【読書録】『マインドセット』キャロル・S・ドゥエック("Mindset" by Dr. Carol S. Dweck)
今日ご紹介する本は、キャロル・S・ドゥエック著(今西康子訳)『マインドセット』(2016年、草思社)。副題は『「やればできる!」の研究』。
本書は、スタンフォード大学心理学教授である著者の世界的ベストセラーを和訳したものだ。ビジネスパーソンを始め多くの読者から支持されており、あのビル・ゲイツも絶賛しているという。
この本を読んでみて、強く感銘を受けた。
そこで、原書でも読んでみたくなり、探してみた。すると、以下の本が見つかった。原著のタイトルと副題は、それぞれ "Mindset" / "The New Psychology of Success" 。Amazonの本紹介ページによると、こちらの原書の出版年は2007年となっていた。
しかし、調べるうちに、同じ著者、同じタイトルで、もう1冊、別のバージョンが販売されていることが分かった。
タイトルは同じで、 "Mindset" だが、上記のものとは、副題が異なっている。こちらの副題は、"Changing The Way You Think To Fulfil Your Potential" となっており、日本語に訳すと「潜在能力を最大限発揮するための思考法の変え方」という意味になる。こちらは2017年出版で、より新しい。こちらを入手して読んでみたところ、元のバージョンから増補改訂したものだと分かった。
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前置きが長くなったが、本書の英語版と日本語版を読み、理解したことを、以下のとおりまとめてみる。
この本のテーマは、タイトルどおり「マインドセット」だ。本書では、「心のあり方」と訳されている。
自分のマインドセット(=心のあり方)が大きく人生を左右するということ。そして、自分のマインドセットを理解し変えることで、可能性を最大限引き出せるようになることを説いている。
本書では、2つのタイプのマインドセットを定義し、これらのマインドセットの違いがどのような影響をもたらすかを、繰り返し比較対照させながら論じている。
2つのマインドセット
本書で取り上げる2つのマインドセットとは、以下の2つ。
Fixed mindset(フィックスト・マインドセット)
→ 日本語版の和訳は、「硬直マインドセット」
Growth mindset(グロース・マインドセット)
→ 日本語版の和訳は、「しなやかマインドセット」
(しかし、個人的に、この「硬直」と「しなやか」という訳語については、なんとなく違和感がある。そこで、以下、"Fixed mindset" / "Growth mindset" と、原文のままで記載する。)
Fixed mindsetの特徴
本書で述べられているFixed mindsetの特徴のなかで印象に残ったものには、次のようなものがある。
自分の能力は石板に刻まれたように固定的で変わらないと信じている。自分の能力を繰り返し証明せずにはいられない(p13)
自分が他人からどう評価されるかを気にする(p21)
能力を固定的に考える世界では、つまづいたらもうそれで失敗(p23)
成長できなければ失敗、努力は忌まわしいこと(p23)
しくじってはならないという切迫感にいつも駆られている。そして成功すると、誇らしさが優越感にまで膨れ上がる。なぜなら、成功するのは、固定的な能力が人よりも優れている証拠だからである(p46)
結果がすべてなので、失敗したり1位になれなかったりすると、それまでの努力がすべて水泡に帰する(p67)
能力をほめると生徒の知能が下がる(p95)
子どもに「あなたは頭が良い」と言ってしまうと、その子は自分を賢く見せようとして愚かなふるまいに出るようになる(p96)
言わなくてもわかるはず、相手もまったく同じ考えのはずだと期待する(p218)
人間には優れた者と劣った者がいるという考え方(p242)
頭の良さをほめると、学習意欲が損なわれ、ひいては成績も低下した(p255)
内なる声は自分や他人の品定めばかりするようになる(p305)
自分はもうダメだと思い込んで逃げ出し、意欲も成績もガクンと落ちてしまう(p311)
Growth mindsetの特徴
本書で述べられているGrowth mindsetの特徴のなかで印象に残ったものには、次のようなものがある。
人間の基本的資質は努力しだいで伸ばすことができるという信念(p13)
うまくいかないときにこそ、粘り強い頑張りを見せる(p14)
自分を向上させることに関心を向ける(p21)
努力こそが人を賢く、有能にしてくれる(p23)
潜在能力が開花するには時間がかかることを知っている(p41)
自分が間違いを犯したことを認めることができれば、そこから教訓を得てまだまだ成長していける(p51)
結果がどうなろうとも、今、力を注いでいることそれ自体に意義を見出すことができる(p68)
やればできるという信念を持って指導にあたった教師のもとでは、生徒の学力差がなくなっていった(p89)
努力をほめると生徒の知能が上がった(p95)
成功とは、自分のベストを尽くし、学んで向上すること(p136)
失敗をバネにしてさらに前進しようとする。失敗は、教訓を与えてくれるもの、目を覚ましてくれるモーニング・コール(p138)
相手を許す(p212)
優れた教師は、知力や才能は伸ばせると信じており、学ぶプロセスを大切にする(p285)
内なる対話で問題にするのは、この体験から何を学びとることができるか、どうすれば自分を向上させることができるか(p306)
まわりの人々があなたを助け、応援してくれるようになる(p326)
(真の)Growth Mindsetへの旅
2017年英語版には、"The Journey To A (True) Growth Mindset" というくだり(p254)がある。真にGrowth Mindsetを持つための具体的な4つのステップを提案している箇所だ。これは2017年英語版で大幅に加筆されたもので、2016年の日本語版には掲載されていない。
ステップ1:まずは、自分のFixed Mindsetを受け入れる(原文では、"embrace your fixed mindset")
ステップ2:自分のFiexd Mindsetをもたらす("trigger")ものが何かを認識する(原文では、"become aware of your fixed-mindset triggers")
ステップ3:自分のFixed Mindsetの人格(ペルソナ)に名前をつける(原文では、"give your fixed-mindset persona a name")
ステップ4:名前を付けたペルソナを教育して、一緒に成長する(原文では、"Educate it. Take it on the journey with you")
これらの4つのステップを通じて、自らのFixed Mindsetの傾向に名前を付け、客観的に認識、理解、分析することができ、自分自身で軌道修正がしやすくなる、ということのようだ。
感想
正直に言うと、本書を読む前は、よくある自己啓発本のひとつだろうと思って、それほど期待はしていなかった。
しかし、良い意味で期待を裏切られた。Fixed Mindset と Growth Mindsetの影響は、想像以上に大きなものだと分かった。世界的な権威である心理学者が、豊富な事例を通じて解きほぐしてくれており、読みやすく、わかりやすかった。ストンと腑におちた。
本書を手にとったときの主な動機は、ビジネスの場面で、自分自身やチームとどのように向き合うべきかのヒントを得られれば良いなというものだった。
しかし、本書の説くマインドセット変換は、もっと根本的なもので、ビジネスのみならず、人生全般のあらゆる場面で影響力を及ぼすと分かった。ビジネスよりも、むしろ、子育てや教育における影響がより大きいかもしれない。とりわけ意外で、ショッキングだったのは、子育てにおいて、子どもの努力ではなく能力を褒めてしまうと、それが災いし、かえって子どもの意欲も成績も下がってしまう、というくだりだった。
私の個人的な感覚だが、日本人は同質性が高く、同調圧力が強く、他人や理想の姿と比較して、減点方式で物事を考える傾向が強いと思っている。
大学入試試験などの単一の物差しで人を評価しがちだ。失敗したら落伍者の烙印を押す。失敗したほうは、世界の終わりのように思ってしまい、失敗から学んだり、別のことを試したりする意欲をそがれる。成功すればしたで、能力を誇示し続けることばかりに気を取られ、真の成長のための努力を怠る。
少なくとも私の所属していた家庭、学校や会社では、そういう人を多く見てきた。そして、自分自身にそういうところがあることも、否定できない。これってまさに、"Fixed Mindset" そのものではないか。そう気づいて、ガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。
そうだとすると、これから、ひとりでも多くの人が、"Fixed Mindset" から "Growth Mindset" への軌道修正をすることができれば、日本社会はずっと良くなるのではないか。
固定的な能力の比較や評価の傾向が弱まれば、落ちこぼれる子どもや自死も少なくなるのではないか。個々人が、自分自身を向上させるために素直な気持ちで努力を続ければ、頭の柔らかな優秀な人材も増えるだろう。創造的なアイデアも次々に生まれ、社会課題もどんどん解決されていくのではないだろうか。
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ところで、上述の「(真の)Growth Mindsetへの旅」のための4つのステップ(2017年英語版より)は、とても実用的だと感じた。自分の "Fixed Mindset" に名前をつけるというのはユニークで、ゲーム感覚で自分のマインドセットを自然と鍛えることができそうだ。
たとえば、私の場合はこうだ。私は、自分がライバルだと思っている人が大成功しているのを見ると、その人と自分を勝手に比べて、自分を卑下してしまい、何もかもが嫌になってしまうことがある(ステップ1と2:Fixed Mindsetを受け入れ、それをもたらす状況を認識する)。
そういうときの私のマインドセットを、私は「六条さん」と名付けてみた(ステップ3:名前をつける)。『源氏物語』の嫉妬深いキャラの登場人物である「六条御息所」よりいただいた。
そして、ライバルが華々しく評価されている場面に遭遇したときに、私の中の「六条さん」と、こんな風に対話するのだ(ステップ4:ペルソナを教育し、一緒に成長する)。
「あら、六条さん。そんなに嫉妬しても、何も得ることはないじゃないの。むしろライバルを祝福しつつ、どんな努力をしてきたのか、教えてもらいに行こうじゃないの! きっと学ぶべきことがあるはずよ?」
こんな具合に、この4つのステップを意識することで、自分のマインドセットを客観的に観察でき、冷静に対処できるようになる。
実は、先日、飲み会の席で、友人たちにこのことを話してみた。そして、私の「六条さん」を、友人たちに紹介してみた。
すると、「サザヱにそんな一面があったとは、意外だわ!」と、大いに驚かれた。私の嫉妬深い "Fixed Mindset" は、友人たちには知られていなかったようだ。
そして、友人たちのペルソナについても聞いてみると、実に多種多様で、それぞれ、意外な一面を持っていることがわかった。
こういうエクササイズをしてみると、「ああ、みんな、それぞれ、その人なりの苦労をしているんだなあ」と分かり、他人に対して優しくなれる気がした。
いやはや、なんとも読み応えのある本だった。これからの人生のお供に、時々読み返したいし、後輩たちにも推薦したいと思っている。
ご参考になれば幸いです!
私の読んだ日本語版(2016年)はこちら。
私の読んだ英語版(2017年)はこちら。
私の読書録の記事へは、以下のリンク集からどうぞ!
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