見出し画像

ストーブ



─────────

【1】大学受験


 1982年(昭和五十七年)春。
その年、私は国立の宇都宮大学に現役合格した。
大学受験は簡単ではなかった。


【2】母の金切り声


試験日の僅か一週間前にこんな事件があった。
私の部屋は二階にあって、部屋の戸を閉めて勉強をしていた。
その時、一階にいる母の声が聞こえた。

「お父さん、こんな所にストーブ置いたって、あの子の部屋のドア閉まっているじゃない!!」

言われた父は、いたたまれなくなって、母に暴力。
騒ぎを聞きつけた私は階段まで出て、

「喧嘩やめろよ!」

と怒鳴った。

【3】矛先が私に


すると父の怒りの矛先が私に向かってきて、

「そもそも、お前が部屋のドアを閉めっぱなしにしているのが悪いんじゃねーか!!」

いきさつはこうだ。
父は、二階の部屋で勉強している私が寒かろうと思って、石油ストーブを階段の下に置いた。
暖かい空気が二階に上がるようにと思ったらしい。
しかし、ストーブを置いたことを私に知らせるのを忘れていた。
何も知らない私は部屋のドアを閉め切ったままだった。


【4】父の優しさ


父は、優しい行動を知らせるのが照れくさかったのかも知れない。
ところが、階段の下にストーブが置いてあるのを見つけた母は、
父の優しさを理解しなかった。
いや半分は解っていたのだが、金切り声をあげて、父を責めたのである。
その発言からも解るように、母は父の優しい行動を解っていたに違いない。

【5】母の金切り声


ところが出た言葉は、

「お父さん、こんな所にストーブ置いたって、あの子の部屋のドア閉まっているじゃない!!」

いきなり責められた父は、堪えかねて母に暴力を振るった。
でも、これは母が悪いのだと思った。
父は、二階の部屋で勉強している私が寒かろうと思った。
石油ストーブを階段の下に置き、暖かい空気が二階に上がるようにと優しさを示した。
そのことが理解出来るのなら、
「父の優しさを無駄にしない」
ためにも、二階の私の部屋に来てそっとドアを開けるなどの行動が出来たはずだ。
父の優しさが半分は解っていたにも拘らず、いきなりの金切り声で父を責めた。
父の優しい行動を母は理解してもいいはずなのにいきなりの金切り声をあげて父を責めた。
自分の優しさから出た行動を金切り声で否定された父は、母を殴った。
母の金切り声が父の優しさを踏みにじり、父の良い人間性を変えてしまう。
母など殴り殺されてしまえばいいと思った。

【6】父は二重に傷ついた


 この事件は、母への恨みとなって残っている。
父は私を思い遣ってストーブを向けてくれた。
結果的に、その思いは無駄になったわけだが、それを母のように言い捨ててしまうのは、あまりにも父がかわいそうだった。
そして行き場のなくなった父は、

「なんだと! そもそもおまえが悪いんじゃないか!」

と、当初思いやった相手であるはずの私に矛先を向けてしまった。
思いやったはずの相手に矛先を向けてしまったことで、父は二重に傷ついたと思う。



Please return to…
─────────




いいなと思ったら応援しよう!

もうひとつの《1リットルの涙》 よろしければ、サポートをお願いいたします。