軽出版とテーブルゲームの新たな展望
はじめに
近年、出版業界やゲーム業界において、小規模な組織や個人でも高品質なコンテンツを提供できる環境が整いつつあります。本記事では、「軽出版」とテーブルゲーム市場の現状、今後の展望について考察し、書店の再活性化についても言及します。
軽出版とは
「軽出版」とは、発行部数が数百部~千部程度の物理的な書籍を出版する形態で、電子出版を除いた小部数の紙媒体出版を指します。これは従来の大手出版社が手掛ける万単位の大量生産とは一線を画します。事業形態から見た同系統の言葉では「個人出版」「ひとり出版社」があります。以下で紹介する技術の進歩で、個人や小規模組織でも、この形態による書籍の出版が可能になってきました。
オンデマンド印刷技術の進歩
オンデマンド印刷(POD:Print On Demand)の技術革新により、小部数でも高品質な書籍をコスト効率よく印刷できるようになりました。初期投資を抑えつつ在庫リスクを極小に抑えられるため、個人や中小企業でも物理的な書籍の出版が容易になっています。日本では、「グラフィック社」や「プリントパック」などの印刷所が小規模な書籍の印刷を取り扱い、軽出版の流れを加速させています。
デジタル技術による制作効率の向上
編集やデザインなどの制作工程では、Adobe InDesignなどのデジタルツールの活用が進んでいます。これにより、制作プロセスが効率化され、少部数でも採算が取りやすくなります。また、デジタルデータの共有やオンライン校正など、リモートでの作業も容易になり、制作チームは柔軟に仕事ができます。
背景には同人誌という文化がある
「軽出版」が登場する過程では、「同人誌」が大きな影響を与えました。「同人誌」というのは、基本的に個人またはサークル(同じ趣味を持つ集団)が、趣味として主に漫画を描いた本を販売する文化で、特に日本で発達しました。そのために、少部数に対応する印刷所が発達し、そして「コミックマーケット(コミケ)」といった「同人誌」の販売をする場所・機会が誕生しました。その内容については別稿にしますが、ここでは商業的な「軽出版」に至る道には、「同人誌」が深く関わっていたことに注意を傾けたいと思います。
テーブルゲーム市場における類似性
それと同様の動きは、カードゲームやボードゲームなどのテーブルゲーム市場でも見られます。資金調達ではクラウドファンディングの普及や、3Dプリンターなど部品製造技術の進歩、トレーディングカードの多品種少量生産メソッドの向上により、小さな組織や個人が独自のゲームを開発して市場に参入するようになりました。クリエイターが独自の世界観や斬新なルール設計に挑戦した結果、これらのゲームは従来の大手メーカー製品にはない魅力を持つことが多いのも特徴です。
アナログとデジタルの棲み分け
アナログ(物理媒体)の書籍とデジタル(電子媒体)の電子書籍、そしてテーブルゲームとデジタルゲーム(スマートフォンアプリ)は、それぞれに一長一短があります。紙の書籍や物理的なゲームは、触感や所有感といった物理的な体験を提供しますが、本棚などの置き場所が必要で、残念ながら紙やアイテムは経年により劣化していきます。
一方、電子書籍やデジタルゲームは、持ち運びやすさやアップデートが容易などの利便性がありますが、目からの刺激で疲労を感じやすく、提供元がサービスを終了すれば電子書籍やアプリも運用を停止するリスクがあります。
家庭用ゲーム機に使われるパッケージ型のデジタルゲームもありますが、物理媒体上の電子的なコンテンツという中間的な位置付けと言えます。
いずれにしても、それらは一方が他を凌駕するものではなく、消費者の多様なニーズに応える形で棲み分け、両立・共存していくでしょう。
企画・製造プロセスにおける共通点
書籍とテーブルゲームの企画・製造プロセスには、多くの共通点があります。いずれもアイデアの創出から始まり、デザイン、編集、製造という工程を経て製品化されます。特に、ノベルゲームなど書籍形式で遊ぶゲームも存在し、これらのジャンルではその傾向が顕著です。デジタルツールの活用により、小規模なチームでも高品質な作品を生み出すことが可能になっています。

商品流通の変化と統合の可能性
さて、書籍はISBNコードで、テーブルゲームなどの商品はJANコードで、流通がシステム化され管理されています。ここで、一部の書店ではテーブルゲームの取り扱いが始まっており、消費者は一つの店舗で出会える商品が多様になりつつあります。さらに、ネット通販などのオンライン販売の普及により、流通経路の壁はますます低くなっています。
そうなると、次に述べる工夫により、書籍とテーブルゲームの流通経路が統合され、より効率的な物流システムが構築されるかも知れません。
商品サイズと配送効率の最適化
商品サイズの規格化・コンパクト化は、物流コストの削減と消費者の利便性向上に直結します。書籍は厚さが3cm以内のものが多く、そうであれば郵便受けに配達・投函できるメリットがあります。テーブルゲームでも、コンポーネントの工夫やパッケージデザインの最適化により、厚さ3cm以内の直方体に収まるものが増えています。これにより、配送コストを抑えつつ全国への展開が容易になると同時に、物流で書籍とゲームを同じ仕組みで扱う素地ができます。
再販価格制度と委託販売制度
書籍業界特有の「再販売価格維持制度」は、『出版社が書店での販売価格を定価に設定できる仕組み』です。これは「委託販売制度」と呼ばれる『一定期間売れなかった書籍を返品できる仕組み』と組み合わされ、現在の書籍流通の根幹を成しています。この制度は多様な書籍の流通を全国あまねく促進する一方で、書店が価格を決められない不自由や返品に伴う配送コストの増加・返品された本の廃棄処分といった問題が生じています。
しかしながら、この制度は出版社側の意思で停止することができます。その場合、書店ではその出版社の刊行物は買取になりますが、価格設定は自由になります。これにより、書籍とテーブルゲームの取扱い条件がほぼ同じになり、消費者にとっても選択の幅が広がるでしょう。
今後の展望
軽出版とテーブルゲーム市場は、クラウドファンディングやSNSを活用したマーケティングにより、独自のファン層を獲得する事例が増えています。デジタル技術の進化により、紙媒体と電子媒体、物理的なゲームとデジタルゲームの垣根も低くなっています。
また、業界全体での連携や制度改革により、新たなビジネスモデルの構築が起きようとしています。例えば、新機軸のマーケティングプラットフォームの開発や、統一的な流通システムの再構築、小売店の仕組みの改革などが考えられます。このことは以下で述べる書店に直接影響します。
つまり、この取り組みは、縮小傾向にある書店業界の再活性化につながる可能性があります。例えば、書店がテーブルゲームや関連グッズを取り扱うことで、新たな顧客層を獲得し、来店動機を高めることができます。また、大型店舗では、イベントスペースを設けてコミュニティ形成の場を提供するなどの付加価値を創出する方向性もあります。それらの場合は、本を売る専業の店「書店」という言葉の枠からは脱出することになるでしょう。
まとめ
出版とゲームは、多くの共通点を持ちながら、それぞれの市場で独自の進化を遂げてきました。そうしたなか、技術の進歩とビジネス環境の変化により、個人や小規模な事業者でも高品質なコンテンツを提供できる時代になったことも手伝い、二種類のビジネスが共に歩む道が見えてきたように思います。これは、消費者にとってもメリットがあることと言えます。
今後は、物流や法制度での課題を克服し、ビジネスの共通化・レゾナンスに向けての新たな可能性に期待しましょう。業界全体での協力と革新が、さらなる成長の鍵になるはずです。変化を恐れず、新技術や弾力的なビジネスモデルを採用することで、個人・中小事業者、出版業界・ゲーム業界が、ともに手を取り合い、より豊かな未来を築くことができますように。

