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恋はペンタゴン 第2話 逃走と塊

まさきの頭の中は、フル回転のトレーディングフロア並みにカオスだった。

目の前に立つ「たまゆな」ことガチムチニキの圧倒的存在感。

花束を握る手は、まさきの握力の3倍はありそう。笑顔は爽やかだが、その背後には「これが恋!恋はペンタゴン!」と言わんばかりのオーラが漂う。ペンタゴンてなんだ。

「まさきさん? 大丈夫ですか? 顔、ちょっと青いっすよ」  
たまゆなが心配そうに身を乗り出す。不意の動きに、テーブルがギシッと鳴った気がした。

「は、ははっ、大丈夫! ちょっと、えっと…お花摘みに!」  


まさきは無理やり笑顔を貼り付け、椅子を引いて立ち上がる。お花摘みなんて表現、古風で恥ずかしいけど致し方なし。このままだとあの花束で、俺が摘まれてしまう。そんな気がして、トイレに行くふりして逃走。
このままじゃ心のポートフォリオがクラッシュする!俺の大事なリソースが!

カフェの裏口から滑り込むように外へ。カフェより体感温度が暑い外が、こんなに心地よく感じるなんて。

表参道の雑踏に紛れながら、Xを立ち上げる。「ウサギのイラストアイコンはダメだ…やられた。

可愛い名前でも、ガチムチの可能性が…!ガチムチの中でも、多分一流のガチムチだ。まさきは自分も身体を鍛える身として、あの肉体には敬意を感じた。出会う場所が24時間ジムなら合トレしたかったな。そんな思いが頭をよぎったりもした。そのくらい、一瞬のインパクトがすごかった。ディープインパクトの末脚みたいだった。

まさきは学習した。
次はもっと慎重にいこう。すぐ会いたいなんて言わない。イラストアイコンは危険、別人というか別カテゴリーが紛れてる可能性がある。
次は実写アイコン、かつ、bioで、品性を確認だ。文系っぽい繊細な言い回しができる人。文章にはひとがらが出るから。

タイムラインをスクロール中、目に留まったのは「まり」さん(@mari_essay)。
プロフィール画像は、ふわっとした毛並みのウサギ(実写!)。bioにはこうある。  

「明確化しすぎない言葉を大切にしています。140文字のエッセイスト。日常の小さな光を綴ります。」  


140文字に縛っていて、制約があるからこそ短いながらも、詩のような言葉選び。

こ、これは…!
絶対に知的な美女だ。

まさきの中で、ショートカットの文系女子がカフェでエッセイを書くイメージが膨らむ。
よし、DMだ。すぐ会わないよ、俺からは誘わないよ、ただ、盛り上がったり誘われたら仕方がないよね。というポーズで。

@masaki_fin
「まりさん、はじめまして!
140文字エッセイの言葉選び、めっちゃ素敵ですね。よかったら、文章のコツとかお話ししたいな。カフェでお会いしません?」
指が勝手に誘ってて、我ながら嫌になるがこれも恋愛マニュアルに書いた相手に対する俺なりのマナー、

返信は驚くほど早く、丁寧な文面で届いた。  


「まさきさん、ありがとうございます。140文字エッセイを褒めていただき嬉しいです。作品を大切にしているので。

ぜひお話ししたいです!

近くですし広尾のカフェはどうでしょう?」  

よし、決まった! 今度こそ、理想の出会いだ。まさきは悠斗に「叔父さん、ちょっと美女と会ってくるわ」とウインクし、週末の広尾へ向かった。悠斗はまたか、と少し呆れ顔だった。傍目に見ても意思疎通がよく取れたいい笑顔だ。こうみえてまさきの土日は全て悠斗にフルベットしているのだ。



広尾のカフェは、ガラス張りのモダンな空間。まさきは少し早めに到着し、窓際の席でアイスラテ(またか)を注文。

Xでまりさんの最新ポストをチェックする。「朝の光は、言葉にならない優しさで心を撫でる。」

うん、この感じは間違いなく美女。

ショートカットの知的なエッセイスト、確定!
広末さんかな、広瀬アリスちゃんかな。内田有紀さんかな。

視線を上げると、入口にショートヘアの小柄な人物が。

白いブラウスに、ナチュラルなリネンのパンツ。背中から漂う雰囲気は、まさにまさきの想像通り。よし、いける!
まさきは立ち上がり、ボディタッチもマニュアルに書いてあったからね!と、軽く肩を叩いた。

「まりさん? はじめまして、まさきです!」

その人物が振り返る。
ショートヘア、確かに可愛らしい顔立ち。でも、どこか…違う。華奢な体躯から放たれる声は、思いのほか低く、力強い。

「初めまして、まりこと塊(カイ、カタマリ)です!

まさきさんに塊をぶち込めるの楽しみでした、

よろしくお願いします!」

塊(!?)はニコッと笑い、がっしりした握手を求めてきた。スポーツしてきた人の手だ。

まさきの脳内で、トレーディングシステムが再びエラーを吐く。

ぶち込む!? 何を!? どこに?!
初対面で何言っちゃってんの?!
ウサギの実写アイコンでも、男!? しかも、この「塊」って名前、なんかやたらパワーワードだぞ!

「え、っと…まり、さん…ですよね?」 まさきは一縷の希望を込めて確認する。

「うん、カタ マリ カタヤマ マリオ、なんで。

友達は塊って呼ぶよ。まさきさんのnote、めっちゃパンチ効いてて好きっす! あの『女心を掴む法則』、俺も参考にして女友達にアドバイスしたら感謝されたんだよね!」

塊は無邪気に笑う。その笑顔は確かに可愛い。だが、まさきの心は再び逃走モードに突入しかけていた。


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