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【八〇〇文字の短編小説】期待の大型新人現る

初めての出勤に手が震えた。まだ揃えて間もないスーツの袖に腕を通すと、これから社会人になるのだ、という自覚が自分の中で大きくなるのを感じた。勤務地は都心だったため、アパートを借り、一人暮らしを始めた。鏡で身だしなみを整え、冷蔵庫からコンビニで買ったサンドイッチと野菜ジュースを飲む。これまで実家で食べていた温かいご飯と味噌汁の温かさが朝の緊張をほぐしていたことに気づく。冷たいご飯はこれから始まる生活への序章のようにも感じた。

前日に用意していた鞄を手に玄関へ向かう。革靴を履いて一息つくと、昨日の友人たちが開いてくれた壮行会を思い出す。

『おまえはおれたちのほこりだ』

社会人という称号は学生期間を終え、社会に出てから使われる。ここから僕は社会人となる。友人たちはそのまま地元に残り、自然人として生きていく。自然人とは言葉通り自然に生きる人々だ。

『まさかおれたちのなかにしゃかいじんがうまれるとはなぁ』

『しゃかいじんがうまれたむらってゆうめいになるで』

友人たちは身長百四十二センチも満たない。対して僕は百七十センチもあった。友人たちは仕事をする能力を持っていない。今地球には数万人しか社会人が存在しなかった。

「緊張するな……」

扉を開けると複数のドローンがフラッシュを焚きながら僕の姿を写した。スピーカーから音声が流れ出す。

──新社会人になる気持ちをどうぞ! 

「えーと、ドキドキしますが、自分にできることを一生懸命頑張ろうと思います」

宙に浮かぶモニターに映った人たちが画面の向こうからしきりに頷いたり、立ち上がり拍手を送っている。

そして右上にはこう書かれていた。

『期待の大型新人現る』

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