歩移動が必至となります。ですので、夏期では熱中症を避けるために必ずレンタカーか自家用車を利用してください。来館時期が夏で、なおかつ事情があって車を運転できない方は、JR伊予西条駅またはJR新居浜駅からタクシーで博物館へ向かいましょう。
学術性と教育性が超ハイレベルで両立した、極めて総合力の高い科学博物館。絶滅種ニホンカワウソの資料観覧を通して、野生動植物の絶滅問題について深く考えられます。さらに、アカデミックかつダイナミックな恐竜たちの展示コーナーも設けられており、子供から大人まで誰もが興味深く自然学習に没頭できます。
雄大な自然環境を有し、なおかつ古生代から新生代まで壮大なスパンの地層を擁する愛媛県。本県の底知れぬ大自然の魅力を徹底的に学習できる「科博」は、まさに四国が誇る学術基地です。生き物好きの方には、どんなに遠方に住んでいても、ぜひ本館を訪れていただきたいと筆者は強く願います。地球史に生まれた多くの生命たち、そしてニホンカワウソとの出会いはきっと素晴らしい学習の記憶になります。

