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【読書録】『終わった人』『すぐ死ぬんだから』『今度生まれたら』内館牧子

今日ご紹介する本は、内館牧子著の小説、『終わった人』(2015年)、『すぐ死ぬんだから』(2018年)及び『今度生まれたら』(2020年)の3作品。私が読んだのは、いずれも講談社文庫版。Kindle版も出ている。

著者の内館牧子氏は、1948年生まれの脚本家・作家。大手企業で13年間のOL生活後、1988年に脚本家としてデビューした。NHK朝の連続テレビ小説「ひらり」で第1回橋田賞を受賞。著書も多数お持ちだ。

今日ご紹介する3作品は、主人公がいずれも高齢者である点で共通している。60代や70代のごく普通の老人たちが、日々遭遇する出来事や気持ちの変化を通じて、老後の生き方について考える物語だ。いわば、高齢者小説。いずれも、ベストセラーになっている。

これらの本を読んだきっかけは、現在60代の人生の先輩から薦められたことだった。しかし、正直に言って、最初は、あまり読む気がしなかった。だって、『終わった人』『すぐ死ぬ・・・』といったタイトルからは、なんだか高齢者の憂いが感じられるではないか。私は現在、まだ50代前半。高齢者の仲間入りをするまでにはまだ時間があると思っているのに・・・。

しかし、いざ、文庫本を手に取って読み始めてみると・・・。

何、これ! めちゃくちゃ面白いじゃん!

続きが気になって、もう止まらない! 土曜日と日曜日の2日間で、3冊すべて読み切ってしまった。 

以下、備忘のために、この3作品についてメモしておく(※ネタバレご注意ください)。


『終わった人』

Amazonの本作品のページには、以下の紹介文があった。

大手銀行の出世コースから子会社に出向、転籍させられそのまま定年を迎えた田代壮介。仕事一筋だった彼は途方に暮れた。生き甲斐を求め、居場所を探して、惑い、あがき続ける男に再生の時は訪れるのか?シニア世代の今日的問題であり、現役世代にとっても将来避けられない普遍的テーマを描いた、大反響ベストセラー「定年」小説。

定年を迎えたサラリーマンが、長い老後を迎え、これから何を生きがいとして生きていけばよいのか・・・。

おそらく企業戦士として長年働いてきた会社員の皆様には、この主人公田代壮介に容易に感情移入できるのではないだろうか。

また、その妻、千草との関係の変化にも、身につまされるものがある。長年、連れ添ってきた配偶者も、もとは他人。家族としての情愛はあるが、子どもが巣立った今、個人としての価値観や、これから挑戦したいことの違いが、徐々に明らかになってゆく。これから夫婦でどのように暮らして行けばよいのか。ふとそんな風に考える高齢者は、結構、多いのではないだろうか。

この作品で特に印象に残ったのは、以下の箇所だ。

 企業というところは、人をさんざん頑張らせ、さんざん持ち上げ、年を取ると地に叩きつける。そうした末に「終わった人」が、どうやって誇りを持てばいいのだ。

p101

 着地点に至るまでの人生は、学歴や資質や数々の運などにも影響され、格差や損得があるだろう。だが、社会的に「終わった人」になると、同じである。横一列だ。本書の主人公のように、着地点に至るまでの人生が恵まれていれば、かえって「横一列」を受けいれられない不幸もある。

p529(あとがき)

『すぐ死ぬんだから』

Amazonの本作品のページには、以下の紹介文があった。

終活なんて一切しない。それより今を楽しまなきゃ。

78歳の忍ハナは、60代まではまったく身の回りをかまわなかった。だがある日、実年齢より上に見られて目が覚める。「人は中身よりまず外見を磨かねば」と。仲のいい夫と経営してきた酒屋は息子夫婦に譲っているが、問題は息子の嫁である。自分に手をかけず、貧乏くさくて人前に出せたものではない。それだけが不満の幸せな老後だ。ところが夫が倒れたことから、思いがけない裏を知ることになる――。

この作品の主人公は、3作品のなかで一番高齢の78歳女性。お洒落に関する意識の大変高いおばあちゃんである。

高齢者の外見をテーマに、ストーリーが始まる。身ぎれいにしている高齢者と、身なりに気を遣わずに老け込む高齢者の格差は、容赦なく開いていく。その様子の描写は、残酷なほどリアルだ。高齢者同士や、嫁姑がマウントを取り合う様子は、あまりにも痛快で、笑い転げてしまった。

しかし、第4章からは、あっと驚く展開になってゆく・・・。

以下のようなくだりが、特に印象に残った。

 お金がないと言う言葉を、真に受けてはならない。本当に貧困にあえぐ人たちもいるが、一般老人はなぜお金がないか。
 貯金するからだ。
 年金をやりくりし、生活を切りつめ、「老後のために」と貯金するからだ。
 若いうちに切りつめてたくわえたお金は、今が使い時だろうが。
 八十間近の、さらなる「老後」に何があるというのだ。葬式しかないだろう。

p25

 自然に任せていたら、どこもかしこも年齢相応の、汚なくて、緩くて、シミとシワだらけのジジババだけになる。孫の話と病気の話ばかりになる。
 それにあらがってどう生きるかが、老人の気概というものだろう。

p50

 今、思えば泪も喜びも、怒りも妬みも、何もかもが遠い夢、幻に思える。
 出会った人も別れた人も、通りすぎた何もかもが、楽しい道草のようだった。
 ジジババの人生は、ここから始まる。
 そう気づいたところから勢いが出る。

p435

「自分が自分に関心を持っている」ということこそ、セルフネグレクトの対極である。
 高齢者が外見の意識を持つことは、持って生まれた美醜とは無関係だ。経済的に、また生活環境的に、自分に手なんかかけていられないと言う人たちもあろう。しかし、許される範囲内でやることこそ、「意識」ではないか。それがもたらすかすかな変身が、生きる気力に直結することは確かにあるのだと思う。

p440-441(あとがき)

『今度生まれたら』

Amazonの本作品のページには、以下の紹介文があった。

70代では人生やり直せない?

人間に年齢は関係ない、なんてウソ。
人生100年はキレイごと。

「今度生まれたら、この人とは結婚しない」70歳の主婦、佐川夏江は自分がやり直しのきかない年齢になっていることにショックを受ける。人生を振り返ると、あの時別の道を選んだらどうなっていたかと思うことばかり。進学は、仕事は、結婚は。少しでも人生をやり直すため、夏江はやりたいことを始めようとあがく。

平凡な70歳の専業主婦が主人公。過去の人生の分岐点で、別の選択をしていたらどうなっていたか。そう考える人は多いのではないだろうか。人生は選択の連続。一度、重大な選択を誤ってしまったら、もう取りかえしがつかないのか? 今度生まれたら、同じ配偶者と結婚するだろうか? 

エリートの夫は、1度の過ちで出世コースから外れてしまった。過去に振った高卒の同僚は、その後、大成功してメディアに登場している。本当にやりたかったことにチャレンジする機会は、子育てを理由に否定された。幸せな生活を送っていると思っていた息子も、そうではないらしい。オシドリ夫婦であった姉にも予期せぬ事態が生じる。

いやはや、人生には色々なことが起こるものだ。主人公夏江が思い悩むたびに、私の気持ちも揺さぶられた。最終的には、夏江の行動により、変化が起きる。誰でも一歩を踏み出せるというメッセージを受け止め、勇気づけられた。

印象に残っているのは、以下のくだり。

 成人後の五十年間での「自己実現」は、和幸をモノにしたことと、息子二人を育て上げたことだけだ。あとは何も思いつかない。
「平凡な幸せ」だったし、今もそうだ。だが、その言葉でおさめて、老境に入っていいのだろうか。
 選ばなかったもう一本の道は、本当によくなかったのか。
 たとえ夫がいても、もっと「私」を生きるべきではなかったか。

p45

(・・・)「結晶性能力」とは今まで生きてきた中での経験や、学習などによって、すでに身についている能力だそうだ。理解力や洞察力など、人生経験によってつちかわれる能力だという。
(中略)
「もうひとつの『流動性能力』ってのは、三十歳くらいから下降する能力だよ。瞬発力とか直観力とか、処理するスピードとかの能力」
 年を取れば取るほど、結晶性能力が蓄積される。それは確かに、人間の年齢は関係ないということと重なるかもしれない。幾つになっても何かを始められるということだ。

p148-149

(・・・)あらゆる職種の誰にとっても、仕事ほど刺激的なものはそうないのだと思う。時には本気でやめたくもなろうし、理不尽なことに泣かされもしようが、それを含めての刺激は、趣味や読書では満たされない。

p177

「相手のパンチを受けないようにけていると、間違いなく自分にパンチは当たらないから、ダメージはない。だけど避けるということは、前に出ないことだから、自分のパンチも相手に当たらない。だから勝てない」

p184 とあるボクサーの言葉として

これらの作品を読んでの感想

これらの3作品は、共通して、老いをテーマにしている。しかし、いずれの作品も、読了後はとても爽やかな気分になった。

ストーリー展開のテンポが良く、登場人物たちの丁々発止は、痛快そのもの。時には辛口な心理描写もあり、なんとも小気味よい。何度もクスッと笑ったり、時には大声で笑ったりした。読み終わると、なぜかとても元気になっていて、「老い、上等!」「かかってこいや!」と叫びたい気分になっていた。

そして、ところどころ、人生の機微について考えさせられる場面もある。登場人物の悩みを通じて、今から老いに備えるために、色々できることがあるかも、と気づかされもした。

これらの本は、今まさに老後真っ只中の方はもちろん、老後を考え始める中年世代にも、是非お薦めしたい。娯楽として楽しみつつ、主人公に自分を重ね合わせて、老いに向き合うイメージトレーニングができる。

人生100年時代の長い老後、少子高齢化に、年金問題。何かと老後不安が話題となる現代の、いわば読む処方薬になりそうだ。

ご参考になれば幸いです!

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