【全5回】精神疾患者と高齢者と福祉の星間飛行——「無理するな」の先に、道はあるか⑤小さく、長く、誠実に
第5回:小さく、長く、誠実に
ここまでで見てきたのは、
「無理するな」が回路を閉じる構造
接続が本人任せになる問題
「軽いハブ」という役割
小さなノードと、そのゆるい接続
だった。
最終回では、少しだけ視点を引いて、
この構造をどこから考えるべきかを整理したい。
■ まず、前提を置く
福祉や医療の話になると、
どうしても「できるかどうか」から議論が始まる。
予算が足りない
人材が足りない
現実的ではない
これらは、どれも正しい。
ただ、その前に一つだけ、
置いておきたい前提がある。
人として扱うという誠実さ
これは、
実現可能かどうか
効率的かどうか
よりも前にあるものだ。
言い換えれば、
「そうあるべきかどうか」
という基準である。
■ 誠実さはHowの前にある
予算や制度は重要だ。
しかしそれは、
How(どうやるか)
の話である。
一方で、
人として扱うかどうか
可能性を閉じないかどうか
は、
前提(アプリオリ)
の話だ。
この順序が逆転すると、
できない理由を並べる
可能性を閉じる
方向に進みやすくなる。
だからこそ、
まず誠実さを置く
その上で、
では何ができるのかを考える
■ 北欧の話をする前に
福祉の文脈では、よく北欧が例に出る。
制度が整っている
支援が手厚い
社会的な安心感がある
確かに参考になる。
しかし、
人口
予算
社会構造
これらが違う以上、
そのまま持ってくることはできない
では、何を持ってくるのか。
制度ではなく、
姿勢
だと思う。
■ 小さく、長くという設計
ここで、ようやく現実の話になる。
誠実さを前提に置いたとき、
そのまま大規模な制度を作るのは難しい。
だからこそ、
小さく始める
週に1回
数人
小さな場所
これでも十分に意味がある。
そしてもう一つ、
長く続ける
行ける場所がある
つながれる人がいる
また戻れる
この継続性が、
安心感の基盤になる。
ここで重要なのは、
「小さい」は妥協ではない
ということだ。
できないから小さいのではなく
誠実さを保つために小さい
この違いは大きい。
■ 不完全でも動かす
もう一つ、忘れてはいけないことがある。
完璧を目指さない
もっと良くできる
まだ足りない
そう考え始めると、
始まらない
必要なのは、
不完全でも動かすこと
それが、
次の改善
次の接続
につながる。
■ 国家という単位で見たとき
ここで視点を少し広げる。
精神科に通院している人の中には、
「接続できていないだけの人」
もいる。
もしその接続が少しでも改善されれば、
本人が少し楽になる
家族の負担が軽くなる
社会との関係が戻る
その結果として、
就労の機会損失が減る
人手不足の一部が緩和される
その量は大きくないかもしれない。
しかし、
ゼロではない
そして何より、
これは効率の問題だけではなく、
人としての扱いの問題
でもある。
■ 働くことの位置
この連載の中で繰り返してきたが、
働くことはゴールではない。
ただし、
重要な接続点ではある
強制するものでもなく
排除するものでもなく
「選べる状態にしておく」
それが、
最もバランスの取れた位置だと思う。
■ 星間飛行という比喩
ここで、最初のテーマに戻る。
一つひとつの場は、星
それらをつなぐ関係は、星座
移動できる可能性は、宇宙
この構造の中で、
人は固定される存在ではない。
移動できる存在
だ。
■ 締め
星は、最も暗い夜に、最も明るく輝く。
福祉も医療も高齢化も、今が暗い時代だと思うなら、
それは同時に、星が見えやすい時代でもある。
すべてのアイデアを出し尽くし、
できることをやり尽くした場所が、
本当のスタートラインなのかもしれない。
宇宙(そら)は無限に広がっている。
だからこそ、
星間飛行のためのロケットには、
あなたが乗るのだ。

