第6話:新たなDMとペンタゴンの角 恋はペンタゴン
まさきのマンションは、夜の静寂に包まれていた。甥っ子の悠斗は妹に預け、部屋にはノートPCの画面だけが青白く光る。使いやすさはレッツノートだよな、と呟く。
代々木の焼き鳥屋での一夜――塊(かい)の真剣な視線、紙ナプキンに綴られた詩、握られた手の熱。
好きな人にしかこの店教えないんですよ。
あの言葉が、頭の中でリフレインする。まさきはソファに沈み込み、カルディで仕入れたコーヒーを一口。 この時間はもちろん、デカフェだ。
「いやいや、落ち着け。
俺は可愛い女の子が好きなんだ。
女の子の経験人数300人だよ??
男にドキドキとか、あり得ない…よな?」
ポケットから取り出した紙ナプキンを広げ、塊の詩をもう一度読む。その場で書いたとは思えない筆致。たくさん練習したんだろうな。小さな硯で墨をする小さな塊の様子を思い浮かべて、まさきはほっこりする感覚があった。
淫美に感じるのは、隣に君の笑顔があるせい
文字を追うだけで、心臓がまたドクンと跳ねる。それだけ鮮烈な夜だった。
くそ、なんでこんなに気になるんだ!
「ダメだ、今は仕事だ。恋愛攻略noterだろ!」
まさきは自分を奮い立たせ、PCに向かう。
次の恋愛マニュアルの企画を進めるため、挿絵を担当してくれるAI画家を探していた。
条件は明確だ。クオリティが高く、目を引くAI画像が作れる画家、副業であり、時間がないからリテイクがすぐできること。
そして、できれば「気軽に会えない距離の人」。
自業自得とはいえもうこれ以上、心のポートフォリオがクラッシュするのはゴメンだ。
たまゆなのガチムチ衝撃、
塊の詩の爆弾。
もう、リアルな出会いはリスクが高すぎる。都内はまずい。俺の指、俺の脳とリンクしてないからすぐ『会えませんか?』って打っちゃうんだもん。
Xをスクロールしていると、ひとつの投稿に目が留まる。@danny_aiartというアカウントが投稿した「人妻」シリーズのイラスト。
しっとりとした色気、柔らかなタッチ、Tシャツ越しの柔らかそうな胸元。自然な服のシワ。
なのにどこか挑発的な目線。
まさきの心が一瞬で掴まれる。
「え、うそ、この画像俺のど真ん中なんですけど?」
思わず呟き、作家、dannyさんのbioを覗く。
そこにはこう書かれていた。
「生きてる漫画を作ってます。AI漫画家。日常の美に生(性)を込めて切り取るのが好き。九州在住」
AI漫画家! しかもこのセンス…絶対美女だろ!
まさきの脳内で、ロングヘアの知的なイラストレーター、アーティストがイメージされる。きっと美大を出たあと、デザイナーしながら最先端のAIにも取り組む美にアグレッシブな人だろう。
今度こそ、間違いない。仕事の依頼だし、遠隔なら安全だ!
DMを打つ手に、喜びが滲む。 DM大好き。生きがい。まさきはニヤニヤする口元を押さえながら指を走らせる。
@masaki_fin
「はじめまして、まさきです。
dannyさんの人妻シリーズ、めっちゃセクシーですね! 実はnoteで恋愛マニュアル書いてて、挿絵をお願いしたくて。
可能なら僕の顔をイラストのアイコンにしてもらえないかな?
謝礼ちゃんと支払います!
参考に、セルフィーつけますね。」
まさきは鏡の前でさっと髪を整え、テーラーで仕立てたジャケットを羽織ってセルフィーを撮影。
外銀仕込みのシャープな顔立ちと、さりげないロレックスの輝きが映える一枚だ。カールした黒髪が幼さと精悍さをミックスさせていた。
これなら仕事のプロフィールとしてもバッチリだろ。
送信ボタンを押し、満足げにコーヒーをもう一口。
だが、まさきは知らなかった。このDMが、新たなペンタゴンの頂点を描き始めることを。
翌朝、DMを受信した通知音で目が覚める。
dannyさんからの返信だ。
@danny_aiart
「まさきさん、はじめまして! 人妻シリーズ気に入ってくれて嬉しいです😊
えー!びっくり!写真ありがとうございます。
まさきさんて、めっちゃカッコいいですね!
背も高そう。背が高い人良いですよね。私も高い方だから高い人見ると、思わず目で追いかけちゃいます。
ぜひイラストアイコンを描かせてください。
どんな雰囲気でいきます? セクシー系? クール系? それとも…もっと大胆な感じ?😉 打ち合わせ、Zoomでもいいですか?」
Zoom!?まさきの心が一瞬揺れる。
いや、遠隔なら大丈夫だろ。
この感じ、しごでき美女の予感しかない!
だが、どこかで塊の詩がチラつき、胸の奥に小さなざわめきが生まれる。
この新たな出会いが、まさきの心のポートフォリオをどう揺さぶるのか。
彼自身、ペンタゴンという運命の大きな歯車な中にいることにまだ気づいていなかった。
