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消えた猫の正体 【ゆるっとリレー小説1年A組|書く部スピンオフ・第15話】

以下、こちらの企画に参加しています。


時は遡り…

「好きです。俺と付き合ってくれますか?」

「…あたしも、啓太が好きです。よろしくお願いします。」

屋上の心地よい風が、灰色の猫のスカーフを揺らした。水晶玉のような綺麗な瞳に、陽子と啓太が見つめ合う姿が映る。

「よかった…。こっちの未来で、一緒に皆既月蝕みれるね。」

夕陽を浴びて、だんだんとオレンジ色の猫に変わる。
徐々に身体が消えていくのがわかった。

赤いスカーフだけを残して

****************

あの日、あの時、宝箱を開けてもらって、あたしは啓太に告白するつもりだった。そして、「今度の皆既月蝕、いっしょに観たい」と伝えたかった。

仲の良いケンカ仲間のようなポジションから抜けたくて。2022年に一緒に観れなかった後悔を、無駄にしたくなかった。

でもなんとなく言い出しづらかった。「今日の放課後、部室で待っている」と書いたものの、それを渡せないまま、放課後になってしまった。

ありがたいことに、なぜか啓太は部室にいた。話を切り出しにくくて、あえてさっき書いたメモを渡した。

「机の中に入れておくとか、そういうのはないのかよ」
「まどろっこしくない?そういうの」
「待つと指定した場所で手渡す手紙の意味は?」

いつものようなやりとり。あたしはカラカラと笑い声をあげた。照れ臭いのを誤魔化すために。

あたしが笑いを止めて押し黙り、覚悟を決めたその時、

「おっ、おふたりさん、仲良いね〜」

部室に入ってきた信吾が、あたしたちを茶化してきた。

「べ、べつにそんなんじゃないよ。」

「そうよ。誰が啓太なんかとっ」

「陽子のことは、男にしか見てないし」

その言葉を聴いて、啓太を見つめた顔が、真顔になってしまった。やばい、涙が出てくる。バレたくなくて、あたしは部室を出て、階段を駆け下りて、そのまま学校を飛び出した。

「陽子、危ない!」

キキーー!

振り向くと、啓太が倒れていた。あたしは啓太に駆け寄った。

「どうして…」

「…今年は、赤い月をいっしょに観ようっていいたかったんだ」

啓太が手に握りしめていたのは、皆既月蝕の写真と、2つの実だった。
あたしは、写真を見た。日付は、2022年11月…。

「啓太もみてたんだね。」

啓太はただ微笑んで、そのまま静かに目を閉じた。手にあった実が、ころんと音もなくアスファルトに転がった。

…それから7年の時が経ち、あたしは今、看護師として働いている。ずっと眠ったままの啓太を見守りながら。

他人ひとの生命に寄り添うこの仕事は、天職であり宿命だと思っている。やりがいもある。だけども、時には、心が苦しくなる。過去に戻りたいと思うことがある。

あの日、あの時、あの場所に…。

2032年10月19日。病室の窓から夜空を見上げると、月がすっかり地球の影に包まれたところだった。白かった光は消え、赤く染まった姿だけが静かに浮かんでいた。

その瞬間、柔らかな光が体を包み、心がふわりと宙を舞った。次の瞬間、世界がざわめき、時間の糸が逆巻くように引き戻されるのを感じた。意識は、高校時代のあの校舎へ――。

目に映ったのは、柔らかそうな猫の手と、赤いスカーフ。気がつけば、あたしは7年前のあの場所に立っていた。

2025年、あの時、信吾が来なかったら…。あの時、あたしが飛び出さなかったら…。

あと10分でも校舎にいたら…。

こっちの未来は、変わるかもしれない。
まだ間に合う。柔らかな手足で、あたしは全力で駆け出した。


この小説に登場する灰色の猫さんは、こちらのイラストにインスピレーションを受けて書きました。

作画:春永睦月さん(AI作画) 


アンカーは、凪砂 いるさん!よろしくお願いしま〜す!


前回までのお話は、こちらからご覧いただけます。


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