【全5回】精神疾患者と高齢者と福祉の星間飛行——「無理するな」の先に、道はあるか③60歳という医療・福祉・就労のハブ役の可能性
第3回:60歳という医療・福祉・就労のハブ役の可能性
前回は、
なぜ接続が本人任せになるのか
という構造を見た。
医療
福祉
就労
これらは本来つながっているべきだが、
現実には分断されている。
そしてその隙間を、
本人が埋めることになっている
ここで考えたいのは、
その隙間を、誰が埋めるのか
という問いだ。
まず最初に浮かぶのは、
専門職を増やす
という発想かもしれない。
確かにそれは重要だ。
しかし同時に、
人材不足
予算制約
育成コスト
といった現実もある。
そこで少し視点を変える。
すべてを専門職で埋める必要はあるのか
ここで出てくるのが、
「軽いハブ」という考え方だ。
■ ハブとは何か
ここでいうハブとは、
判断しない
治療しない
責任を背負わない
その代わりに、
つなぐ
役割を持つ人だ。
例えば、
話を聞く
どこに行けばいいかを整理する
最初の一歩に同行する
それだけで、
接続の難易度は大きく下がる
重要なのは、
「解決する人」ではないこと
だ。
■ なぜ「60歳前後」なのか
ここで一つの仮説として、
60歳前後の人材
に注目してみる。
この層は、
社会人経験がある
組織や仕事の感覚を知っている
一定の距離感を持てる
そして多くの場合、
第一線の役割は終えている
しかし社会との関わりは持ちたい
つまり、
「役割」と「余白」を同時に持っている層
でもある。
この人たちが、
評価せず
急がせず
押し付けず
ただ、
話を聞き、つなぐ
役割を担えたとしたらどうなるか。
■ 信頼の翻訳装置
このモデルの面白いところは、
両側に対して“信頼”が成立しやすい
点にある。
● 利用者側から見ると
同世代の競争相手ではない
評価者でもない
→ 話しやすい
● 機関側から見ると
社会人としての基礎がある
常識的な判断が期待できる
→ 安心して受け入れられる
つまり、
“文化の違い”をやわらかく翻訳する存在
になる。
■ さらにもう一つの可能性
ここで話はもう一段進む。
ただの「相談役」ではなく、
語りの場
を作るという発想だ。
高齢者が自分の人生を語る
参加者がそれを聞く
ときに逆に語る
そこでは、
正解は出ない
評価もされない
結論も急がない
ただ、
語ることと、聞くこと
が行われる。
■ この場で起きること
このような場は、
一見すると「何もしていない」ように見える。
しかし実際には、
自分の位置を再定義する作業
が起きている。
今は動けない自分
これまでの自分
これからどう関わるか
それを、
他者の人生の文脈の中で見直す
これは、
医療でもなく
就労支援でもない
その“あいだ”にある層
だ。
■ 逆方向の流れも生まれる
さらに興味深いのは、
一方向ではないこと
だ。
例えば、
求職者や通院者が
高齢者にスマホやPCを教える
このとき、
支援される側
支援する側
という関係が固定されない。
全員が「与える側」と「受け取る側」を持つ
この構造は、
自己効力感の回復にとって非常に重要だ。
■ このモデルの本質
ここまでをまとめると、
このアイデアの本質は、
専門職を増やすことではなく、接続を増やすこと
にある。
そしてそれは、
高度な技術
大きな予算
がなくても、
設計次第で成立する領域
でもある。
■ ただし、重要な前提
このモデルには前提がある。
それは、
境界線を守ること
だ。
判断しない
背負わない
無理をしない
ここが崩れると、
善意が負担になる
役割が曖昧になる
結果として、続かなくなる。
■ 小さく始めるということ
このような仕組みは、
いきなり大きく作る必要はない。
週1回
数人
小さな場所
それでも十分に意味がある。
むしろ、
小さい方が壊れにくい
■ まとめ
接続の不足は構造的な問題
すべてを専門職で埋める必要はない
「軽いハブ」という役割は現実的に成立する
60歳前後の層はその候補になり得る
語りの場は「意味の再構築」を支える
次回は、
「小さなノードと、ゆるい接続」
という構造について考える。
一つの正解の場ではなく、
複数の場がつながる形
を見ていく。
