恋はペンタゴン 最終話:博多の夜とペンタゴン
恋はペンタゴン
最終話:博多の夜とペンタゴン
博多の街は、祇園山笠の熱気が冷めやらぬ7月の七夕に、提灯の光と祭りの余韻で彩られていた。まさきは、ANA機から降り立ったあの夕方から、dannyとの出会いに心を躍らせていた。
博多の七夕の夜は、祇園山笠の余韻が街を包む。
提灯の橙が路地を染め、遠くで山笠の太鼓が響き合い、熱気と笑い声が湿った空気に溶ける。
屋台の焼き鳥の煙が漂い、ビールの泡と祭り客のざわめきが絡む。
短冊が笹に揺れ、星空の下、誰もが少し浮ついた心で夜を泳ぐ。
恋も友情も、湯気のようにふわっと立ち上り、博多の夜は優しく騒がしく揺れる。
この夜の、この気持ちに名前をつけるとするなら、ちょっと、一目惚れに近いような。
もちろん、見た目だけじゃなく、仕事ぶりからも伝わる誠実さ、みたいなものも含めて。
リムレスメガネにサーフカールの髪、映画賞の俳優を思わせる中性的な魅力。
dannyのAIイラストのセンスと、軽やかな「センスないっすね」の一言が、まさきのプライドと心を同時に揺さぶっていた。
だが、どこかで、塊(かい)の紙ナプキンの詩や、たまゆなのガチムチ衝撃が、頭の片隅でチラつく。
「いや、今はdannyさんだ。仕事と…ちょっとだけ、そう、新しい恋の予感!俺、単純?いや、美しいものが好きなだけ。」
東京の片隅、塊の嫌な予感
一方、東京の小さなアパートで、塊はソファに沈み、スマホを握りしめていた。
【ゾクッ】
突然の悪寒に、大袈裟に身震いする。
「なんか、ヤな予感…。」
塊はXを開き、まさきの最新ポストをチェックする。
@masaki_fin
「通りもんは日本を代表する銘菓、だいすき!😋 博多、最高!」
通りもん? 博多!?
塊の心がざわつく。
まさきの能天気丸出し、呑気な投稿に、なぜか胸の奥が締め付けられる。
代々木の焼き鳥屋で握った手の感触、紙ナプキンに綴った詩――「隣に君の笑顔があるせい」。
あの夜、まさきの鈍感さに苛立ちながらも、どこかで感じた希望。
あの笑顔を、誰かに奪われる気がした。
『...会いたいな。』
その気持ちは、抑えきれなかった。
塊は勢いで航空券を検索。
七夕の夜、天の川の下を飛ぶ飛行機は、奇跡的に福岡行きの便に空席があるそうだ。
画面を見た瞬間、購入ボタンを押していた。
行かない理由はなかった。
「いくか。」
塊の恋は、ジェットエンジンの轟音とともに空を飛んだ。
隣の席には、なぜか黒タンクトップのガチムチ男――そう、たまゆなだ。
なんと怖い偶然、
神様の悪戯。
「初めまして。
ごめん、今チラッとXのID見えた。
君、塊だろ?
まさきさんのX、見た?
お前もまさきさんに会うんだろ? 博多に駆けつけるんだろ?
俺もだ。」
たまゆながニカッと笑う。
胸筋がタンクトップをピチピチにさせる。7月の暑さに胸板の厚さがリンクしてる。
塊はため息をつきつつ、なぜか心強い気持ちになる。
このガチムチ、ライバルにしては、意外と悪い奴じゃない…かも?
博多の名店、疼く心
博多のカフェでの打ち合わせを終えたまさきとdannyは、すっかり意気投合していた。
dannyの洗練された雰囲気――中性的な顔立ち、サーフカールの髪、リムレスメガネの奥の鋭い目。まさきは何度も見惚れている自分に気づき、内心で動揺する。
『いや、仕事だろ! でも…この人、仕事ぶりも思想も、ビジュも...めっちゃいいな…。』
「dannyさん、博多ならではの美味しい店、知ってる? 水炊きとか、めっちゃ食べたいんだけど。」
まさきは軽いノリでリクエスト。
dannyがクスクスと笑う。
「水炊き、いいね。伝統の美しさを感じる名店、連れてくよ。…締めの屋台ラーメンも、イケるよ。もちろん、そのあとも。」
『そのあとも!?』
まさきの心が疼く。dannyの金属音のような声と、意味深な一言に、恋愛マニュアルの「法則12:曖昧な言葉で心を揺さぶる」が発動している気がした。
『いや、待て、これは仕事の延長だよな!?』
だが、dannyの視線に、胸の奥がドクドクと高鳴る。
二人は博多の路地裏にある、老舗の水炊き店へ。白濁のスープがグツグツと煮える鍋を囲み、木の 美しい座敷席に座る。
店の壁には七夕の飾りが揺れ、祭りの喧騒が遠く聞こえる。
dannyがスープを椀に取り分け、まさきに差し出す。
博多の水炊きは、琥珀色のスープが鍋で静かに揺れる一品だ。
鶏の旨味が溶け出し、ほのかな甘みとコクが舌を包む。
白濁のスープは、じんわり温かく、口に含むと骨の髄まで染みるような滋味が広がる。
キャベツのシャキッとした甘さ、ねぎの清涼感がアクセント。
ポン酢の酸味が加われば、味は軽やかに跳ね、七夕の夜の浮ついた空気と響き合う。スープ一口ごとに、博多の温もりが心に灯る。七夕の夜に、綺麗な人と綺麗な水炊き。
贅沢だな。
まさきはうっとりしていた。
白濁のスープがグツグツと煮える鍋を見つめた。博多の水炊きはこれで3回目。
いつもなら、鶏の旨味が染みたスープにキャベツの甘さとポン酢のキレを楽しみつつ、頭の片隅で「次はnoteのネタにでもするか」と考えるところだ。我ながら裏方思考であり、少し冷めてる。
だが、今夜は違う。
dannyのサーフカールが提灯の光に揺れ、
リムレスメガネの奥の目がスープの湯気を映す。金属音のような声で「まさきさん、ほら、まずスープから」と笑うその仕草に、なぜか胸がドキリとする。『なんだ、この感じ…?』
まさきはスープを一口。
鶏の髄から滲むコクが、じんわりと舌を包み、いつもより深く心に沁みる。キャベツのシャキッとした甘さ、ねぎの清涼感、ポン酢の酸味が軽やかに調和し、まるで祭りの博多の夜のふわふわした空気と共鳴するようだ。
「美味い…いつもより、なんか…特別だな。」
まさきが呟くと、dannyがクスクスと笑う。「まさきさんの食べっぷり、めっちゃいいね。いつも、っていうのが少し気になるけど。
俺と一緒に食べると、味も変わるでしょ?」
その言葉に、まさきの心がまた疼く。
『ただの水炊きなのに、なんでこんなに…?』
dannyの視線と、湯気の向こうの微笑みが、味に新たな層を重ねる。塊の詩やたまゆなの花束を思い出しつつ、まさきは気づく。この夜の水炊きは、dannyと一緒だから、特別なのだ。
「まさきさんのnote、ほんと面白いよ。…でもさ、恋愛マニュアル書いてるのに、リアルな恋はどうなの?」
dannyの目が、探るように、鋭く、そして、いたずらっぽく光る。
まさきはスープを飲むふりで誤魔化す。
「はは、俺? 恋は…まぁ、女の子が好きでさ。仕事優先だし、最近は毎週公園に連れてけ連れてけーっていう、悠斗(甥っ子)の世話で忙しくて…。」
だが、言葉の途中で、塊の詩が頭をよぎる。
『淫美に感じるのは、隣に君の笑顔があるせい』
そして、たまゆなの花束、dannyのサーフカール。
なんで…みんなのことが、こんなに気になるんだ?
乱入とラブレター
その瞬間、座敷の引き戸がガラリと開く。
「ちょっと待った!」
時代錯誤のネルトンなセリフとともに現れたのは、
塊と――黒タンクトップのたまゆな!
店の空気が一瞬で変わる。
まさきは箸を落としそうになり、dannyはメガネをクイッと上げてニヤリと笑う。
「塊!? たまゆな!? な、なんでここに!?」
まさきの声が裏返る。
塊は手に小さな封筒を握り、息を整えながらまさきを見つめる。
「Xで博多って見たから…来ちゃった。…これ、渡したくて。」
封筒を差し出す塊。その目は、真剣そのものだ。たまゆなは横でニカッと笑い、胸筋をピクピクさせる。
「俺もまさきさんに会いたかったんだよ! んで、塊と飛行機で一緒、なんなら隣になってさ。
コレ?
追いかける運命じゃね?」
dannyがクスクスと笑い、座敷に座る。
「へえ、急に賑やかになってきたね。まさきさん、モテモテじゃん。
ま、負ける気はしないけど」
まさきは頭を抱えたい気分だ。
『なんでこうなる!? 心のポートフォリオ、完全にオーバーロードだ!』
塊が封筒をまさきに手渡す。
「ラブレター。140文字だけど。紙も色も、全部まさきさんを想って選んだんだ。…いいの? この場で読んで。」
まさきはゴクリと唾を飲み、封筒を開ける。綺麗な朱色の便箋に、丁寧な文字で書かれた言葉。

たった140文字なのに、胸に刺さる。
というか、俺の本質に、ぐっと近づいてくる。おかしいな、おちゃらけて、本音を見せない、みんな俺の手のひらで踊ってくれよ、俺も君の手のひらで踊るから。
そんな見せ方をしていたはずなのに、塊にはお見通しなのか。
まさきの目が、じんわりと潤む。
おちゃらけた金融コンサルのペルソナが、初めて剥がれた瞬間だった。
塊の真剣な視線、
たまゆなの花束、
dannyのサーフカール
すべてが、恋愛マニュアルの「法則36」を超える何かだった。
「俺…女の子しか恋の対象じゃないって、思ってた。
でも、違う。俺
人間が好きなんだ。」
まさきは声を震わせ、座敷にいる三人を見つめる。
「一人一人、もう少し…ゆっくり、仲良くなりたい。みんな魅力的です。
いいかな? ワガママで、ごめん。」
塊の目がキラリと光り、たまゆなが「マジか、熱いな!」と笑い、dannyがメガネを外して微笑む。
「まさきさん、ワガママ全然OK。
俺、攻めるの好きだし。」
dannyの言葉に、
たまゆなが「俺だって負けねえぞ!」と胸筋を鳴らし、塊が「まさきさんは…僕の!」と頬を赤らめる。
三人――いや、四人?――の笑い声が、座敷を満たす。
水炊きの湯気が立ち上り、七夕の夜は美しく溶けていく。
水炊きの後、一行は那珂川沿いの屋台へ。
博多の屋台、那珂川沿いの赤い提灯の下で供される博多ラーメンは、夜の祭りの熱気と溶け合う一品だ。
これも博多に来たら堪能したいとおもっていたご当地グルメだ。
豚骨スープは乳白色に輝き、深いコクとほのかな甘みが舌を包む。
濃厚なのに後味は軽やか、骨の髄から滲む旨味が、水炊きを食べ、ほろ酔いの身体に、じんわりと体に染みる。
細麺はスープを絡め、歯切れの良いコシがリズムを刻む。うん、心地いい。耳から満足する。
青ねぎのシャープな香り、キクラゲのコリッとした食感、チャーシューのとろける脂が調和し、七夕の浮ついた空気に彩りを添える。
一啜りごとに、博多の夜の喧騒と星空が口の中で踊るような、生き生きとした味わいだ。
赤い提灯の下、豚骨ラーメンの濃厚な香りが漂う。まさきは麺をすする。
その間に、塊はスープの濃度を濃厚に文系らしく語り、たまゆなと議論。
dannyはタブレットでAIでその場で4人の似顔絵ををスケッチ。「たまゆなの胸筋、これ、画面壊れるよ。クレジットの消費半端ない」と笑う。
まさきは3人を見つめる。
初対面な感じがしない。それはそう、
みんなまさきに好意を抱くという共通点があるのだから。
この瞬間…必要だったんだ。
七夕の星空の下、短冊が揺れる。
恋は計算できない。
塊の詩、たまゆなの勢い、dannyの機知。それがまさきの心に角を作る。
友情を超えた愛情が、魅力的な人間同士なら生まれる。
そんな解(かい)を、博多の夜はそっと残して。

エピローグ:ペンタゴンの真実
数日後、まさきは東京のマンションで、悠斗とSwitchをしながら笑っていた。
「叔父さん、最近なんか楽しそうだね!」
悠斗の言葉に、まさきはニヤリと笑う。
最近仕事もnoteもますます絶好調だ。
Xを開くと、塊、たまゆな、dannyからのDMが並ぶ。
え? 四人?
四角だから、ペンタゴンにならないって?
まさきは画面を閉じ、窓の外の星空を見上げる。
「俺のnote読んでくれた貴方の心に、
もし角や頂点ができていたら、
それを合わせて、恋はペンタゴン、てこと。」
恋は、計算できない。五角形も、四角形も、形なんて関係ない。
ただ、人間と人間の、心が動く瞬間があるだけだ。
fin
