Nameless第45話 創作大賞と終わらない恋
桜子(西川桜子)は横浜の自宅で、デスクに向かい、創作大賞に向けて小説の結末を描こうとしていた。テレワークの日の昼休み。
ご飯は軽く済ませて創作に打ち込む幸せな時間だ。
現在の時刻は正午を少し過ぎたばかりで、窓から差し込む柔らかな光が部屋を照らしていた。
シングルマザーで元ラジオキャスターの経験を持つnote作家である桜子は、よしたか(喜多川吉隆)との日常を綴った作品を仕上げようとしていた。しかし、ペンは進まず、紙の上には珍しく途切れた言葉が散らばっているだけだった。
その理由は、彼女の心に浮かぶいつものifだった。
この作品を描き終えたら、よしたかとの関係が終わってしまうのではないか。
創作が終わりを迎えると、二人の絆も終わりを迎えるのではないか。
そんな不安が頭をよぎり、桜子の筆が止まる。
よしたかは関内に住む出版社社長で、編集や翻訳に世界を駆け回り情熱を注ぐ彼との愛は、彼女の創作の源だった。
だが、その源が枯れることを恐れ、彼女はかききることためらっていた。
自覚がある。
彼女は、始める事は得意でも、終わらせるのが苦手だった。
苦手、で逃げたくないな。
意を決して、桜子はよしたかに電話をかけた。
「...電話でごめんね。
創作大賞の結末を描こうとしてるけど、筆が進まないの。
この作品が終わったら、あなたとの関係も終わるんじゃないかって、いつもみたいにifしちゃって…。」
声とスマホを持つ手少し震えていた。
よしたかはすぐに反応し、「ちょっと待って、コーヒーを淹れるから」と言い、しばらくして穏やかな声で続けた。
「桜子、結論から言うと、創作大賞が終わっても恋は終わらない。
今君が取り組んでるのは創作、大賞だよね。
現実を上手く絡めてるから、リンクしてしまうと怖くなる気持ちは分かるけど。
ただ、僕だって、ネタに困るような人生を送るつもりはないから、どんどん、そう、大賞期間が終わったら、第二章を書いてほしい。
君の物語は、僕と一緒にまだまだ続いていくよ。
ま、年齢からして、僕が先にストーリーからいなくなる可能性が高いけどね」
最後の天邪鬼から、コーヒーの香りが電話越しにも伝わるようで、桜子の心はほっとした。
手元に目をやると、Tiffanyロック〜永遠の愛の鍵〜が変わらず輝いていた。よしたかの言葉に励まされ、彼女は再びペンを手に取った。結末を描く勇気が、少しずつ湧いてくるのを感じていた。
