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日本初記録、ウスハジロミズナギドリ観察記録のウラ話

2020年5月17日に、青森県尻屋崎沖でウスハジロミズナギドリという鳥を観察しました。

カバー写真にもありますが、ウスハジロミズナギドリというのはこんな鳥。(2018/11/13)

この種類が、実は日本初記録で(!)、日本鳥学会誌に観察記録を投稿しました。↓

学会誌に投稿する観察記録とは

それぞれの雑誌が定める基準に合った、分布的に珍しい種の観察記録や、珍しい行動の記録について、それぞれの雑誌が定める書式に則って客観的に記述したものです。この記録をもとに、図鑑の記述や、日本鳥学会が定期的に発行する日本鳥類目録の更新が行われることもあります。

学術的な内容はどうしてもとっつきにくくなってしまうので、今回はこの鳥を観察した時の状況をざっくばらんに書いていきたいと思います。

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当時は新型コロナウイルス流行の最中で、海外を含め遠出は難しい状況でした。
それでも海鳥は見たいし、こんな時だからこそできる様な観察スタイルもあるのではないか…。そこで、居住地と同じ東北地方発着のフェリーで、徒歩乗船客数の少ない昼間の便ならば、感染拡大のリスクを抑えつつ、海鳥観察ができるのではと思い立ちました。そして、できる限り毎月、八戸苫小牧航路を往復するシルバーフェリーに乗船し、海鳥のデータを取ることにしたのです。

2020年5月17日、この日の天候は晴れ、風は穏やかで、寒すぎず暑すぎない爽やかな春の日といった様子でした。苫小牧港を9:30に出港したシルバーエイトの外部デッキで、夫氏とのんびり海鳥をカウントしていました。

5月ということで、北へ渡る途中のハイイロミズナギドリやハシボソミズナギドリが数羽から数十羽のまとまりでぱらぱらと飛んでいたり、ウトウやウミスズメが浮いていたり、ヒレアシシギ類の群れが飛んでいったり…幸せだな〜と思いながら眺めていた記憶があります。(せっかくなので、その時の写真をちょっとご紹介します。)

ハイイロミズナギドリの群れ(2020/5/16)
ハシボソミズナギドリ(2020/5/17)
カンムリウミスズメ(2020/5/17)
ハイイロヒレアシシギとアカエリヒレアシシギの群れ(2020/5/16)
トウゾクカモメ(2020/5/17)
コアホウドリ(2020/5/16)
クロアシアホウドリ(2020/5/16)
アホウドリ(2020/5/17)

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13:45に、船首のほうから全身暗色のミズナギドリが現れたのを、夫氏とほぼ同時に双眼鏡で捉えました。最初は遠方でその鳥の上面だけが見えており、二人で「ボソナギ?(ハシボソミズナギドリ?の略)」と発言。ミズナギドリ類というのは、風にのって羽ばたかずに上下しながら飛翔するソアリングという飛び方をします。その全身暗色の鳥がソアリングをして上昇し、下面が見えた時、翼下面に不明瞭ながらも白斑が見え、私はちょっとびっくりしながら「え?!ハジロミズナギドリ?!」と言ったのを覚えています。

発見時は、ハシボソミズナギドリのような華奢な印象を受けました。(2020/5/17 田野井・田野井, 日本鳥学会誌, 70(2): 205–209 (2021))
翼下面には、ハジロミズナギドリに似た白斑が見えました。(2020/5/17 田野井・田野井, 日本鳥学会誌, 70(2): 205–209 (2021))

なぜびっくりしたのかというと、第一印象がハシボソミズナギドリだったからです。私たちは、国内外で結構(狂気じみているくらいに)海鳥を観察していて、ハシボソミズナギドリもハジロミズナギドリもかなりの個体数を観察してきた自負があり、両種は双眼鏡で見る時点でかなり違う印象を受ける種であることが分かっていました。それなのに、この時見た全身暗色の鳥は、第一印象がハシボソミズナギドリ??で、翼下面にはハジロミズナギドリのような白斑があるのです。えー?この鳥絶対なんかおかしいよ…と思いました。

夫氏が何枚か写真を撮る間、その不思議な鳥は船首方向から船尾方向へと、だんだん離れながら飛び去って行きました。
観察していたのは体感20秒くらいだったでしょうか。鳥が見えなくなると、夫氏と顔を見合わせ、「今の鳥、なんだったんだろう???」と少し興奮しながら言い合いました。

全身暗色で翼下面に白斑のあるハジロミズナギドリみたいな配色、ハジロミズナギドリよりも華奢で小さい体や翼、この特徴を脳内図鑑で絞り込んでいくと、もうこの種しかいない…

ウスハジロミズナギドリです。

しかし、この種名を船上で言うのは勇気が必要でした。

なぜなら、ウスハジロミズナギドリは当時日本で記録の無い種で、これが日本初記録になる…のか?と中々信じられなかったからです。

この時の野帳には、ハジロ?(ハジロミズナギドリ?の略)とある。体型の細さや、翼下面の白斑が目立たなかったことが走り書きでメモされている。

そして帰宅後に、撮影した写真と、観察した行動、文献情報などを慎重に検討していき、日本初記録のウスハジロミズナギドリの観察記録として、日本鳥学会に投稿しました。

今回この様な素晴らしい発見の機会に恵まれたのは、なぜだったのでしょうか。

まず、地道にフェリーからの観察を続けたことです。5月の中旬というと、海鳥が渡る移動時期に当たり鳥の数は比較的多いですが、珍しい種類がそれほど現れやすい時期ではないため、大きな発見を期待してフェリーに乗る時期ではないでしょう。コロナ禍というきっかけもありましたが、地道に毎月フェリーに乗って記録を取ろうと思わなければ、この日に乗ることはなく、この発見にもつながらなかったと思います。

次に、日本で見られる基本的な種をたくさん見てきたことです。ミズナギドリ類やアホウドリ類、ウミツバメ類、ウミスズメ類などの日本で普通に見られる海鳥を、色々な条件でたくさんの数を時間をかけて観察してきた経験があったからこそ、今回の鳥が現れた時、いち早く違和感に気づくことができた様な気がします。

日本では渡りの時期に普通に見られるハシボソミズナギドリ(上面 2021/4/18)
最近は秋季を中心に日本で普通に見られるようになってきたハジロミズナギドリ(上面 2019/8/23)

最後に、前述の違和感ともつながるところですが、海外でも色々な種を見てきたことです。日本で珍しい種類は、海外では普通種という場合も多々あります。日本では観察の難しい種、未記録の種を、海外でたくさん見た経験は、今回のように何か新しいことを発見する大きな助けになると思います。実は、私たちは2018年にポリネシアの島々を訪れた際、たくさんのウスハジロミズナギドリを観察した経験がありました。その経験から、現地で今回の違和感に気づき、この種かも?と思いいたることができ、多くの画像から比較することもできました。

ポリネシア東部で観察したウスハジロミズナギドリ(上面 2018/11/13)

日本初記録の種を見つけるなんて、本当に中々ない、ありがたい機会でした。そしてその機会に恵まれたのは、地道な観察の積み重ねと、国内外を飛び回り色々な海鳥を見てきた経験のお陰だったかも…というお話でした。

珍しい種の発見や、珍しい行動の発見など、バードウォッチングをしている人々には等しくチャンスがあると思います。ぜひそんな素晴らしい発見をされたら、日本鳥学会誌や山階鳥類学雑誌、Strixなどの学術誌への投稿を視野に入れてみてください!それは、あなたの素晴らしい発見を客観的に検証し、感動を多くの人に広め、後世へ伝えていくのに一番の手段となり得るかもしれません。

最後に、繁殖地でのウスハジロミズナギドリの様子を少しご紹介します!

繁殖地で求愛行動をするウスハジロミズナギドリ(オエノ島 2018/11/12)
巣立ち間近のウスハジロミズナギドリ(オエノ島 2018/11/12)

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