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返品なき出版流通へ/再販・委託の慣行に依拠しない銀河企画の選択(経済産業省の報告書を受けて)

✅経産省が提案している書籍返品の削減策を読み解く。
✅銀河企画も中小企業の機動力から独自の取り組みを続けている。

著:柴崎銀河

 経済産業省 商務・サービスグループ 文化創造産業課は、2026年4月「出版産業における返品削減研究会とりまとめ」*の報告書を公表しました。
 出版社・取次・書店、さらには読者を含むサプライチェーン全体の課題として返品を正面から取り上げ、業界横断で取り組むべき方向性を整理した報告書です。
 当社(銀河企画;出版社)は、この報告書の問題意識と方向性に賛同します。同時に、当社は以前から独自の方針で書籍流通に向き合ってきました。
 本稿では、報告書の内容を踏まえながら、当社の方針との重なりと違いを整理します。

経済産業省の報告書 の要点

 報告書は、2024年時点で書籍の返品率が33.2%、雑誌が43.8%に達していることを、業界共通の構造課題として示しています。
 出版社・取次・書店が、過剰生産/在庫保管/輸送/廃棄のコストを負担し続けているという内容です。
 1996年をピークに書籍販売額が4割以上も減少し、書店数も2014年の14,658店から2024年には10,417店まで減少する中で、このコストは産業全体に重くのしかかっています。
 背景として、報告書は出版業界に特徴的な二つの制度を挙げています。
 一つは、出版社が定価を設定し、書店はその価格で販売する再販売価格維持制度(再販制度)です。
 もう一つは、売れ残った商品を書店が出版社へ返品できる委託販売制度です。
 この二つの制度のもとで、書店は在庫リスクを負わずに積極的な店頭陳列を行いやすい一方、自店の販売実績に基づく発注や在庫コントロールの力が、業界全体として育ちにくい構造にあると指摘されていて、私も同感です。

 報告書で提示された方向性は大きく三つです。
 第一に、RFIDタグ導入や販売・在庫・返品データの精緻化を含むデータ連携(DX)の推進
 第二に、デジタル印刷を活用した小ロット製造や自動追送など、製造・流通の最適化による適時適量供給への転換。
 第三に、書店起点の発注と買切り志向の取引モデルへの移行を通じた、書店の仕入販売能力の向上です。
 具体例として紹介されている「KADOKAWA社の100部からの小ロット重版と直送モデル」、「ブックセラーズ&カンパニーによる買切り直取引スキーム」、「大田丸を通じた地方書店連携の取組」は、いずれも現行制度の枠内で運用を構造から変えていく試みです。
 現場の創意工夫として大いな示唆に富むと、私は受け止めました。

銀河企画の三つの方針

 ここで、政府報告書のことは一旦置き、銀河企画が実施している内容を説明します。当社は、次の三点を運営方針として掲げています。

1. 取次/書店から当社への注文は買切り制

 取次(書籍の卸)との協定により、当社への注文は買切り方式とし、返品は不良品の交換を除き受け付けません。
 産業全体のコストとなる過剰な流通在庫の逆流は遮断しながら、消費者との関係は正しく考えるという整理です。

2. 書店への配本(委託)を行わない

 書店に対して、取次が見計らいで送り込む配本(委託送品)は行わせていません。これが返品の最大原因になっているからです。出荷は、取次/書店からの購入のご注文に限っています。

3. 書店での販売価格は書店に任せる

 再販契約(再販制度により書店に定価販売を実施させることができる契約)は、取次と書店の間で締結されます。
 ここで当社は、再販制度のもとで出版社側に認められている「価格を指定する権利」を使いません。
 これにより、当社の本について、書店は、販売価格を書店自らの判断で設定できます。

 この三つの方針は、三位一体のセットに位置づけています。
 書店に在庫リスクを引き受けていただく買切りである以上、出版社が販売価格まで決めるのは公正ではありません。加えて、無駄の根源であった委託(配本)も行いません。
 書店に価格決定の自由があるからこそ、書店は地域・客層・販売状況に応じた値付けで在庫リスクを管理でき、買切りでの取引が成り立ちます。
 買切り&委託しない&自由価格は、出版社と書店のあいだでリスクと裁量を釣り合わせる、不可分なセットの選択です。

報告書と当社方針の共通点/相違点

 報告書が目指すのは、「必要なものが、必要な量で、必要な場所に、必要なタイミングで届く」サプライチェーンです。当社の方針は、この理想に制度の運用面から応えるものだと考えています。
 返品を原則として発生させないことで、過剰な印刷・輸送・廃棄コストをサプライチェーンから抑制できます。
 配本を行わないため、書店の望まない本が一方的に送られることはありません。書店は自らの判断と責任で、仕入れる本を選びます。さらに自由価格とすることで、書店は地域や客層に応じた値付けで利益を確保でき、仕入れに対する責任が、販売上の裁量として書店側に残ります。
 これは、報告書で紹介された「ブックセラーズ&カンパニーの買切りモデル」と、根本の発想を共にするものです。書店が「主体的に仕入れ、確実に売り切る」ことで粗利率の向上と返品削減を両立させる。その構造を、出版社側から支える設計だと言えます。報告書が指摘する「収益につながらないコストを出版産業全体で抱えている」状況への、当社なりの応答でもあります。

 一方で、両者には明確な違いもあります。

 報告書は、再販制度と委託販売制度を維持しながら、その内側でDXや小ロット印刷、書店起点発注を進め、結果として返品率を下げていく方針を中核に据えています。「多種多様な出版物の供給」という再販制度の意義を尊重したうえでの、漸進的なアプローチです。
 「一定の返品は新規性・多様性を担保する側面もある」という記述に表れているように、両制度を出発点として、可能な範囲で返品を縮減していく立場だと言えるでしょう。
 しかし当社は、委託販売の枠組みである返品の受入れや配本送品には乗らず、再販制度のもとで出版社側に認められている価格決定の権利も使いません。
 現行の流通制度の枠内で、出版社として使える権利のうち、当社の事業の性格に合わないものは使わないという選択です。
 当社が刊行する出版物の規模や、お取引いただく書店との関係を踏まえれば、このほうが出版社・書店・読者の三者にとって、より持続可能な関係を築けるものと、私は判断しています。

書籍だけが特別なのか

 当社は出版社であると同時にゲーム開発会社でもあり、カードゲームなどのゲーム用品も製造・販売しています。この立場から、もうひとつの視点を付け加えます。
 当社が接してきたゲーム業界の流通では、再販制度/委託販売制度/返品制度が、業界全体の前提として置かれているわけではありません。
 卸も小売も、買切りで仕入れ、各自の判断で値付けします。それがゲーム業界の一般的な取引感覚であり、その中で多種多様な作品が日々生まれ、市場に流通しています。書籍において再販/委託の両制度が担保しているとされる多様性は、ゲームではこれらの制度なしに成立しています。
 書籍とゲームでは、商品コード体系はISBNとJANのように分かれていますが、流通がコードによって管理されるという仕組み自体は共通しています。
 さらに近年では、書籍とゲームが一体化した商品も珍しくありません。書店とゲーム販売店の店頭、出版社とゲームメーカーの事業領域、そして購入する消費者層は、すでに相当程度重なっています。
 この現場感覚からすると、「書籍だけが特別な制度を必要とする」という前提は、改めて問い直す時期に来ているのではないかと感じます。
 書籍の文化的意義や流通の歴史を軽んじるものではありません。ただ、その価値を守る手段として、再販制度・委託販売制度が唯一の道なのかと問われれば、ゲーム業界を間近で見てきた経験から、「そうではない」と答えます。
 隣接する業界がこれらの制度なしに多様性と持続性を両立させていることは、新しい書籍流通を考えるうえでの指針になり得るのではないかと、私は思っています。

報告書の各論点と当社の現状

 ここまで、とりまとめの方向性と当社の方針を見てきました。最後に、報告書が挙げる具体策の各項目に対して、当社が現状どう向き合っているかを整理します。

RFIDタグの添付について

 報告書はRFIDの導入拡大を業界インフラ整備の柱として位置づけ、書店側の機器費用については中小企業省力化投資補助金が措置されています。
 一方で、出版社側の添付費用については、報告書自身も導入に当たっての課題として明記しており、現状ではその多くを出版社が負担します。RFIDタグの作成には、1枚当たり10~20円の費用が掛かると推定されます。
 当社としては、現時点でRFIDタグを添付する予定はありません。RFIDが解決しようとしている過剰配本と返品の可視化という課題は、買切り/委託しない前提とする当社の取引のなかでは構造的に小さく、効果がコストに見合わないためです。この判断は、RFIDの単価が下がれば変わります。
 業界全体としてRFIDが普及していく方向性は支持しつつ、各社の取引設計に応じた選択があってよい論点だと考えています。

小ロット生産について

 報告書は、デジタル印刷を活用した小ロット生産への移行を、適時適量供給の要として強く推奨しています。この点については、当社はすでに書籍の小ロット生産を行っています。買切り/委託しない取引では、最初から大量印刷をせず需要に近い数量で刷ることが経営合理的です。
 そういう意味で、報告書が業界に提示する方向性を実務として先取りしている形です。ゲーム製品の製造販売で培ってきた小ロット運営のノウハウも、書籍側に自然に活きています。

販売チャネルについて

 当社の販売チャネルは三本立てです。
 第一に、取次を経由した書店向けの流通。
 第二に、書店またはネット書店(通販)への直接供給。
 第三に、消費者との外部決済システムを介さない直取引。

 第二のチャネルでは、書店やそれに類するショップが内容を差別化した特注品を要望すれば、それに応じることもできます。
 第三のチャネルでは、出版社が消費者に直接販売をすることになり、報告書が課題として挙げるカード決済手数料の問題に対する解でもあります。
 決済手数料はサプライチェーンの外へ流出するコストです。これが発生しない直取引のチャネルを併せ持つことで、当社と取引相手の双方にとって透明な収益構造を維持できます。
 複数のチャネルを使い分けることは、特定経路への依存を避け、買切りの取引や読者対応など当社の方針を実務として運用するうえでも有効です。

賛同し、そのうえで当社の道を歩む

 政府報告書が業界全体に対して問題提起した意義は大きいと、私は考えています。とりわけ、RFID導入への中小企業省力化投資補助金による支援、2026年1月20日に発出された「出版業界でのデジタル印刷活用を推進する共同宣言」、書店活性化プランと連動した官民連携の枠組みは、強く支持します。
 返品削減によって生まれた余力が、サプライチェーン全体に適切に再配分されるべきだという指摘にも、心から同意します。
 そのうえで当社は、買切り制とし、委託配本をせず、書店では自由価格にする、という三つの方針を、これからも維持していきます。
 書店と本のお取引を丁寧に積み重ねていくこと。それが、政府報告書の理念と整合する形で当社が果たせる役割であると考えます。


*経済産業省PDF資料
出版産業における返品削減研究会 とりまとめ



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