蛍と夜散歩 今は孤独じゃない統合失調症
昨日帰って夕食の準備をしていたら彼女が帰ってきて言いました。
「いこっ」
「え、どこに」
「そこの川で蛍が見えるんだって」
マンションのベランダ側に面した通りに川があるのですが、どこで聞きつけたかそこで蛍が見られることを知り彼女が誘ってくれました。
川沿いにつくとすでに数人が川沿いに立っていて川を見下ろしています。
「あ、ほらほらやっぱりいるんだよ」
彼女は子供のように無邪気でした。
二人で川を見下ろすと水面も見えないほど真っ暗な空間が広がっていました。
「少し歩こうか」川沿いに沿って所々川を見下ろしながら歩きました。
彼女が立っていた男性に話しかけました。
「すいません、蛍見えますか?」
「まだだね。時間的にまだ早いよ。あと30分くらいしたら見えると思うよ」
男性は優しく教えてくれました。
そこで歩いて行ける川の端まで行ってから戻ってくることにしました。
蛍が出るスポットが決まっているのか、その先を歩いても蛍を見ている人はいませんでした。
端まで行って元の場所に戻りました。
そして川を見下ろしながら「いないね」といった瞬間でした。
ふわぁという感じで小さな光が舞って消えました。
「あ、ほら」彼女が言いました。
「ほんとだ、だけど一匹かあ」
「あ、あっちにも」
遠くで光が舞っています。その明滅を必死に目で追いました。
それから少し時間がたって蛍があちらこちらで光るようになりました。
川を見下ろしながら二人で歩きました。
「あ、すごい」
一か所だけ蛍の光が沢山飛んでいる場所を見つけて彼女が言いました。
「きれい」幻想的な光の舞に彼女が言いました。
「そうだね」
「ところでどうやってここに蛍が出ること知ったの?」
「ここかな、このマンションに知り合いが偶然住んでたの」
彼女が後ろを向いて指さして言いました。
そこは自分が住んでいるマンションから10分くらいのところにあるマンションでした。そんな偶然もあるんですね。世界は狭い。
蛍はとても儚い光でとても美しかったです。
夜の散歩はとても良い息抜きになって、目でも楽しむことができ、良い時間を過ごすことができました。誘ってくれた彼女に感謝をしてその場を後にしました。
蛍を見た川沿いは、統合失調症がひどい時、夜一人で幾度となく歩いたところです。まさか蛍が見られるとは思いませんでした。
病気が悪化していた時は幻聴と妄想に悩まされながら、あてどなくひたすら歩きました。仕事を休んでいた時は何時間も何時間も歩きました。
妄想に支配され夜道を徘徊していたこともあります。
昨日は少しそんなことを思いだしました。彼女にもそのことを話しました。
「今は全くないんでしょ」
「ない」
「良かった」
彼女の安堵した様子を見て、絶対に悪化させられないなという思いが強まりました。そしてなぜだか大切にしたいという思いも強くなりました。
きっと統合失調症がひどかった時の孤独の苦しみをどこかで思いだしたからだと思います。
家までの少しの距離手をつないで歩きました。
そんな気分になったのです。
優しい彼女の手の温もりに妙に安心感を覚えながら帰りました。
「夜はハヤシライスだよ」
「やった」彼女は笑顔でした。
病気が悪化していた時とは違い、今は孤独な闘いではありませんが、だからこそ病気を二度と悪化させられないと感じています。プレッシャーはありますが、それ以上に安心感がありますし、彼女の存在は良い習慣を続けるモチベーションにもなります。
できることは薬の服用と健康的な生活習慣を続けることだけです。忘れることなく行っていきたいです。
そして普通という状態を維持し続けて、助けてもらうばかりでなく、彼女を助けられる存在でありたいと思っています。
