エンジェル税制、うちの会社は対象?設立年数別の要件を税理士が解説
「エンジェル税制って使えますか?」
エンジェル投資家との面談で、この質問はほぼ確実に出ます。投資家にとってエンジェル税制は、投資額の一部(場合によっては全額)を所得や株式譲渡益から差し引ける大きな税優遇。同じ500万円を出資するなら、税制が使える会社のほうが投資家の実質負担は軽くなります。つまり「使えます」と即答できるかどうかは、資金調達の競争力に直結します。
ところが、エンジェル税制の解説記事は投資家向けがほとんどで、会社側(株式を発行するスタートアップ側)が自社の適用可否をどう判定するかは、意外と整理されていません。要件は設立年数によって細かく分岐するため、「うちは対象なのか」がパッと分からないのです。この記事では、会社側の目線で要件を順番に確認できるように整理します。
※本記事は2026年6月時点の制度に基づく一般的な目安です。エンジェル税制は毎年のように改正が入るため、実際の適用判断は最新の公表情報と専門家への確認のうえ行ってください。
大前提:税優遇を受けるのは投資家、動くのは会社
最初に押さえたいのは、エンジェル税制の構造です。税金が安くなるのは出資した個人投資家ですが、要件を満たすことの証明と都道府県への申請は、会社側の仕事です。会社が対象要件を満たし、確認書を取得して初めて、投資家は優遇を受けられます。
だからこそ「投資家側の制度だから関係ない」ではなく、調達を考える会社こそ自社の適用可否を把握しておく必要があります。
ステップ1:まず3つの「足切り」要件
細かい要件に入る前に、次の3つでふるいにかけます。1つでも外れると対象外です。
未上場の株式会社であること(合同会社は対象外)
風俗営業等に該当する事業を営んでいないこと
設立から10年未満であること(優遇の種類によってはさらに短く、5年未満)
ここを通過したら、次は設立年数別の「中身」の要件です。
ステップ2:設立年数で変わる「事業の中身」の要件
エンジェル税制は「若くて、成長に向けて挑戦している会社」を対象にする制度です。それを測る基準が設立年数ごとに用意されています。自社の年数のところだけ読めば大丈夫です。
設立1年未満
事業年度を一度終えているかどうかで要件が変わる、いちばん分岐の細かい層です。目安としては、研究者や新事業活動に従事する人が2名以上いて常勤役員・従業員の10%以上を占める、あるいは試験研究費等が出資金の30%を超える見込みがある、といった基準が使われます。この層は判定が複雑なので、専門家に確認しながら進めるのが安全です。
設立1〜2年未満
次のいずれかに当てはまれば中身の要件はクリアです。
営業キャッシュフローが赤字(先行投資フェーズ)
売上高が前年比25%超で成長している
試験研究費等が収入金額の3%超
「赤字でもOK」という点に驚かれる方がいますが、むしろ先行投資で赤字の会社こそ想定されています。
設立2〜5年未満
試験研究費等が収入金額の3%超、または
売上高が前年比25%超で成長している
このどちらかを満たせばクリアです。
設立5〜10年未満
試験研究費等が収入金額の5%超であることが必要です。なお、この層が使えるのは後述の「優遇措置B」のみになります。
ステップ3:株主構成の要件
事業の中身を満たしていても、株主構成で外れるケースがあります。チェックすべきは主に2つです。
特定の株主グループ(同族・関連を合算)の持株が6分の5(約83%)以下であること。創業者とその家族でほぼ100%持っている会社は、ここで引っかかることがあります。後述のプレシード・シード特例を使う場合は、この基準が20分の19(95%)まで緩和されます。
大規模法人グループからの出資が、1社(1グループ)で50%以下、合計で3分の2未満であること。大企業の子会社的な資本構成だと対象外になります。
このほか、資本金や従業員数が中小企業の範囲に収まっていることも前提になります。
どの優遇が使えるか——3つのメニュー
要件を満たした場合、投資家が使える優遇は主に3つあり、どれに当たるかも会社の設立年数で決まります。
優遇措置A(設立5年未満):投資額から2,000円を引いた額をその年の総所得から控除。上限は総所得×40%と800万円の低い方。
優遇措置B(設立10年未満):投資額の全額をその年の株式譲渡益から控除。上限なし(課税の繰延べ型)。
プレシード・シード特例(設立5年未満):投資額の全額を譲渡益から控除し、取得価額20億円までは原則非課税。20億円を超える部分は繰延べ。なお令和7年度改正で、令和8年1月以降の取得分には保有期間の要件が加わるなど条件があるため、「20億円まで必ず非課税」と断定はできません。
投資家に説明するときは「うちはA・B両方使えます」「特例の対象です」とメニューまで示せると、出資判断の後押しとして強力です。
「対象」と分かったら——確認申請は時間との勝負
要件を満たしていそうなら、次は本店所在地の都道府県への確認申請です。ここで実務上の注意がひとつ。申請書類は事業計画や株主名簿など多岐にわたり、審査には通常1〜2ヶ月、確定申告前の繁忙期には3ヶ月近くかかることもあります。投資家の確定申告に間に合わなければ、せっかくの優遇が使えません。
エンジェルからの調達を予定しているなら、出資が決まってから調べるのではなく、調達活動を始める前に自社の適用可否を確認しておく。これが会社側の正しい段取りです。
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